第590話 ソフィーとの会議



「うむ……やはり気持ち良いな……」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。けど、まだ寝ないでよ?」

「もちろんだ。聞き出した情報も話し合わないといけないからな」


 気持ち良さそうに声を出すソフィーには一応注意したけど、エルサとは違ってそのまま寝る事はなさそうだ。

 いつも髪を束ねている事が多いソフィーだけど、風呂上がりだから真っ直ぐおろしている。

 その長さはモニカさん以上だ。

 剣を扱う事に関して真剣なソフィーにしては、長い髪のままにしているのは動きづらくないかと思わなくもないけど、本人がそうしたいのだろうから、特に何も言わない。


 髪は女の命……とも言うからね。

 ただ、体の小さいエルサよりも少々乾くのが遅いくらいか。

 本人はその分長く温風を感じていられるから、満足そうな雰囲気が背中越し伝わってくる気もするけども。


「それで、リクの方は何か聞けたか?」

「あ、あぁ、うん。一応ね。有力と言えるかは微妙だけど、気になる事は聞けたよ。ソフィーの方は?」

「私の方も似たようなものだな。少し気になる話はあったが、有力な情報と断定はできない」


 ゆっくり髪全体に風が行くように調整していると、ソフィーから話を切り出される。

 風に当たりながら、自分で髪を撫でつけたり手で梳いたりして、乾かしているソフィーを見ていると、微妙に真面目な話をする雰囲気でもない気がするけど、ちゃんと話をしてかないといけない。

 とりあえず、鉱夫組合で聞いた妙な物音と、エクスブロジオンオーガに関しての話をソフィーにする。

 ソフィーの方も気になる情報は聞けたみたいだけど、まずは俺から話した。


「音、か。それは、遠くからの反響音だったりはしないんだな?」

「うん。壁の向こうから聞こえたって言ってたね。誰も作業をしていないような時にも聞こえたって言ってたから、多分間違いないんだと思う」

「そうか。だとすると、何者かが壁の向こう……今は穴の向こうにいる可能性が高いな」

「そうだね。穴が開く前に、どうやって壁の向こうに行ったのかはわからないけど、誰かがいるのかもしれない。まぁ、ただエクスブロジオンオーガがいたというだけかもしれないけど」

「そうだな」


 俺が聞いた話を説明し終えるまでに、ソフィーの髪を乾かし終えて、今は地図を置いたテーブルの向かいに座っている。

 一応地図を広げて、位置を確認しながら話しているけど、何度も見たためか当たらしい発見は今のところない。


「リクが聞いたという、エクスブロジオンオーガの肌の色というのは気になるな。私が見たのは赤みがかっていて、緑というのはいなかったはずだが……」

「俺の方もそうだよ。何かの理由で肌が変わったんだろうと思うけど……急に肌の色が変わる魔物っているのかな?」

「……いなくはないな。ただ、大体が興奮状態になったからとか、魔法を使うために魔力を溜め込んだりしたからだったはずだ。戦闘にすらなっていないのに、急に肌の色が変わったりするとは思えん」

「そうだよねぇ……」

「そういえばなんだがな、リク。広場で別れて戦った時の事で一つ思い出した事がある」

「ん、どんな事?」


 エクスブロジオンオーガの肌の色という事に関しては、ソフィーと二人で首を傾げる。

 実際に肌の色が変わる魔物もいるみたいだけど、何もしていない状況で変わる事はないみたいだし、そもそもエクスブロジオンオーガがその性質を持った魔物じゃないはず。

 もしかしたら薄暗い鉱山内で見た事だから、鉱夫さん達の見間違いなのかも、と考え始めた辺りでソフィーがふと思い出したように言った。

 広場で別れて戦ったってのは、俺が穴から出て来る奴を相手にして、ソフィーは別の道から近付いて来るエクスブロジオンオーガを相手にした時の事だね。


「あの時、数体のエクスブロジオンオーガと戦ったのだがな? とりあえず手っ取り早く無力化するために、足や腕を斬り落として動けなくしたんだが……その時にな……」


 多対一での戦闘だと、確実に止めを差している余裕がない事が多いので、まずは無力化させる事を優先したんだろう。

 エクスブロジオンオーガは動きが遅いし、素早い動きをするソフィーならその方がやりやすいのかもしれない。

 止めを刺している間に、別の方から攻撃されたりもするからね。


「完全に動けなくなったエクスブロジオンオーガのうち一体が、他と同じように爆発したんだが……赤く光らなかったような気がするんだ。戦闘中なので、その一体を集中して見るわけにもいかないから、気がする程度なんだが。もちろん、斬り離した部位も爆発していた」

「光らない……か。確か、爆発する時はほとんどほんのり赤く光っていたと思うけど。けど、やっぱりフィネさんから聞いた情報とは違って、斬り離された部分も爆発してたよね」

「そこはそうだな。間違いない」


 戦闘中だから、一体が光った光らなかったというのを注視するのは難しい。

 確実ではないけど、光らなかったかもしれないのか……。

 爆発する瞬間に光るのは、ほんのりとだけだし、その直後に爆発するのだからすぐに見えなくなる。

 光ってから爆発するパターンと、光らずに爆発するパターンとがあるかもしれないけど……それがどう条件に関わってくるのかがわからない。


 斬り離した部分も結局爆発していたようだし……フィネさんから聞いた情報とはやはり違って来る。

 ちなみに、フランクさん達との話はさっき組合で聞いた話の説明の時と一緒に、伝えてある。

 やっぱりソフィーも、俺と同じく意思での爆発以外に何か条件があるのかもと考えたみたいだった。


「ん……光るのって赤かったよね?」

「まじまじと観察したわけではないが、確かに赤く光っていたはずだな。弱々しい光で、ともすれば見逃す程度だが」

「で、エクスブロジオノーガの肌がいつのまにか赤くなっていた……もしかすると、意思の力で爆発するという事以外に、条件と繋がっている可能性はないかな?」

「どうだろうな……? 肌の色が赤くなる事で、本来とは違う条件で爆発するようになるとは思えんが……だからと言って、否定はしきれん」

「話せば話す程、謎が深まるばかりだねぇ……とにかく明日、もう一度鉱山に入って、エクスブロジオンオーガと戦って見よう。もちろん、主目的は穴の向こうを探索する事だけど」

「そうだな。……リクの事だ、穴を通過するのは危険だとわかっていても、何か方策があるんだろう?」


 光る事と肌の色に関係性があるのかどうか……。

 わかるようでわからない状況になり、話し合っていても答えは出そうになかった。

 とりあえず、明日以降はこれらの情報をもとにもう少ししっかり観察すると決めて、穴の奥へ向かう事にしよう。

 ……爆発する時って、エクスブロジオンオーガの体がバラバラになるって事だから、あまりマジマジとは見たくないけど……これも情報を得るためだから、仕方ないね。


「方策と言えるのかわからないけど、方法は少し考えてるよ」

「その方法とは?」


 穴に関しては、エクスブロジオンオーガがどういった条件で爆発するのかわからないため、俺達を結界で包むだけじゃ危険だ。

 俺達は無事でも、衝撃が鉱山に伝わってしまうし、狭い穴での事だから通ろうとしている穴が崩落で崩れてしまってもいけない。

 だったら、エクスブロジオンオーガの方も、結界で包めばいいんだと考えた――。



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