第591話 リクの結論は力押し



「エルサにも協力を頼むんだけど……」

「私なのだわ?」

「うん。俺がまず自分を結界で包む。これで這って進んでいる間にエクスブロジオンオーガが来ても大丈夫」

「そうだな。エクスブロジオンオーガに、リクの結界が破れるとは思えん」

「それで自分の身を守りつつ、もしエクスブロジオンオーガと遭遇したら、そいつを結界で包んでもらおうと思うんだ。俺よりも、エルサの方が細かい事は得意だろうからね」

「リクは魔力に振り回され過ぎなのだわ。最近は少し慣れてきているみたいだけどだわ」

「ふむ……協力して別々に結界を張る事で、私達にも鉱山にも爆発による衝撃を与えない、という事か」

「そういう事。まぁ、エクスブロジオンオーガが退く事はないだろうから、その後は力比べになるだろうけどね」

「相手は狭くとも、小さい体で自由に動ける。こちらは這って進んでいる以上、自由には動けないか……本来なら不利過ぎて試す気にもならんが、リクなら押せるか?」

「試してみないとわからないけどね。細かい事は苦手でも、力には自信があるよ」

「仕方ないのだわー、ちゃんとおやつのキューをくれたらやるのだわ」

「ははは、わかったよ」


 俺が考えたのは、結界でお互いを包む事。

 エクスブロジオンオーガの方は、細かく調整できるだろうエルサに頼んで、俺は自分達を包む事を考える。

 向こうが複数体で来たり、体や動きに合わせて結界の形を変えるのは、俺には不向きだろうしね。

 自分にならまだしも、相手は魔物でどういう動きをするのかわからないし。


 そして、爆発の衝撃を伝わらないのと身を守る事を両立させながら進む方法だ。

 結局のところ結界同士がぶつかって押し合いになるのは簡単に想像できるけど、そうなったら俺が頑張って押せばいいだけの事。

 エルサと契約する前はそうでもなかったけど、今の俺は力自慢にも負けないくらいみたいだしね……フォルガットさんにも楽々勝ってしまったし。

 相手がオーガで力自慢な魔物だから、保証はできないけど多分大丈夫な気がしてる。


 さすがに、数十体並んで押されたら駄目だろうけど、そこまでのエクスブロジオンオーガが一度に出て来るとは考えにくいしね。

 結界を挟んで、俺とエクスブロジオンオーガの力比べってとこかな。


「それでは、明日は今まで以上にエクスブロジオンオーガの観察、そして穴の先の調査だな」

「うん、そうだね。あ、そういえばソフィーが聞いた気になる話って言うのは?」

「あぁ、そちらがまだだったな。私の方は、特に肌の色だのと言うのは聞かなったが、物音の事は聞いたな。まぁ、怖がらせるだけのような内容だったから、単なる噂なのだろうと思っていたが。それとは別にな、変な男の話を聞いた」

「変な男……? それって……」

「なんでも、リク程ではないが、若い男がふらりとこの街にやって来て、鉱夫の仕事を求めたそうだ。他の鉱夫と違って、体つきは平凡だったから、本当に仕事ができるのか訝し気に見ていたそうだ」


 この話って……鉱夫組合でも聞いた話だよね?

 あっちではひ弱とか言われてたけど。

 まぁ、ガタイのいい鉱夫さん達から見れば、平凡という事がひ弱に見えるのかもしれないけど。


「その男はあまり人付き合いをする方ではなかったそうだが、ある時エクスブロジオンオーガの出現を予言するような事を言ったらしいんだ」

「予言?」

「正しくは、名前は知らないが鉱山に出る珍しい魔物の話、だな」

「……やっぱり。その話、鉱夫組合でも聞いたよ。名前はしらないけど、エクスブロジオンオーガだと思われる魔物の事を、なぜか知っているんだったよね?」

「なんだ、リクも聞いていたのか。その通りだ。その男は、始めからこのブハギムノングの鉱山に、エクスブロジオンオーガがいるというのがわかっていたような口ぶりだったらしい」

「そうそう。それでいつの間にか姿を見なくなったって話しだね」


 ソフィーの方でも、妙な人物の話は聞けたらしい。

 まぁ、鉱夫さん達は力仕事なのが影響してか、ほとんどヴェンツェルさん程とは言わなくとも、筋肉質でガタイがいいから、その中でもほっそりした人というのは目立つ者なのかもしれない。


「俺も、その人の事が少し気になって、鉱夫組合で聞いてきたよ」

「リクもか。なぜかはわからないが、私もこの話を聞いた時妙に気になったな」

「うん。えっと……ひ弱に見える男性が、他の街から仕事を探しに来て、鉱夫として働きたいと言ってきた。それから……」


 ソフィーとお互い、話に出て来た男性の話をする。

 俺が鉱夫組合で聞いた話とソフィーが聞いた話では、細かな部分が違ったりもしたけど、それは視点が違えば感想も違う……といった程度で、同一人物とみて間違いがなさそうだった。


「あと、いつも一人でいる事が多かったらしいな。同じ場所で働く者達とも、ほとんど一緒にいる事がなかったそうだ」

「そうらしいね。で、仕事中の雑談とかで、時折鉱山の奥を見ながらエクスブロジオンオーガの話をしてたりしてたみたいだね」

「あぁ。名前までは知らなかったらしいが、珍しい魔物と、鉱山に出る事。もし出たら採掘どころではなくなる……などとも言っていたらしい。他の人間は、もしもの事を考えて怖がっていたとみていたようだが……」

「名前まで知らなくとも、採掘が滞ったりするかもしれない相手を知っていて、それでここまで働きに来るかな?」

「そこはなんとも言えんな。余程、お金に困っていた事情でもあるのかもしれん。まぁ、なんにせよ怪しい人物がいたという事だな」

「そうだね。さすがに姿が見えないからと言って、鉱山内にずっと潜んでいるなんて事はなさそうだし、話しを聞く限りだとエクスブロジオンオーガに対してまともに戦えそうにもないしね」

「あぁ。怪しいが、今気にする必要はないかもな。何かを探っていたのかもしれないが……ともあれ、今頃きっとどこか別の街にでもいるのだろう」


 話を聞いた限りだと、戦えるような人物ではなかった。

 エクスブロジオンオーガ自体はさほど強くない魔物とはいえ、それでも戦いができない人が遭遇したら危険だ。

 しかも、鉱山内には多くのエクスブロジオンオーガが徘徊していて、いつ遭遇するかもわからないからね。

 そんな危険な鉱山の中に、わざわざ潜む事はできないだろうし、そうする理由もない。


 憶測でしかないけど、やっぱりフォルガットさん達の言うように、エクスブロジオンオーガが出た事で仕事にならないと判断して、他の街へと去って行ったんだろう。

 俺からすると、そうならそうでちゃんと話してからいなくなればいいのに……と思うけど、考え方は人それぞれ……と言えるのかな?


「とりあえず、私が聞いた話はこれくらいだな。どちらにせよ、先日発見した穴の奥へは行ってみないとな。……無理はするなよ?」

「大丈夫だよ。危険が大きい事は、俺もしたくないからね。もしエクスブロジオンオーガが多過ぎたり、穴の向こうへ行けないと判断したら、また別の方法を考えるよ」

「まぁ、リクは大丈夫なんだろうがな。ともあれ、私もエクスブロジオンオーガと遭遇したら、よく観察してみる事にするか」



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