第444話 新しい売り物
「……リクさん、皮は食べないのか?」
「え? あぁ、はい。食べる方法もありますけど……多分、皮は食べない方がいいと思いますよ? 赤い部分が一番、甘くて美味しいですし」
「そうなのか……いや、確かに皮はあまり上手くはなかったな……野菜にはそういう物があるから、皮もたべるもんだと……」
エルサのモフモフの心配をしていると、俺の手元に残った皮だけのスイカを見て、八百屋のおっちゃんが声をかけて来た。
皮を食べない事を説明しながら、周囲を見てみると、集まった皆どうするのか困っている様子だった。
さっき八百屋のおっちゃんは皮ごと齧るって言ってたから、皆食べる物だと思ってるんだろう。
赤い果肉部分を食べ切った後、緑の皮部分も齧って苦い顔をしている人も、中にはいた。
ちなみに、八百屋のおっちゃんは皮まで全部食べ切ったようで、手には何も残ってなかった。
確かに、苦い野菜や青臭い野菜もあるから、そういう物と言われればそれまでなんだろうけど……スイカは基本的に皮は食べない事が多いよね。
革と赤い果肉の間にある、白い部分は特に栄養が多く含まれてるとかも聞くけど、そこまで食べるかは好みだし……。
よっぽど飢えてたり、栄養源としてだけ考えるとか以外では、皮は残す方が食べやすいだろうね。
「そうか……成る程な……」
「アンタ! これ、この食べ方を一緒に教えたら、売れるわよ!」
「あ、あぁそうだな。俺もそれを考えていた。今まであまり知られなかったのは、皮を食べる事としていたからなんじゃないだろうか……」
あー、確かにそうなのかもしれない。
最初から皮ごと食べるとしていたから、美味しい物という認識があまりなかったのかもしれないね。
栄養はあっても、やっぱり美味しい物の方が広まりやすいし、人も買いたくなるものだから。
「これは……もっと作ってもらえるよう、仕入れ先に言っておかないとな」
「そうね。これをもっと売り出す事で、店も上手く行くわ! すぐ、連絡をとらないと!」
「あぁ、そうしてくれ! 珍しい物で、数が多くないから、すぐには仕入れられないかもしれないが……話はしておくべきだろう! 献上品なのも納得だな……」
目の前で八百屋さんによる、スイカを売り出す算段が進んでる。
他の店の人達も、仕入れてくれたら買うと口々に言ってるので、これからスイカが人気商品になるかもしれない。
数が少ないらしいのが、懸念の一つらしいけどね。
というか、何故姉さんはスイカの食べ方を広めなかったのか……。
もしかすると、献上品として送られてくるから、あまり美味しさを広めて自分の所に来る数を減らさないように……とか考えてたのかも……?
いや、姉さんがそんな事を考えたりは……しそうなんだよなぁ。
女王様モードならそんな事は言い出さないと思うけど、リラックスモードの時の姉さんならやりかねない。
どちらにせよ、王城に帰ったら直接聞いてみよう。
「……………だわ」
「ん、どうしたエルサ?」
集まったおっちゃん達や奥さん方の様子をそれとなく見て、スイカが受け入れられそうな事に満足していると、エルサがふと声を漏らした。
どうしたのかと思って、そちらを見てみると、テーブルの上で半分まで齧られてなくなったスイカを持ったまま、プルプルと全身を震わせているエルサがいた。
何だ? こんな反応、見た事が……あるような……?
「なんなのだこれは、だわ! なんなのだわ、なんなのだわ!」
「おいおい、どうしたんだエルサ? 口にあわなかったのか?」
魔力酔いでむにむに言っていた時に近く、なんなのだわを連呼するエルサ。
もしかして、スイカがエルサの口にあわなかったんだろうか?
でも、キューが好きならスイカも好きなると思うんだけどな……。
人の好みは千差万別だから、キューが好きだからと言って、必ずしもスイカを好きになるわけでは無いかもしれないけど……いや、エルサは人じゃなくてドラゴンか。
「……リク」
「ん?」
なんなのだわを止めて、静かに俺を見上げて名前を呼ぶエルサ。
一体どうしたと言うのか。
「美味し過ぎるのだわ! これは神が作った物なのだわ! 間違いないのだわ!」
「私、作ってないの」
「あ、あぁ……そうか。美味しかったのなら、良かったよ」
全身で美味しさを表現するように、体を震わせ、小さな翼まで出して叫ぶエルサ。
あれか、初めてキューを食べて美味しさに驚いた時に似てたのか、これ……。
あの時はまだ契約してなかったし、喋れなかったから、ここまで表現豊かに感動してはいなかったけど、なんとなくエルサ自身の雰囲気が似てる。
それはともかくエルサ、俺の隣に座ってる元神様が、作ってないと否定してるぞ?
エルサの感動はわからなくもないけど……俺も、凄く美味しい物を食べた時は、神様に感謝したくなる時もあるからなぁ……。
俺の知ってる神様は、剣を振り回したり、食欲旺盛で好奇心も旺盛で、食べ物を作ったりするようには見えないけどな。
……ユノに慣れ過ぎると、神様のありがたみがなくなるなぁ。
「エルサ様は、今日も食欲旺盛だなぁ」
「ははは、さっき朝食を食べたばかりなんですけどね……」
スイカへの感動を叫んだ後は、ユノすら躊躇する程に、エルサがバクバクと凄い勢いで食べ始めた。
これは……キューに続く好物ができたかな?
同じウリ科の物だけど。
もしかすると、ウリ科なら他の物でもいいのかもしれないな……カボチャとか、ズッキーニとか……あと、メロンもそうか。
この世界にあるのかはわからないが、王都に帰ったら姉さんやゲルダさんに聞いてみよう。
キューに代わる好物があれば、キューの消費を抑えたり、エルサが落ち込む事もなくなるかもしれないからね。
そんな事を考えながら、八百屋さんだけでなく、周囲の皆がエルサを温かい目で見ているのに気付く。
さっき朝食を食べたばかりなのに、凄い食欲だと説明しながらも、俺やユノだけじゃなく、エルサもヘルサルの人達に受け入れられてるようで、少し嬉しかった。
「……なんだか、人だかりができてるな?」
「何なのかしらねぇ……?」
「ん?」
おっちゃん達と、スイカを食べ続けるエルサを眺めていたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そこで思い出したけど、ここはヘルサル一番の大通りで、そこでテーブルや椅子を設置して人が集まってるんだから、注目を集めてしまっていた。
……八百屋のおっちゃん、商売しなくていいのかな?
ちなみに、ユノは幾つかスイカを食べて満足したのか、今は奥様方と一緒に雑談してる。
お茶も持って来て頂いてるようだし、そこだけ昼下がりの主婦が集まるカフェのようになってたりしてるな……。
「……お前は、リク!?」
「あらあら、ルギネったら、リクさんに大きく反応するようになったわねぇ?」
「ルギネさん?」
周囲に集まっている人達を掻き分けて、俺達の前に来たのは、リリーフラワーのリーダーであるルギネさんだった。
その後ろからは、相変わらず妙な色気を感じるアンリさんも顔を出した。
二人で大通りを歩いていたら、この人だかりを見つけたみたいだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます