第487話 ソフィーのお願いと条件
「お嬢ちゃんも、興味があるのかの?」
「お嬢ちゃんではありません、ソフィーです。Cランクで、リクには及びませんが、冒険者をやっているので参考にはしたいと考えています」
「モニカです。私も同じく、Cランクの冒険者です」
「ほぉほぉ、リクが囲っているおなご達かと思ったのじゃが、違ったようじゃの。確かに、言われてみれば物腰が少しは戦う者のそれじゃな」
ソフィーが呟きながら、真剣に聞いている事に気付いたエアラハールさんが、そちらに視線をやって聞く。
後ろで、頷く気配と共に、冒険者であると自己紹介。
そういえば、俺の事は話したけど、ソフィー達の紹介がまだだったね。
部屋に入ってくるなり痴漢を働いたり、エルサを怒らせたりして騒いでたから、忘れてた。
ソフィー達の方も、エアラハールさんから距離を離そうとしてたし、あまり口を出さないようにしてたみたいだから、仕方ないかもしれないけど。
でも、さすがに俺が囲ってる女性っていうのは、失礼じゃないかなと思う。
二人共、ランクだけが無駄に高いけど、不甲斐ない俺と一緒にパーティを組んでくれてる、大事な仲間なんだしね。
「冒険者がリクと一緒にいるという事は、パーティなのかの? 男女混合というのは、珍しいが……」
「はい。モニカさんとソフィーには、いつも助けてもらってますよ。特にモニカさんとは同じ日に冒険者になりましたし、ソフィーは冒険者になる前に、色々教えてくれましたから」
「ふむ。縁があったという事じゃな。それにしても……モニカといったか……」
「……私が何か?」
「……ちょっと苦しいのだわ」
「ごめん、エルサちゃん」
モニカさん達とは、珍しいらしい男女混合のパーティだという事を説明する。
多くの冒険者パーティは、男性同士や女性同士でパーティを組むことが多い。
それは、リリフラワーのような例外はあるにしても、同性が好きとかそういう事ではなく、異性が長時間一緒にいるとトラブルが多い事もあるためらしい。
トラブルが必ず起きるというわけではないけど……異性関係のトラブルなんて、冒険者に限らず珍しい事じゃないし、大体どんなトラブルが起きるか想像できるよね……。
それを避けるようにして、同性パーティを組む人が増えたんだと、マックスさんに教えてもらった。
教えてもらった時には、パーティを組んだ後だったし、唯一の男として気を付けねばと、ちょっとした覚悟もした。
……割とよく一緒に行動してくれるアルネが、同じ男性として嬉しく思ったりしてるのは内緒だけどね。
そんな事を考えていたら、モニカさんの名前にエアラハールさんが何か引っかかったのか、考えるようにしながら、俺の後ろに視線を向ける。
自分へ意識が向いた事で、先程お尻を触られた事を思い出したのか、モニカさんが身を固くして、抱いているエルサを強く抱きしめたようで、小さく苦情も上がっていた。
エルサがいるから、多分大丈夫だとは思うけど、警戒はまだまだ薄れてはいないようだ……あんな条件を出したりしてれば、当然だろうけどね。
「もしかしてなのじゃが、マックスの娘になるのかの?」
「あ、はい。そうです」
「そうかそうか……あの青二才が、こんな立派な娘を育てあげたか! 素晴らしい胸や尻じゃ! マックスにあまり似なくて良かったのう……。お、そうじゃ、マリーちゃんは元気かの?」
「……えっと、母さんは元気に店を切り盛りしてますよ」
エアラハールさんは、モニカさんがマックスさんの娘だと気付いて破顔する。
マックスさんも弟子だったから、モニカさんの名前を聞いていたんだろう。
しかし……さっきまで真剣な雰囲気だったのはどこへやら、いやらしい目つきでモニカさんを値踏みするように見ている……ちょっと微妙な気分だ。
モニカさんの方は、身を縮こまらせて俺の背中に隠れて、エアラハールさんの視線を躱そうとしながら、マリーさんの事について答える。
「そうかそうか。マリーちゃんがのう……よく尻を触って、燃やされてたのが懐かしいわい。あの頃は、細身で美人じゃったが、今も変わらずかの?」
「え? えーと……その……はい、変わらず美人です!」
「子を産み育てても尚美人とは、さすがじゃのう……。いずれまた会いたいものじゃ」
エアラハールさん、マリーさんが美人のままと聞いて、手をワキワキさせている。
マリーさんが美人かぁ……まぁ多くは語らないけど、エアラハールさんが言ってる事が嘘じゃないのはわかるよ、うん。
マックスさんより横幅が大きいような気もするけど、魔物と戦ってる時は身軽に動いてたし、獅子亭の中での動きも素早かったから、多分、俺の目が悪くなってるんだろうな。
後ろにいるモニカさんは、どう答えた物か迷ったみたいだけど、結局マリーさんにバレて怒られないよう美人であるとしておく事にしたようだ。
「マックス達の娘が冒険者になり、同じパーティを組んだ者が、ワシの教えを請うか……中々面白いのう。そうじゃ、嬢ちゃん達……モニカちゃんと、ソフィーちゃんも、手取り足取り教えてやろうか?」
年齢を感じさせるように呟いて、苦笑しているエアラハールさんは、急に表情を変えて、あまり人には見せられないのではないかと思われる笑顔で、モニカさんとソフィーに聞いた。
さっきまでの、俺との手合わせやその後の話で、年老いてもその実力は健在だし、参考になる事が多いのは間違いないと思うんだけど……確実にこれ、また例の条件を要求しようとしてるよね?
いやらしい笑顔で、手取り足取りって……どこのエロコーチかと言いたい。
「……いえ、お断りします。私は剣ではなく、槍を使うので……」
「私はお願いしたい! 先程、リクとの手合わせも見させて頂きましたが、あのリクの攻撃を難なく躱し、反撃に転じた腕前は感服するものがありました。確実に上達するのであれば、この体に触られる程度、なんともありません!」
「ちょっとソフィー? いいの?」
「構わんさ。少し我慢するだけだ。それで強くなれるのなら、問題ない」
「そうかもしれないけど……」
エアラハールさんからの提案に、少しの逡巡で、きっぱりと断るモニカさん。
まぁ、剣と槍じゃ勝手が違うから、例の条件が加わるかどうかとは関係なく、断るよね。
それに対し、モニカさんの言葉を遮るように、座っている俺の横に立って、ソフィーが逆にお願いを始めた。
うーん……ソフィーは訓練とか大好きだし、向上心があるのはいいんだけど……女性としてそれでいいのかな?
聞いたら、戦うためや強くなるために、女性らしい部分は捨ててるとか言いそうだけども……。
実はかわいいものが好きだったり、エルサのモフモフを触りたそうによく見ていたりと、隠そうとしていても、女性らしい部分は多いんだけどなぁ。
エアラハールさんとの初対面で、お尻を触られた時もかわいい悲鳴を上げてたし……おっと、これは聞かなかった事にしないと怒られそうだ。
「……ワシが、体を要求するような物言いじゃな……」
「違うんですか?」
「断じて違うわい! ただ、ちょーっとだけ尻や胸を触ったり、撫でさせてもらえるだけで構わんのじゃ!」
「いや……それ同じような事だと思うんですけど……」
ソフィーの体を差し出すとも聞こえる発言を、モニカさんが止めようと俺を挟んで話しているのを余所に、エアラハールさんが失敬と言わんばかりに、呟いた。
女性の体に触らせとか言うのは、差し出せと言っているのと同義だと思うけど……。
ここが日本だったら、確実にセクハラやパワハラで訴えられそうな案件だ。
……姉さんに言ったら、憤慨してエアラハールさんが捕まってしまいそうだな――。
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