第437話 結界という魔法
「ただ、マギアプソプションだけでなく、農地を守る方法はあります」
「農地を守る方法……来る魔物を討伐するのではなく……ですか?」
「はい。この方法であれば、魔物が集まる事を防ぎ、もし来たとしても農地に入る事はできません。人が出入りしなければいけませんので、絶対……というわけではありませんが……」
結界は、人の出入りを制限しないようにするため、出入り口を作る予定だ。
人が出入りする場所があるという事は、そこから魔物が入り込む可能性もあるという事。
見張りとかを立てれば、ある程度は防げるだろうけどね。
あと、実は地中を移動する魔物とかがいれば、それを防げないという事もある。
結界を地中まで張るわけにはいかないから、そこまではさすがに防げない。
地中まで塞ぐと、作物に悪い影響が起こるだろうしなぁ……空気も入れ替わらないし。
「……その方法とは? 出入口を作るという事は、何かしらの方法で農地そのものを覆うのでしょうが……そのような方法は聞いた事がありません」
「それは、リクの結界魔法です」
「結界魔法? それは確か、エルフの集落でリクさんが使ったと聞きましたが……それを使うのですか?」
ヤンさんがどういう方法で農地を守るのかを聞きながらも、フィリーナの言葉からどういう事になるのか想像しているようだ。
出入口というだけで、農地を覆うと考える事ができるのは、ヤンさんが優秀な証拠なのだろうか。
ともあれ、フィリーナが俺を示しながら結界魔法の事を伝える。
そういえば、ヤンさんはエルフの集落へ直接来ているから、結界の事を聞いていてもおかしくはないね。
説明を続けるフィリーナの話を、ヤンさんだけでなく、クラウスさんやトニさんも興味深そうに聞いてる。
三人とも、結界を聞いた事はあっても見た事がないので、どういうものか想像がしづらいようだ。
「えっと……結界! これが、結界魔法です。今の所、俺とエルサだけが使えるようですね」
どうにも想像ができず、結界で本当に農地が守れるか疑問だったようなので、俺が結界魔法を使って見せる。
机に置かれたガラスを覆うように、小さく作り、ヤンさんやクラウスさん達に見せた。
「……これは……成る程。硬く、壊れそうにありませんね」
「何もないように見えるのですが、確かに何かが遮っていますな」
ヤンさんとクラウスさんが、俺の作った結界に触れながら感心している様子だ。
「その結界は、外と中を完全に遮断する魔法です。耐久力は……」
「魔物の使う魔法すらも防ぎます。剣で斬ろうとしても、斬れません。それは、エルフの集落で使われた時に見ました」
「ふむ……それならば、確かに守りとして万全ですね」
実際は、ユノが全力かどうかはさておき、エルサに訓練と称して振った剣に壊されたんだけど……それは黙っておこう。
そもそも、ユノの剣は異常な固さと言われるグリーンタートルの甲羅も、易々と斬り裂くくらいだしね。
エルサ相手のユノは、グリーンタートルの時よりも力を込めてたように見えたし……普通に壊そうとして請わせる物じゃないと思う。
「この結界で、農場全域を覆う事で、外界と遮断されます。そうする事で、魔力溜まりの気配が外へ漏れなくなるので、マギアプソプションも集まって来なくなるかと。……やはりここでも、出入り口があるので、確実ではありませんが……集まってくる頻度は確実に下がると思います」
「そうですね……透明で誰にも破る事ができない物で、農場そのものを覆うという事ですか……。こちらの方が、ガラスよりよほど優秀ですね」
フィリーナの説明に頷きながら、ヤンさんが頷き、ひょいとガラスを覆っていた結界を持ち上げた。
えっと……確かに結界はドーム状にして、ガラスを覆うように発動させたけど……持ち上げられるんだ……。
魔法だから詳しい事はわからないけど、そのものが物質として顕現しているのであれば、掴んだり持ち上げたりできるのか……一つ勉強になった。
自分で使った魔法なのに、自分でわからないというのも、おかしな話だけどね。
「んっ! ……確かに、壊れませんね」
「私も……んんっ! これは硬い!」
持ち上げたドーム状の結界を、ヤンさんとクラウスさんが手に持ち、両手で潰そうとしてみたり、叩いて壊そうとしているけど、ビクともしない。
結界はガラス以上に透明で、何かがそこにあると目で見えるわけじゃないので、ヤンさんとクラウスさんが何もない所で力を込めてるように見えて、少し面白い。
こうして見ると、確かにガラスのように割れる事もなく、透明度も高いのでヤンさんの言う通り、ガラスを使うよりも優秀に見える。
だけど、これは魔法で作られてるから、俺が魔力を止めて維持をしなくなれば勝手に消える。
何かに転用できればと思っても、維持するための魔力補給を考えなければ、いつまでも維持できるじゃないからね。
「この結界で農場を覆ってしまうと……ですが、これは魔法です。その維持のためには魔力が使われるはずですが?」
「その通りです。結界はリクやエルサ様の魔法。リクは簡単に使って見せますが……使われている魔力は膨大です。今持たれている結界だけでも、私には魔力の多い人間一人分よりも多くの魔力が込められてるように見えます」
「これが……そんなに……」
フィリーナの言葉を受けて、目に見えないながらも、確実に手に持っている感触のあるけっかいをみるヤンさん。
目に見えないから、自分の手を見ているようにしか見えないけどね。
確かに結界を簡単に使って見せたけど……あの結界一つでそれだけの量の魔力を、俺は使ってるのか……。
自分が使う魔法が、どれだけの魔力を使っているのか、ほとんど考えてないからなぁ。
魔力がなくなるような事も、今までなかったし。
「本来であれば、リクが結界を使い、そのまま維持するのですが……さすがにいつまでも農場にいる事はできません」
「だとしたら、維持をする事は不可能ではないのではないですか?」
「いいえ、その結界を維持するために使うのが、リクの作った魔力が込められたガラスなのです」
「このガラスを……?」
ヤンさんとクラウスさんが、再びマジマジと机に置かれたガラスを見る。
「そのガラスには、もっと小さな破片であっても、今使われた結界の魔力よりも多い量が込められています。幸いな事に、リクが隠そうとしたおかげでガラスは欠片になりながらも、かなりの量が農場予定地に埋まっていました。これを魔法具のようにして使えば、結界の維持ができるのです」
「ふむ……その方法は……できるのですか?」
「魔法研究、魔法具開発は、エルフの得意とする所です。本音を言うならば、私ではなくもっと魔法具に詳しいエルフに来てやってもらいたかったのですが……私でもできない事ではありません」
フィリーナが言う、魔法具に詳しいエルフというのは、アルネの事だろうか?
確かに、魔法具の武器を見た時は、アルネ主導でフィリーナが補助だったみたいだからね。
魔法研究にも意欲的だし、こういうことは本来ならアルネの方が詳しいんだろう。
けど、ガラスを結界の維持に使うくらいなら自分でもできると、フィリーナは自信があるようだ。
……自信がなきゃ、自分でやれるとは言わないだろうし、アルネを呼んで来るとか言ってるかな、多分。
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