第586話 鉱夫組合での話し合い



「さて、とりあえず私はこの荷物を持って宿へと先に行っておく」

「一人で大丈夫? 俺も一緒に運ぼうか?」

「大丈夫だ。大きいだけで、重いという程でもないからな。それに、宿へ荷物を置いたら私も情報収集をするつもりだからな。酒場あたりなら、酒で気分が良くなった鉱夫達から何か聞けるかもしれないしな」

「わかった。それじゃ……夕食は別々の方がいいかな? また夜に話し合おう」

「そうだな。ルジナウムの街でリクが聞いた情報とやらも聞かないといけないしな」


 ブハギムノングの街に到着し、入り口でソフィーと話す。

 大きな荷物を持ったままだと邪魔になるからね。

 手伝おうとしたけど、大した重さではないとソフィーには断られてしまった。

 そこから、別々に情報収集する事にして別れた。


 多分、俺に気を使ってくれて、酒場にいる鉱夫さん達から情報を聞き出そうとしてくれてるんだろう。

 鉱夫さん達から話を聞く時、断ってもお酒を勧められたりするかもだし、お酒に酔って失敗してるから、俺がいない方がいいだろうからね。

 ソフィーに感謝しながら、大きな荷物を運ぶ後ろ姿を見送った。


「じゃあ……とりあえず、鉱夫組合に行くかな」

「あそこなのだわ? ……ちょっと暑苦しいのだわ」

「ははは、まぁ鉱夫さん達が集まってるからね。そこは我慢しないと」


 とりあえず、鉱夫さん達から話を聞くため、一番人が集まってそうな鉱夫組合に行く事に決める。

 採掘が滞っているから、もしかしたら人は少ないかもしれないけど、フォルガットさんに頼んだら集めてくれるかもしれないしね。

 フォルガットさんからも、話を聞いておいた方がいいだろうし。

 暑苦しいと言って、少し嫌そうなエルサを頭にくっ付けたまま、足を鉱夫組合へと向けて移動を開始した。


 そういえば、エルサはヴェンツェルさんが少し苦手だったっけな。

 嫌だとかそういうわけではなく、筋骨隆々とした男らしさというか、暑苦しさが苦手なようだから、ガタイのいい鉱夫さん達の集まる組合が苦手になるのも、仕方ないのかもしれないね。

 まぁ、エルサには我慢して頭にくっ付いていてもらおう。


「すみませーん!」

「はーい! ――リク様!? 今日はどうされたので……まさか、もう魔物発生原因を掴んだとかですか!?」

「いえいえ、さすがにまだわかりません。とりあえず、今日は話を聞きたいと思いまして……」


 鉱夫組合に入り、以前来た時と同じように誰もいないカウンターの奥へと向かって声を掛ける。

 奥でパタパタと騒がしい足音と返事が聞こえて、前回も話した受付の女性が出て来て驚かれた。

 さすがに広大な鉱山を、この短期間で調べ尽くす事なんてできないから、まだ調査を終えられていない事を苦笑しつつ伝えて、フォルガットさんや組合に来ている鉱夫さん達を呼んでもらった。


「それでリク、俺達に聞きたい事ってのはなんだ? 調査の方は、まだ終わってないらしいが……」

「親方はリク様が来てくれたから、鉱山はもう大丈夫。あと少しの我慢だって言ってるくらいですから!」

「う、うるさい! あれはあいつが、リク様だの英雄様だのとうるさいからだな……」

「だって、国を救った英雄ですよ? 鉱山の問題なんてあっさり解決しそうじゃないですか?」

「あははは……まぁ、調査は一応進展がないわけじゃないと思いますけどね。とりあえず……えっと、借りた地図は宿に置いてあるので、予備の地図とかはありますか?」

「おぉ、あるぞ。地図は全員じゃないがある程度持って行けるように、いくつか複製させてるからな。ちょっと待ってろ」


 集まった鉱夫さん達は、フォルガットさんを含めて数人。

 ちょうど組合に来て話し合いをしていたところだったらしい。

 どの人も相変わらずというのか、この街の鉱夫さんらしく筋骨隆々。

 それなりに年齢を重ねているようで、多分それぞれが担当箇所での現場監督さんのような雰囲気だ。


 多分、自分達が担当している場所に関しての情報共有のために、組合に来ていたんだろうと思う。

 前回来た時とは違い、建物の奥にある十人程度が入れる応接室へと案内された。

 部屋には体の大きい鉱夫さん達がいるので、広めの部屋なのに圧迫感で狭く感じるのが少し面白い。

 皆が集まった事を確認してすぐ、フォルガットさんが口火を切るが、年かさの鉱夫さんがからかうように話してくれる。


 多分、見た目では親子以上に年が離れている俺が、鉱夫さん達に囲まれて委縮してしまわないか気遣って、冗談を言ってくれたんだと思う。

 それにしては、少しフォルガットさんが慌ててたし、案内してくれた受付の女性は口をとがらせてたりもしたけど。

 冗談、だよね? ……認められて期待されているんだと思っておこう。

 とりあえず、その話にはあまり突っ込まず、俺が借りている地図とは別の地図を用意してもらうように願いすると、すぐにフォルガットさんが別の部屋から取って来てくれた。

 地図は鉱山に入る人がいつでも見れたり、持っては行ったりできるように、いくつかあるようだ。


「えーと……あった、ここです。ここに、人が一人通るには狭い道ができていました。手前の広場までエクスブロジオンオーガが大量に移動して来るのを確認しています」

「ほぉ……地図には道があるようには描かれていないが?」

「詳しくないのでわかりませんが、素人目に見ても、作られた道のようには見えませんでした。多分、崩落か何かでできた道だと思います」

「そうか。時折、そういう道が勝手にできる事がある。邪魔なら塞いで、活用できそうなら整備したりもするんだが……リクが発見したのはまだのようだな。――おい、知ってたか?」

「いえ、あっしらも見た事は……」

「……ちょっとすいません。ふむぅ……もしかして……?」

「何か、思い当たる事でもあるのか?」


 地図を見て、酒場からの情報をもとにソフィー達と発見した穴を指で示して、フォルガットさん達に伝える。

 あの穴は他の道と違って、断面は人間の手が入っているようには見えなかったし、照明もなかった。

 もし採掘に必要な道だったら、日の光の届かない鉱山内に照明は不可欠だし、せめて人一人分はちゃんと通れる広さにするだろうから、何かしらの理由で自然にできたものだと思う。

 その説明をフォルガットさんにすると、そういった道ができる事もあるようで、発見したら何かしらの処置をするらしい。


 フォルガットさんは、地図から目を離して鉱夫さん達へと聞く。

 ほとんどの人が首を横に振って知らないと言ったのに対し、一人だけ先程フォルガットさんをからかうようにしていた鉱夫さんだけが、首を傾げながら地図へと顔を近付けた。

 俺が示した場所と、そこへとつながる道を見ながら考える仕草。


「いえ……以前の事なんですが、うちの鉱夫が一人鉱山で迷いましてね。その頃にはエクスブロジオンオーガが出始めていたので、心配していたのですが……一応、怪我もなく発見できたんですが、その時そいつが迷い込んだ時、未発見の穴からエクスブロジオンオーガが大量に湧いて出てきたと言っていたんです」

「……エクスブロジオンオーガが?」



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