第427話 魔力溜まりの解消は難しい



 ユノは俺が使う魔法と魔力の説明をし、フィリーナが驚いている。

 以前から、ユノやエルサからは俺の魔力量は異常にあると聞いていた。

 それがどれほどの物か、俺自身が自覚してないんだけど……普通の人間よりは多いというのはさすがにわかってる。

 それに、ドラゴンの魔法は確かにイメージで使うものなため、周囲の魔力を集める事がないのは、感覚でなんとなくわかってた。

 イメージ通りに魔法を発動するため、魔力を変換する必要があるんだけど、自分以外の魔力が混じるとそれも難しいだろうからね。

 自分が元々持っているものだから、スムーズに変換したり練ったりできるんだろう……と思う。


「はぁ……リクがよくわからない人間なのは、今更か。ともかく、それならそれとして話を進めるわ。……で、リクが周囲の魔力を集められないと言うのなら……魔力溜まりの解消をする事は、実質不可能ね」

「不可能……魔力溜まりの周囲で魔法を使って、少しずつ減らせば、いつかは消えるんじゃないの?」

「……理論としては、それが正しい考えよ。でも……一瞬でゴブリンの大群を消滅させ、さらにそのゴブリン達の大群が持っていた魔力が集まったのよ? それがどれだけのものか……どれだけ魔法を使う者を集めて、どれだけの期間魔法を使えば、解消させられるのかしらね……?」

「確かに……数人程度なら何とかなりそうだが……リクの事を考えると、万に等しい数が必要になりそうだ。……想像するしかできないが……それは確かに実質不可能と言わざるを得ないだろう」


 んー、どれだけの魔力量が集まってるかは、俺もよくわからないけど……ゴブリン10万以上の大群だからね。

 ゴブリン自体の魔力が少なくても、それはかなりの量になると推測できる。

 フィリーナやソフィーは、俺の使った魔力が多いと言ってるけど、あれだけのゴブリンの魔力が集まったんだ、人間一人でゴブリン十体分の消費ができると仮定しても、一万人は必要だね。

 人によって使える魔力は違うだろうし、そもそもそれだけの人を集めるの事が難しい。

 それこそ、国を挙げての作業になりそう。

 フィリーナが言っているように、人為的に魔力消費して魔力溜まりを解消させる事は、実質不可能という事だね。


「まぁ、解消案は今ここで論じる事ができないだけよ。何か方法がないか、考えて見るわ。それに、農地の土として見るなら、解消させない事も一つの案だしね」

「魔物に注意する必要はあるがな」

「マギアプソプション程度なら、都度冒険者や兵士を派遣すれば、討伐できるでしょうしね。費用は掛かるでしょうけど……」

「そこは、クラウスさんとヤンさんが頑張る所だね」

「冒険者としてみると、高ランクの魔物でもないから、報酬を得る事や依頼の達成ができるから、悪い話でもないしな」


 マギアプソプションは、単体ならDランクだ。

 集団でいるからCランク相当と見られているだけで、あまり強くない。

 隙を見れば、体が柔らかくて簡単に斬れるし、動きも速いとは言えないしね。

 Dランクの冒険者を複数集めれば、なんとか対処できるだろうし……冒険者としては多くの依頼がある事や報酬を得られる事で生活が安定する。


 低ランクは生活するのも苦労する人がいるみたいだし、定期的に依頼が出るのは確かに悪い事じゃない。

 ……依頼を出す街や農家の人達、代官のクラウスさん達は、費用面だったりで苦労するだろうけど。


「そうね。そこらの話は、偉い人達に任せるわ。それで、土の状態だけど……」

「どうだったの?」


 フィリーナが、魔力溜まりをどうするかの話から農場の話へと変える。

 モニカさんが少し前のめりになりながら聞いているけど、興味があるんだろうね。

 ヘルサルで生まれ育った事や、両親であるマックスさんやマリーさんは、今もヘルサルで店を開いてる。

 モニカさんにとっては故郷とか実家という事になるのだから、興味があるのも当然か。


「簡単に言うと、凄く良い状態よ。土に含まれている栄養は、魔力溜まりの影響ですごく多いわ。作物を育てる土として、硬くもなく、柔らかすぎもしない。少しだけ水分が足りないような気もするけど、それは水をまいたり雨が降れば解消できるわ」

「良かった……なら、この場所は農地として相応しいのね?」

「ええ、これ程までの条件は他では早々見られないわ。多分、作物の成長が早かったり、味が良かったり、数が多かったり……いくつかの好条件も付け加えられるでしょうね。エルフ達が作る農地でも、ここまでの好条件は見た事がないわ」

「それは、魔力溜まりがあるから?」

「もちろんそうね。魔力溜まりがなくなった場合、いずれ今の条件は薄れて行くわ。すぐではないと思うけどね。魔力が成長を促進し、土に上質な栄養を与える。作物は土から十分なえ栄養を受け、良質な物となる……という感じかしら?」


 魔力溜まりがある事は、魔物が寄ってて来る事以外にも、良い事があるようだ。

 森や植物と一緒に生活して来たエルフであるフィリーナが、今まで見た事もないような好条件と言うのだから、よっぽどなんだろう。

 自分の故郷が、それだけの好条件に恵まれ、発展する可能性を考えて明るい表情のモニカさん。

 俺も、第二の故郷というか、初めて来た街がヘルサルだし、良い人ばかりでお世話になった人も多いヘルサルが良くなっていくのは嬉しい。

 その分、苦労はあるんだけどね。


「ただ、一つだけ気になる事があるの……」

「気になる事……? それは、農地とするうえで問題な事?」


 表情を悩ませるような、眉を顰めるようにしたフィリーナが、ポツリと漏らす。

 魔力溜まりの事や、土の状態以外で気になる事って何だろう……? とフィリーナに聞く。

 モニカさんも、俺と同じでさっきまでの明るい表情はを止め、フィリーナを真剣な眼差しで見た。


「問題……とは言えないのかもしれないわ。多分、影響はないと思うのだけど、妙にマギアプソプションが地中を気にしていたのよね。近付くまで、体だけでなく頭も土に埋めてたのもいたようだし……。少し掘ってみたけど何も見つけられなかったんだけどね」

「地中……?」


 マギアプソプションと戦っている時は、そんな気になる事はなかったように思う。

 でも確かに、近付いてこちらに向かって来るまでは、土に埋まっていたマギアプソプションが多かった。

 俺はマギアプソプションに詳しくないから、気にしてなかったけど、フィリーナからすると気になる事のようだ。


「マギアプソプションは魔力溜まりを求めて集まる魔物だし、体を土に埋めて擬態のようにするのもよくある事。だけど、頭まで土の中に埋めるというのは……あまり知らないわね。頭には魔力溜まりを感知する触覚……角があるのよ? それをわざわざ土に埋める必要はないように思うわ」

「言われてみると、そうだね」


 マギアプソプションにとって、角は魔力溜まりを感知するための物。

 さらに、そこから魔力を吸収するらしいから、大事な器官だろう。

 空気中に魔力が渦巻いているのであれば、わざわざ地中に埋める必要はない。

 人間で言うと、空気を求めてるのに、鼻や口を土の中に入れてわざわざ息苦しくしてるようなもの……かな?

 瀕死になったら、魔力吸収を早めるとも聞いたけど……それは地中とはかんけいないだろうしね。

 あ、でも……俺も、ちょっと気になってた事があったのを思い出した――。


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