第436話 ヤンさんとクラウスさんへガラスの説明




「おぉ、リク様。待っておりましたぞ!」

「……クラウスさん?」


 ガラスを持ってヘルサルに戻り、報告のために真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。

 俺達が冒険者ギルドに入ったら、待ち受けていたように受付の男性が出て来て、昼にヤンさん達と話した部屋へ通された。

 その部屋に入るとすぐ、ヤンさんではなく、別の人が嬉しそうな声色で俺達が部屋に入るのを歓迎してくれた。

 声の主はクラウスさんなんだけど……仕事、忙しいんじゃないのかな?

 後ろでは、トニさんが黙って静かに会釈してるから、大丈夫なのかもしれないけど。


「リクさん、戻りましたか」

「はい、ヤンさん。調査と討伐、完了しました」


 座っているヤンさんの対面に、俺達全員で座りながら、依頼が終わった事を報告する。

 ちなみに、クラウスさんは俺達を立って迎えてくれたけど、依頼の話をし始めた時に黙って座った。

 俺の事を待ってたらしいけど、そこはやはり街の代官だけあって、弁えてるようだ。


「マギアプソプション討伐の方は、報告を受けております。ちょうど、別の冒険者パーティも受諾していたようですね」

「はい。リリーフラワーですね。一緒にマギアプソプションを討伐しました」

「Cランクパーティでしたね。リクさん達もいるので、問題なく討伐されたのでしょう?」

「はい。あちらも持って帰った事と思いますが、こちらが討伐証明部位になります」

「確認します」


 マギアプソプションの討伐証明部位である、角を取り出してヤンさんへ渡す。

 それを確認し、討伐をしたとして、依頼の一部は達成という事になった。

 あとは、農場の調査についてだ。

 これには、クラウスさんも交えて話す必要があったので、皆で会議となる。


 農場の状態についてや、魔力溜まりについてはほとんどをフィリーナが説明してくれた。

 専門家という程でもないけど、一番状況を理解してるんだから、適任だね。


「ふむ……魔力を蓄えたガラス……もしかして……少し失礼します」

「ヤンさん?」


 魔力溜まりの事や、農地の状態を話し終わり、ガラスの事を説明している途中で、ヤンさんがふと思い立ったように席を立った。

 俺対に断って部屋を出た後、数分で戻って来たヤンさんの手には、見覚えのあるガラスがあった。

 あれは、以前調査する時に見本として見せてもらったガラスだね。

 俺が埋めたガラスよりも、少し大きく、十センチ四方くらいのガラスだ。

 多分、最初に俺が適当に割っただけの状態の物を見つけて持って来たから、埋められる時に割れたりせず、大きめのサイズで残ってるんだろう。


「そのガラスというのは、これの事なのですね?」

「はい。それは、俺がゴブリン達を倒した時に、魔法で作られた物になります」

「ほぉほぉ……これはまた、透明度が高く素晴らしい物ですな」


 ヤンさんがガラスを机に置き、確認される。

 俺が認めていると、横から覗き込んだクラウスさんが何度も頷きながらガラスを確認。

 後ろの方でトニさんも目を見張っている様子だから、やっぱり透明度の高いガラスは珍しいんだろう。


「成る程……これに魔力が蓄えられているという事ですね? 私は、魔法に詳しくありませんが……」

「人間が見ても、ほとんどわからないかと思われます。エルフで、さらに魔力視ができる私だから見えた、という部分もあるかと」

「そうなのですね。エルフの魔力視……時折、視覚的に魔力を捉える事のできる者がいるとは聞きますが、貴女が……」

「はい。我々エルフの中では、森の神アルセイス様の加護や祝福と言われています」


 ガラスに魔力が蓄えられている事と、フィリーナがエルフの中でも特別という事を説明する。

 その後、ガラスに蓄えられている魔力が、通常ではありえない程の量である事も付け加えられ、何かに利用しようとするのは危ない……という話になった。


「ふむ。確かに、言われたとおりであれば、危険な物になりかねませんね。もし、このようなガラスが多く産出されるのであれば、農地よりもヘルサルへの利益になるかもとは考えましたが……」

「そうですなぁ。リク様の作られたガラス……という事で、付加価値もあります。ですが……話を聞く限りでは、このガラスは手に負えませんな」

「魔法研究をしているエルフであっても、そう考えるでしょう。……それでも、研究をしたい、使いたいと手を出す者もいるかもしれませんが……」


 フィリーナの言う、危険なのはわかっていても使って見たい、研究したいというのは、マッドサイエンティストとか呼ばれる人達の事だろうか?

 俺は会った事がないけど、そう言う人達って、探求心を理由に非人道的であろうと構わず手を出す……というイメージだ。

 大体は、物語とかに影響されてるんだろうけどね。


「なので、こちらのガラスは、ヘルサルの冒険者ギルドと、街の方で厳重に保管して頂きたいと考えます」

「そうですね……危険な物を世に出すわけにはいきません。暴発する危険があるのならば、陰謀に使う者も出て来る可能性もあります。冒険者ギルドは、一部の者にのみ情報を伝え、誰にも触れられないよう管理させて頂きます」

「私の方も、それで結構です。管理は冒険者ギルドに任せた方がよろしいでしょう。もしもの際は、冒険者という戦える者達が守ってくれると思いますし……なにより、街の方での管理は少々難しそうでしてね……」

「街での管理となると、現状の体制を変える必要があります。基本的に、街の事は文官達が集まって行っているので……もしもの時に対処ができません。それに、重要物は国で管理する事になっていますので……結果、王都へ持って行く事になります」


 フィリーナが言う、誰かが無断で使ったりしないよう、ヤンさんとクラウスさんにお願いする。

 ヤンさんは冒険者ギルド、ヘルサル支部の副ギルドマスターとして了承したけど、クラウスさんは街でというよりも、冒険者ギルドにて保管して欲しいようだ。

 クラウスさんの言葉を継いで、トニさんが説明してくれたけど、街の統治は基本的に文官達で行われているため、武力というのを持たない。

 街の規模により、衛兵が相当数いるようだけど、それは街の治安維持や魔物から街を守るためであって、重要物を管理するためではないようだ。


 なので、管理の必要な物があった場合、王都……王城へ管理をお願いするという事のようだね。

 まぁ、姉さんに言えば厳重に管理してくれそうだけど……ヘルサルでの事だし、ヘルサルの人達に任せたい。

 あと、この後話す結界の事を考えると、ヘルサルの冒険者ギルドや代官であるクラウスさんが主導してくれた方が良さそうな気がする。

 どちらにせよ、姉さんには王都に帰った時に色々報告する事になるだろうけどね。


「わかりました。それでは、発見されたガラスは冒険者ギルドヘルサル支部で、管理させて頂きます」

「はい、お願いします。では、魔力溜まりについてですが……」


 ガラスの管理をする話を終え、魔力溜まりの話を始めるフィリーナ。

 魔力溜まりはガラスに大量の魔力がある事も原因の一端とし、農地はその影響もあって好条件がそろっている事。

 ただし、魔力溜まりになっている魔力量が尋常じゃないので、解消する事ができず、マギアプソプションが集まって来る事を止められないだろうという事。


 農地が魔力溜まりの影響で、良い状態という事にクラウスさんもヤンさんも、トニさんすら喜んでいたけど、魔力溜まりを解消できない事と、マギアプソプションが集まる事を防げないという話になって、難しい顔になった。

 安全に農業ができず、魔物が定期的に集まって来るというのは、悩ましい事だよね。



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