第420話 気持ち悪いマギアプソプション



「そりゃ人間はね……私達エルフは、魔力に対して敏感だから……それに、特に私は……」

「あぁ、そっか。他のエルフよりも魔力が見えたりするんだっけ?」

「えぇそうよ。エルフ達が崇拝する、アルセイス様の加護と言われているけど……」

「アルセイス、懐かしいの……」


 エルフは人間より魔力に敏感で、フィリーナはさらに特別。

 エルサのように吸収しないから酔ったりはしないけど、やっぱり感覚としていつもとは違うようだ。

 人間組の方は、特に何も感じていないようで、平気なんだけどね。

 そんな中、フィリーナが言ったアルセイス様という言葉に、ユノが反応して小さくポツリと呟いた。


 ユノの呟きは、近い俺にしか聞こえなかったみたいで、他の皆は気にしていない。

 でもそうか……アルセイス様という神様がいるのであれば、同じ神様だったユノが知ってるのも当然だ。

 もしかしたら、会ったり話したりした事があるのかもしれないな。


 ちなみに、魔力探査は役に立たないので既に使ってない。

 魔力溜まりの中心に近付いたあたりで、何も感じられなくなったからだ。

 多分、広げてる自分の魔力と、俺に近い性質の魔力が混ざり合って、何も感知できなくなったんだろうと思う。

 魔力溜まりの元は俺の魔力らしいから、仕方ないか……想像だけどね。


「大丈夫、フィリーナ?」

「えぇまぁ……なんとかね。救いなのは、これが魔物や何か知らない魔力じゃないって事かしら。混じってはいるけれど、いつも見て感じている魔力に近いから、少し気分が悪い程度で済んでるわ」


 魔力溜まり中心が近付くにつれ、顔色が悪くなっている様子のフィリーナを気遣う。

 いつも見てる魔力っていうのは、俺の魔力の事かな?

 フィリーナとは王都に行ってからも一緒にいる事が多いし、俺が魔法を使う所を何回も見ているからね。

 多少慣れた魔力だから……というのが大きいのかもしれない。

 さすがに魔力溜まりで滞ってる魔力は、色々混じってるみたいだから、完全に俺の魔力と同じじゃなくて、そのせいで気分が悪くなってるんだろうけど。


「KISIIIII!!」

「っ!」

「来たわね……」

「あぁ。思ったより数が多いか?」

「……気持ち悪いの」

「むにーむにーだわぁ」


 ある程度近付いたところで、俺達を敵と判断したのか、マギアプソプションと見られる魔物が鎌首をもたげてこちらを威嚇するように叫んだ。

 全員が戦闘に備える中で、マギアプソプションを見たユノが呟く言葉に、俺も同意だ。

 でっかいミミズが、揃ってこちらを見ている……と考えると、気持ち悪さが少しでも伝わるだろうか……?

 その姿は、確かにミミズそっくりで、それを大きくして先の顔を肥大化させたようだった。

 いつもは戦いになると、体を動かせると元気になるユノが、今回はさすがに嫌そうな顔をしてる。


 顔は人の顔と同じくらいで、体は人間の足くらいの太さ……長さは聞いていた通り1メートルくらい。

 それが俺達が向かう先、十以上の数が顔をこちらに向けていた。

 頭の上には角とも触手とも言える、人の指程の太さの物が、こちらをうかがうようにゆらゆら揺れている。

 多分、攻撃する際に、それを硬質化させて剣のように使うのだろう。


「来るわよ、皆気を付けて! 魔力溜まりで魔法を使うと、威力が出過ぎたり、逆に発動しなかったりするわ! 私は本来魔法を使う戦いくらいしかできないから、あまり役に立てないわ!」


 こちらに顔をもたげながら、のろのろとした動きで近づいて来るマギアプソプションを見ながら、フィリーナが叫ぶ。

 ……魔力溜まりで魔法を使うと危険なら、最初から教えておいて欲しかった。

 まぁ、単体ならDランクの魔物って事で、魔法を使うまでの事はないだろうけどね。

 

「わかったわ。武器を使って倒す事に集中したらいいのね!」

「まぁ、私は元々魔法が使えないからな。問題ない。それより、フィリーナは土の様子を調べててくれ。マギアプソプションは私達……主にリクが対処する!」

「わかったわ、お願いね?」

「俺も、今回は魔法を使う事がなさそうだね……って、ソフィー? もしかして俺に押し付けようとしてる?」


 フィリーナに返事をする中で、ソフィーが付け加えた事に反応する俺。

 顔をソフィーに向けると、俺から視線を逸らした。


「……そんな事はないぞ? 決して、気持ち悪いから近付きたくないなんて事は……土の状態を調べるフィリーナを護衛しないといけないしな」

「あ、そうね。ソフィー偉い! リクさん、私達は向かって来るマギアプソプションに対処するからね。リクさんは突撃して蹴散らしてきて!」

「絶対、気持ち悪くて近付きたくないからだ……」

「リク、仕方ないの。魔力溜まりができてマギアプソプションが集まったのは、リクが原因なの。行くしかないの」

「はぁ……それを言われたらなぁ……」


 戦えないフィリーナが土を調べる間、近づいて来るマギアプソプションから守る役目というのは、確かに必要だ。

 まぁ、全部蹴散らしてから調べろとも思うけど……どちらにせよ、魔法の使えないフィリーナを守る事は必要だしね。

 ソフィーの案に飛びついたモニカさんに言われ、ジト目で二人を見るが、目を合わせてくれない。

 そうしていると、ユノに諭すように言われ、仕方なくため息を吐きながら、マギアプソプションへ向かっていく事を決めた。


 大規模な魔法を使ったのは確かに俺だからね……魔力溜まりになった魔力のほとんどは俺の魔力らしいし……ゴブリンのも混じってるはずだけど。

 ともかく、自分のやった事への責任を取るために、マギアプソプションへと剣を構える。


「あ、エルサは私が預かっておくの。リク、思う存分暴れるの!」

「……ユノもか……はぁ……」


 いざマギアプソプションへ……と体に力を入れた瞬間、ひょいっとジャンプしたユノが、頭にくっ付いているエルサを俺からペリっと引き剥がした。

 酔ってしまって頼りにならないエルサだから、保護するという名目なんだろうけど、マギアプソプションにエルサがどうこうという事はないだろうに……あぁ、モフモフが……。

 ユノも、さっき呟いたように気持ち悪いから避けたいんだろう、仕方ないか……はぁ……。


「……それじゃ……ふっ!」


 心の中でも溜め息を吐きつつ、剣を構えてマギアプソプションの群れへと向かう。

 群れだとか、予想より多くいると言っても、オシグ村で戦ったリザードマン達よりは少ない。

 それこそ、ヘルサルやエルフの集落、王城に迫って来ていた魔物よりはよっぽど少ないからね。

 近い場所で二匹固まっているマギアプソプションの間へ、体を割り込ませ、剣を左から横へ、体を半回転させる勢いで一閃させる。


「「KISIIIAAAA!!」」


 体の半ばから、斬り裂かれたマギアプソプションは、低い声で断末魔のような叫びを上げて地面に横たわった――。


「次!」

「KISIAAAA!!」

「KISII! KISII!」


 マギアプソプションの群れの中に飛び込んで、剣を振り回し、断末魔と襲って来る叫びを聞きながら、何体かを倒した時、ふと今までとは違う感覚を感じた。

 魔力探査は使ってないのにどうして……と戦いながら考えたけど、それはすぐに理由がわかった。

 すぐ近くに、数人の人間が走り込んで来たからだ。

 多分、俺達とは違う、魔物でもない人の気配を感じたからなんだろう。

 その数人の人間達は、戦ってる最中の俺に近付き、ほど近い場所まで来た辺りで、先頭の人物が大きく叫んだ。


「待て! マギアプソプションは私達の獲物だ! 男なんぞに取らせない!」


 この声は、赤信号さんか――。



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