第461話 結界の形



「よし、これで全部魔法具として、しっかり機能するようになったわ。あとは、リクの仕事ね」

「お疲れ様、フィリーナ。でも、俺がずっとついて回る必要があったの?」

「何を言ってるのよ。ガラスにある魔力がリクの魔力で、維持する魔法もリクの魔法なのよ? 一緒にいないと、何かが起こった時に対処できないじゃない」

「対処って……? 俺、魔法具の事はよくわからないんだけど」

「爆発したりすると、大変でしょ?」

「そんな理由だったんだ……」


 魔力溜まりを中央にして、東西南北の四か所すべてを回り、ガラスへの処置を終えたフィリーナ。

 ガラスの安置されている小屋は、全部同じ物だけど、短時間で作った建物にしては、しっかりしていた。

 クラウスさんが頑張ったんだろうと思う……実際に建てた人は別だろうけど。

 フィリーナがガラスにした処置はそれぞれほとんど同じ事で、魔法陣を地面に描き、ガラスに埋め込むという作業だ。

 魔法陣に描かれていた漢字も、変わった部分はないみたいだったね。

 

 そんな中、俺は見ているだけだったんだけど、ずっとフィリーナについて回っていた。

 商店主さん達は見学のためだし、クラウスさんは街の責任者としてだろうけど、俺は必要だったのかと思い、聞いてみた。

 フィリーナから返ってきた答えは、爆発したりすると大変だからという事らしい……。

 俺、緊急事態要員だったんだ……まぁ確かに、ガラスに含まれてる魔力量が多くて、暴走したら大変とかは聞かされてたけども。


 そんな話をしながら、皆の待つ東側の小屋の前へと戻る。

 道すがら、実際には俺の魔力を認識させ、同期させる事が、魔法を維持させる必要があったからと俺にだけ聞かされた。

 さっきのは冗談だったみたいだね……真面目な顔で言ってたから、本気だと思ってしまった。

 ……冗談、だよね?


 俺にはよくわからなかったんだけど、魔法具は本来どんな魔力でも蓄えて放出する性質を持たせるらしい。

 けど、今回は俺の使った結界を維持するために魔力を放出するから、俺の魔力を同期させる必要があったんだとか。

 ガラスが蓄えてる魔力も、元々は俺の魔力だから、作業は簡単だったらしいけども。

 ちなみに、これを商店主さん達に言わない理由は、変に興味を持って弄ったりして欲しくないためだとか。

 魔力同期や認識というのは、魔法具に本来組み込む事じゃないみたいで、興味を持った人が悪さをしたり、研究するために持ち出さないようにとの事らしい。

 そんなに気を付けなくても、ヘルサルにいる人達は大丈夫だと思うけど……多分。



「それでは皆様、リク様による魔法実演です。しかとその目に焼き付けましょう!」

「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」


 皆の集まる小屋の前に戻った後、クラウスさんが大きく声を出して注目させる。

 集まっている人達も、それを聞いて歓声のような声を上げてるし……ちょっとしたお祭り騒ぎのようになってるね。

 一部真剣な目で見てる人がいるから、それだけじゃないんだろうけど。


 というか、パレードの時もそうだったけど、俺の魔法って皆の見世物になる運命なのかな?

 普通の魔法と違って、ドラゴンの魔法という事で、珍しいのはわかるけど。


「リク、大丈夫そうか?」

「リクさん、失敗したらここにいる皆が危険だから、気を付けてね?」

「……大丈夫だよ。結界は何度も使ってるし。大きさとしては、エルフの集落で使ったよりも小さいようだしね」


 皆に注目される中、ソフィーとモニカさんから声をかけられた。

 二人共、相変わらず俺の魔法が失敗したらと、心配そうな表情だけど、今回は失敗する事はないと思う。

 今まで何度も使ってきた魔法だし、大きさもエルフの集落の時に使ったのより、小さめだしね。

 そう考えて言うと、二人は今まで何度か見てきた結界の魔法を思い出し、安心したようだ。


 ……今までよく失敗はしたけど、こういう時にはあまり失敗してないんだけどなぁ、多分。

 いや、パレードの時の花火は、ほとんど失敗だったような? ……まぁ、あれは忘れよう。


「あぁリク、ちょっといい?」

「ん?」


 モニカさん達が安心して皆の所へ下がるのを見送り、結界を使うために集中しようとしたところで、今度はフィリーナから声をかけられる。

 イメージを始め掛けたのを止め、フィリーナへと視線を向けた。


「念のためなんだけどね……できれば小屋も結界で包んで欲しいの」

「小屋を? でもそうすると、中に誰も入れなくなるよ?」

「それでいいのよ。ガラスへの処置も終わったし、もう小屋の中に入る必要はないわ。もし誰かが入ってガラスを持ち出したりしたら、結界の維持が難しくなるの。だから……念のためね」

「……わかった。ちょっと複雑な形になるけど、やってみるよ」

「お願いね」


 フィリーナが言うのは、完全に小屋を結界で包んで誰も入らないようにする事らしい。

 そこまで念を入れなくても……とは思うけど、もしかしてというのは起こり得る事でもある。

 先程の商店主さん達が興味を持って……という事とは別に、よく知らない人だとしても何かの拍子に小屋へ入り込んだりするかもしれないしね。

 念には念を、という事だ。


「クラウスさん……あの……」


 一応、クラウスさんにも話しかけ、小屋を結界で包んで誰も中に入れなくする許可をもらった。

 元々、盗難防止などのため、小屋を補強したりカギを付けたりする予定だったらしく、喜んで賛成された。

 クラウスさんは、「リク様のための物を、ろくでもない者に邪魔させるわけには……」とか言ってたから、問題なさそうだ……ちょっと、目が怖かったけど。

 小屋を結界で包んで誰も入れなくした後、さらに外から補強する事にしたようで、トニさんと話を始めた。

 これなら、結界の維持に問題はなさそうだ。


「んーと、全体を覆うのと繋げて、小屋を囲むように……あ、そうだ」


 ついでだから、雨水を貯めるような器の結界も作ろう。

 川を作るのも手間だし、近くまで川をひくにしても、それまでの間に農業用水を確保するためになるしね。

 それに、全ての水を運び込むのも手間だろうし……全てを賄う事はできないだろうけど、少しくらいは楽になると思う。

 結界自体に必要な魔力量も、大きさが一番影響されて、形を変えるくらいだと大きく変わらなさそうだし。


「じゃあ……入り口付近がいいかな?」

「リク、何か考えてるの?」

「ちょっとね、少し思いついた事があって。とりあえず、結界を使うよ」

「……わかったわ」


 隣で見守っていたフィリーナが、不安そうな面持ちで俺を見る。

 結界の形をイメージしてて、ブツブツ言っていたで気になったようだ。

 不安な表情をしてるのは、俺が魔法を失敗すると考えているからかもしれないけど、形を変えるだけだから特に失敗する事もないはず。

 結界が溶けない限り、雨漏りする心配もないし……うん、大丈夫そうだ。


「……」


 少しだけ、目を閉じてイメージをはっきりとさせる。

 結界をただの壁としてだとか、覆うようにだけでなく、ちょっと変わった形にしないといけないからね。

 近くから、クラウスさんやフィリーナ、ヤンさんの視線を感じ、少し離れた場所からは集まった人たちの視線を感じて緊張しながら、結界を発動させるために意識を集中する。

 パレードの時程、見知らぬ人が多いわけじゃないから、緊張し過ぎる事もなさそうだ。

 しっかりとしたイメージと、練った魔力を変換し、俺は結界の魔法を使った――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る