第446話 エルサをルギネさんに紹介



「……んっ。……なんという瑞々しさと甘さなのか……初めて食べたぞ!」

「珍しい物で、あまり多く作られてないみたいだからね」


 いつの間にか、俺が敬語を忘れて話かけている事も気にせず、スイカの美味しさに驚いてるルギネさん。

 ……向こうもよく俺に向かって叫んだり怒鳴るようにしてるから、大丈夫か。


「……あらぁ? やっぱり、ルギネとリクさんの中は良いわねぇ」

「柔らかいのだわぁ……」

「!?」


 いつの間にか、エルサをモフモフし終わったアンリさんに観察されていたようで、面白い物を見るような目をしながら、声をかけられた。

 ルギネさんは、その声でハッとなるどころか、顔をスイカよりも真っ赤にして驚いてる様子。

 なんだけど……エルサは何故かアンリさんの胸に顔を埋めたまま、恍惚とした声を上げてる。

 確かにアンリさんの胸は柔らかそう……というより、絶対柔らかい事は間違いないと思うけど、あれだけ嫌がってもがいてたエルサが、少しの間に懐柔される程とは……。


「あ、アンリ! これはその……違うんだ! この……スイカというのか? これが美味しくてだな……」

「そうなのぉ? そのわりには、赤くなってるけどぉ?」

「お、美味しさで興奮してしまったんだ!」


 スイカは確かに美味しいけど、さすがに興奮のし過ぎで赤くなる程じゃない……と思うのは俺だけなんだろうか?

 ルギネさんが言う事に、俺もアンリさんも苦笑していたが、すぐに興味をスイカに移したようだ。

 スイカを食べたアンリさんは、ルギネさんと同じように、美味しさに驚いたようだった。


「はぁ……アンリはいつも私を驚かせる。しかし、やはりあの胸は相手が何であっても魅了するようだな……」

「そう、みたいですね……」

「極楽なのだわぁ……」


 恍惚としているエルサを抱いたまま、スイカを食べて喜んでるアンリさんを見ながら、ルギネさんと話す。

 確かにアンリさんの胸は大きくて柔らかそうだけど……さすがに俺がそれをジッと見るわけにはいかない。

 不躾に見るのは、アンリさんにも悪いし……何よりモニカさんに悪いからなぁ、と思った。

 何故ここでモニカさんが出て来たのか、自分でもよくわからないんだけどね。


「しかし……あの生き物はなんなのだ? 喋っているようだし、異様にモフモフだし……犬ではないし、フェンリルでもない……スイカという食べ物よりも、よっぽど不思議だ」

「え、今更?」


 ルギネさんがエルサを見て、不思議そうにそう言った事に、思わず口をついて出てしまった。

 今までエルサの事に触れられてなかったから、どこかで聞いてたのかと思ってた。

 ヘルサルにいれば、誰かがエルサの事を話しててもおかしくないしね。

 防衛戦の時、俺が魔法を使ったのと合わせて、街に被害が出ないように大きくなって守ってくれてたから、あの時街にいた人たちは皆知ってるから。


 けど、あまり街の人と話をしていないのか、それとも情報収集を怠っているのかはわからないけど、ルギネさんはエルサの事を知らないみたいだ。

 まだ、ヘルサルの街に馴染んでないのかもしれないね。


「えっと……エルサは……」

「なんだと!? 伝説のドラゴンが……あんなにかわいらしい姿だったなんて……」


 エルサの事をルギネさんに説明。

 アンリさんは、エルサを抱いてスイカを食べながらも、こちらの話を聞いているみたいだ。

 ドラゴンだと知ったルギネさんは、すぐには信じられなかったようだけど、アンリさんから離れたエルサが飛んで見せたり、人間くらいのサイズに大きくなって見せたりした事で、ようやく信じたようだ。

 再びアンリさんの胸に抱かれたエルサを見ながら、ルギネさんは驚きっぱなしだ。

 というかエルサ……その場所気に入ったんだな……。


 ルギネさんの反応であった、ドラゴンがかわいいというのは、確かに信じられない要素だったのかもしれない。

 語り継がれる伝説には、あまりドラゴンの容姿には触れられてなかったみたいだし、俺自身、エルサを知らなかった時は、ドラゴンってもっと威圧的な姿だとか、巨大で翼のあるトカゲのような姿を思い浮かべてたしね。

 話を聞いていたユノが、ボソッと「ドラゴンとか関係なく、かわいいのが作りたかったの」とか呟いていたから、確実にユノの趣味なんだろう。

 ……ユノ、素晴らしいモフモフをありがとう!


 ユノに感謝をしつつ、残ったスイカはルギネさんとアンリさんが食べ尽くした。

 その様子を見て、八百屋のおっちゃんと奥さんは、スイカが売れる事を確信して喜んでる様子だったのは、印象的だったね。

 ちなみに、スイカがなくなった後は、他の店から持ち寄った食べ物でテーブルが溢れかえってしまった。

 俺は朝食を頂いてたから、スイカを食べるくらいしか入らなかったけど、ルギネさんとアンリさんは朝食を抜いていたらしく、喜んで大量の食べ物を頂いてた。


 なんでも二人は、食べる所を探して大通りをさまよっていたらしい。

 見つからなかったら、獅子亭に行こうとしてたらしいから、折角のお客さんを減らした形になってしまった事を、少し後悔。

 ちなみに、リリーフラワーの他のメンバーは、まだ宿で寝ているらしい。

 朝に弱いのかな? と思ったけど、昨日の夜が激しかったからと言って、アンリさんが妖しく笑ってたので、それ以上聞くのは危険と判断した。


 食べ物を持って来たおっちゃん達や奥さん方を含めて、皆でテーブルの上の食べ物を頂いた後、解散。

 さすがに、そろそろ店の営業を再開させなきゃいけないらしい。

 ……あんなに集まってて、店は大丈夫だったんだろうか?


 解散になる時、後から持って来られたスイカの種入れになった皿を見て、ふと思いついた。

 中に入っている、皆が食べた後に残った種を、軽く洗ってもらい、それを布に包んで持って帰るように八百屋のおっちゃんにお願い。

 おっちゃん達は不思議そうにしてたけど、こころよく許可してもらえた。

 まぁ、スイカの種なんて、店をやってる人達にしたらいらない物だろうからね。

 皮は……色々使えない事はないけど、とりあえずは生ゴミとして捨てる事を提案しておいた。

 食べ方を教えてくれただけでもありがたく、スイカ一つだけじゃ申し訳ないと言われながらも、珍しい物を食べさせてくれたお礼を言って、八百屋を離れた。


「……で? なんでまだルギネさん達はいるのかな?」


 唐突に始まったスイカの試食会が解散し、スイカの種をもらって上機嫌で八百屋さんから離れ、しばらく歩いたところで、ふと横を歩いているルギネさん達に聞く。


「私はぁ、ルギネがリクさんに付いて行きたいって言うからぁ」

「それだと私がリクに興味があるようじゃないか! 違うぞ、Aランク冒険者というのが普段どうしているのか、知りたいだけだ! 何か、私達のパーティにも参考になるような訓練をしているかもしれないからな!」

「それ、興味があるって言ってるのと、かわらないよわよねぇ?」

「はぁ……そうなんだ……まぁ、エルサも離れないようだし、まぁいいか」

「一緒にいる人が増えたの!」

「はぁ……柔らかいのだわぁ……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る