第438話 結界維持のための準備



「……どういう事をするのか、勉強させて頂いても?」

「特に秘匿する技術ではありませんので……細かな説明はできないかもしれませんが、見て学ぶくらいであれば問題ありません」


 ヤンさんがフィリーナに問いかけ、許可を出す。

 フィリーナとしては、エルフの魔法技術を使うにしても、特別な技術や、秘匿されるような技術ではないため、誰が見ても問題ないようだ。

 というか、誰かに見られながらやるの?

 ……俺の方が緊張で失敗しそうなんだけど。


「そうですか……クラウス様、ヘルサルにある魔法屋や、魔法具を扱っている店に連絡は取れますか? この機会に、魔法具の事について学ぶのも、良いかと思います。もちろん、現在ヘルサルにいる冒険者の中で、興味のある者を集って、見学をさせます」

「そうですな……トニ、至急調べて連絡を。リク様とその親しい方々が、珍しい魔法技術を披露する事。希望者のみ、見学を許可する事を伝えよ。ただし、リク様に迷惑をかけるような物は、こちらで拒否する」

「畏まりました。……ヘルサルの街にいる者は、先の防衛戦の事は記憶に新しい事。リク様に救って頂いた事は皆わかっております。迷惑をかける者はほとんどいないでしょう。では……皆様、一旦失礼致します」


 フィリーナから許可が出たヤンさんは、すぐにクラウスさんに向き直り、人を集める事を提案。

 それを受けて、クラウスさんはトニさんに指示を出し、すぐに報せを出す事に決めたようだ。

 トニさんは、俺に迷惑をかけるような人は、ヘルサルにはいないと言って、部屋を出て行ったけど……そうなんだろうか?

 確かに、ゴブリン達の大半は俺の魔法で消滅させたけど……。


「何か、こちらで用意する者はございますか?」


 トニさんを見送った後、フィリーナに問い抱えるクラウスさん。

 いつも、俺に対してファンだとかなんとか言っている姿ではなく、真面目な様子だ。

 これが本来の代官として、仕事をしているクラウスさんなんだろう。

 いつもこの調子なら、トニさんも楽なんだろうなぁ……。


「そうですね……でしたら、今から指示する場所に、簡易的な小屋を作って頂けますか? そこに、リクの作ったガラスを安置致しますので。それと……農地の事なのですが、水を引いてくる事はできませんか?」

「水ですか……治水工事はしなければならない事なのですが……遅れております。現在は、水を運ぶ事とし、いずれ街より南にある川から水を引いてくる予定です」

「そうですか……もし結界を張られれば、川を作る事はできなくなるかもしれません……その辺りは、少しリクと相談して、提案させて頂く事になるかと……」

「エルフの方に、農地や魔力溜まりの事を調査して頂いただけでなく、提案までしてもらえるのは、幸運ですな。わかりました、リク様の御意見や提案であれば、可能な限り融通しましょう」

「ありがとうございます」


 やっぱり、フィリーナは川や水を汲んだりする場所が近くにない事を気にしていたようだ。

 結界を張れば、出入り口以外からの出入りができなくなるため、川を作ったりはできなくなる……と思う。

 だから、フィリーナは今のうちに聞いたんだろうけど……川の治水工事ねぇ……。

 後で提案という事は、フィリーナに何か案があるのかもしれない。

 獅子亭に帰った後にでも、よく話し合ってみよう。


 そうして、ヤンさんとクラウスさん達との話を終える。

 とりあえず、クラウスさんに頼んで、フィリーナが指示した場所に小屋を設置、そこへガラスを移動させる事になった。

 衛兵を含めた、農場に関わる人を使ってくれるみたいだ。

 簡易的な小屋なので、設置と移動に一日使わせてくれとの事だった。

 

 まだ王都へ帰るまでの日程には余裕があるので、一日くらいは大丈夫だ。

 そこから、フィリーナがガラスへ結界の維持をするための作業と、俺が実際に結界を張るので一日を使うという事で予定が決まった。

 ほとんどフィリーナとヤンさん、クラウスさんが話し合って決めたけど……ガラスや魔力溜まりは、俺が原因なので文句は一切ない。

 モニカさんやソフィーも、ヘルサルにいる間は特にやる事もないので、獅子亭の手伝いをしたり、訓練をする以外はのんびりするようだ。


 まぁ、農地関係は俺とフィリーナが動く事だからね。

 ユノとエルサに関しては、特に何もやる必要はないし、いつも通りのんびりするだけといった感じだ。

 若干、エルサがさっさとキューを作れと急かしそうだけど……そのための準備段階だから、黙っておく事にしたようだ。

 うるさくしても、キューがいきなり作られるわけではないと考えたのかもしれない。

 おそなしくしてて、暴走しそうにないのはいい事だね、うん。



「それで、キューのための農地はどうなったんだ?」


 冒険者ギルドを出て獅子亭へ帰り着くと、夜の営業を終えてちょうど夕食のタイミングだった。

 調査を終えて、冒険者ギルドへ行った時には既に、日が完全に沈んでいたし、ヤンさん達とも結構長い間話してたから、そんな時間になってても当然か。

 マックスさんとルディさんが用意してくれた夕食を、皆でありがたく頂きつつ、今日の事を報告。

 話に行ったけだったのに、中々帰って来ないから、少し心配していたらしい。


 まぁ、魔物にやられたりとかそういう事じゃなく、変な依頼を受けて何かやってるんじゃないか……という心配らしいけど。

 今は、マックスさん達に、軽く農場や魔力溜まりの調査をする依頼を受けたと説明したところだ。


「農地としては、格別の条件だったみたいです。問題がないわけじゃないんですけど……」

「魔力溜まりがある事自体が、農地として好条件なんです。まぁ、魔物が集まって来る事があるという悪条件もありますけどね。それに、水の問題も……」


 今回はフィリーナが詳しいから、マックスさん達への細かい説明は任せる。

 決して、他人任せで自分はよくわからなかったから……というわけじゃないよ? うん。


「あぁ、そうだ。そういえば、夜の営業をしている時、リクやソフィーの事を言っていた奴らがいたな……。冒険者のように見えたが……なぁ、マリー?」

「えぇ、そうね。4人くらいの女だけで、武器も持っていたから、きっと冒険者ね」

「あー、それはきっと、リリーフラワーかな……?」

「そうだな。私やリクの事を知っていて、女性だけの冒険者パーティだったら、リリーフラワーしかないだろう。あいつら、獅子亭の事を知っていたんだな。……確かに有名だが」


 フィリーナの説明が終わったあたりで、マックスさんがふと思い出したように、お客さんで来た人の事を話題にした。

 聞いてる限りだと、リリーフラワーのルギネさん達の特徴と合致する。

 マックスさんの料理をがっついていたソフィーに聞いたら、頷いて肯定してくれた。

 ヘルサルでは美味しくて有名な店だから、ここらで活動している冒険者なら、知っててもおかしくはないかもね。


「あら? でも店に入って来た時、ソフィーが言っていた……とか言ってたわよ?」

「……以前話したかもしれないな」


 マリーさんが首を傾げてソフィーに問いかけると、忘れていた事を思い出したようだ。

 ソフィーは初めて会った時から、獅子亭の料理のファンだったから、その流れでルギネさん達にも話していたのかもしれないね。

 初めて会った時……マックスさんに持たされた昼食用のパンをあげたら、すごく喜んでたしなぁ。

 センテにいる時、色んな人に話しててもおかしくないと思った――。



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