第587話 不審な物音



「えぇ。なんでも、適当に道を進んでいたら、見覚えのない場所に出たらしくて。その時、人の手が入っていない穴を発見したそうなんです。その手前には大きく開けた場所があったんで、とりあえずそこで休もうとしたら、穴からエクスブロジオンオーガが出てきたので、焦って逃げ出したと」

「手前に開けた場所……リクが地図で示している場所とも一致するな」

「はい。確かに数人いても余裕がある広場のような場所がありました」

「まぁ、その迷った奴は発見された時酷く混乱してましてね。エクスブロジオンオーガと遭遇しただけならまだしも、湧いて出てきたなんて言うもんですから、迷った事で不安に駆られての事だと皆思っていたんです。まだ、エクスブロジオンオーガが多くないと思われていた頃でしたから……」


 成る程ね……その迷った鉱夫さんというのは、俺が酒場で聞いた情報源の人の事なんだろう。

 エクスブロジオンオーガが発見されてはいたけど、まだ多くいるとは思われていなくて、大量に湧いて出たなんて与太話なんて思われてしまったんだろう。

 だから、大きな事だとは思われず、ただ鉱夫さんが迷ったけど無事だった……というだけで、終わった話になっていたんだと思う。

 俺達が行った時に出てきたエクスブロジオンオーガは、人の通れない穴を通って多くの数が移動して来ていたので、見ようによっては湧いて出てきたようにも見えるからね。


「リクの言う事と、その迷った奴が言う事が正しいのなら、怪しいのはその穴の先か……大きさは?」

「人が這って行くくらいが限界だと思います。エクスブロジオンオーガの大きさならまだしも、人間だと屈んで移動するのも厳しいと思います。どれだけの長さかもわかりませんでしたし……」

「そうか……リクでその判断なら、鉱夫達が楽に移動できる穴ではなさそうだな」


 穴の高さは大体一メートルと少しくらいで、エクスブロジオンオーガが少しだけ余裕を持って入れるくらいだった。

 俺なら、屈んで入れなくもないだろうけど、それで移動するのは中々厳しい。

 フォルガットさんが言うように、ガタイも良くて俺より大きな鉱夫さん達ならなおさらだね。


「それで、一度戻って地図を確認したのですが……穴の裏に回れるような道は描かれていませんでした。もしかしたら、あの穴の先に何かがあるのかもしれないので、調べてみようと思うのですが……その前に誰か知っている人がいないかと……」

「そこで、鉱山に詳しい俺達にか。ふむ……俺はここらを調べた事はないからわからないが、他に誰かわかる奴はいないか?」

「そうですねぇ……実際にこの広場まで行った事は、以前にあります。地図にはまだ描かれていませんが、そこに繋がる道が他にもあったはずです」

「あぁ、確かに他にも道がありました。えーと、入り口からだとこの細い道を通るのが近道なんですが、こちらの方に繋がっている道があって……そっちは数人が並んで歩けるくらいの道でしたよ」

「ふむ、道を作っても、まだ地図に描かれていないという事は、新しい道だな。もしかすると、エクスブロジオンオーガが出た問題で、後回しにされていたのかもしれん」


 穴の奥は地図だと空白になっている場所だ。

 あの穴がどれだけの長さがあるかはわからないけど、その周囲には坑道があったり採掘場所になっていたりするのだから、何か知っている人がいてもおかしくないからね。

 詳しく調べてみないとわからないけど、穴の奥には大きめの空間がありそうくらい、周囲の道は離れているから、もしかしたらそこに何かがあるんじゃないかという予測。

 ……調べてみたら、結局何もなくてた偶然エクスブロジオンオーガの通り道に使われていただけかもしれないけどね。


 フォルガットさんは、その場所の事に詳しくないらしく首を傾げて他の鉱夫さん達へと聞く。

 集まった鉱夫さん達のうち、一人の鉱夫さんが付近の事を知っている様子だった。

 確かに、広場には別の場所へとつながる道があって、そっちはソフィーが行って近付いて来るエクスブロジオンオーガを倒したんだったね。

 あの道は余裕を持って歩ける広さがあったし、言われてみれば他よりも照明が明るいようにも感じたから、最近できた新しい道なんだろうと思う……言われてみれば、程度の感覚だけど。

 エクスブロジオンオーガの問題もあるから、地図へ反映されるのが遅くなっていたんだろう。


「……不確かな事なんですけど、いいですかい?」

「今はなんでも情報が欲しいところだ。丁度皆が集まっているのもあるしな、リクが考える材料にもなるだろう。言ってみろ」


 難しい顔をした鉱夫さんが、フォルガットさんを窺いながら聞く。

 通常なら、そんなはっきりしない情報はちゃんと確かめてから、というのが正しいのかもしれないけど、今は何かヒントのようなものが欲しいくらいだから、不確かでも構わない。

 フォルガットさんも頷いて、鉱夫さんに先を促した。


「その付近を担当する鉱夫達の間で、噂がありまして。……夜な夜な、壁の奥から引っ掻くような、何かをぶつけるような、物音がするのだと」

「物音?」

「えぇ。夜な夜なというのは、噂が膨れてそうなったんでしょうが……ともかく、その物音というのは確かにするんです。時間を問わず。ただ、音がしない事もあって……」

「誰から、別の場所で何かをしているとかじゃないのか? 坑道内は音が響くだろう。別の所から反響したとは考えられないか?」

「始めは俺もそう考えて気にしていなかったんですが……俺が点検のため、補佐を付けてこの広場付近へ行った時の事なんですがね? 時間としては採掘をしているような時間でもないですし、実際他の場所で誰かが作業をしているなんて事はありませんでした。それなのに、聞こえるんですよ……何か硬い物をぶつけるような音が。それに、壁を引っ掻くような音も……」

「……よく聞く話ではあるな。鉱山の事故に巻き込まれた奴が、魔物になって生き返り、以前と同じように行動したせいで、本来あるはずのない音や作業がされている……といった類の話だ」

「俺もそういった話は聞いた事がありますし、その時も壁の奥からだったんで気のせいと自分に言い聞かせたんです。ですけど、もし開いた穴の奥に何かが……エクスブロジオンオーガが出て来る原因のようなものがあると考えたら……」

「怪しくも思うか……どうだ、リク?」

「えーと……」


 なんだろう、急に怪談話になったような?

 話をまとめると、他で誰かが作業しているわけでもないのに、壁の奥……地図では空白になって何もないはずの場所から音が聞こえる。

 夜な夜なというのは噂に尾ひれが付いてできた話だけど、昼夜関係なく聞こえると。

 幽霊見たり枯れ尾花というのは聞いた事があるけど、それと似たようなものだろうか?


 とりあえず、この世界では幽霊という考え方ではなく、魔物になるという事がわかったけど、それはどうでもいい事か。

 ゴーストも霊体とかではなかったし、ゾンビの方が近いのかもね。

 とりあえず少しだけ今の話を考え、フォルガットさん達に顔を向けて答えた。



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