第413話 絡まれているソフィー



 クラウスさんにお願いしに来て、結局依頼受ける事になったけど、隣にいたモニカさんはメモを取りながら話を聞いていて、依頼に関して特に何も言わなかったし、大丈夫だろう。

 エルサは……モニカさんの所で丸くなって寝ているように見えて、目だけは開けて、話を聞いていたようだ。

 開いてる目が、いつもより鋭いような気がするけど……多分、キューに関する事を考えてるからだろう。

 ……マギアプソプションを、ブレスで焼き払うとか考えてないと思いたい……焼き畑農業になってしまうし、また魔力溜まりができそうだし。

 うん、注意して見ておこう……。


「では、一旦獅子亭に帰って話した後、調査に向かいます」

「はい、よろしくお願いします」


 ヤンさんに断って、部屋を出る。

 一旦獅子亭に言って、ソフィーにも話をしてから、農場予定地の調査に出発だ。

 同じパーティだし、正式に依頼を受けたんだから、ちゃんと話しとかないとね……魔物の討伐もありそうだし。

 そう思いながら、冒険者ギルドの建物内を移動する。


「なんなのだ、その子供は! ……まさか!」

「まさかとはなんだ。別に私はやましい事はしてないぞ?」

「……ん?」

「この声、ソフィーよね?」

「そうみたいだね。どうしたんだろう?」


 ギルドのの廊下を歩いていた時、近くなった受付の方から、何やら叫ぶような声。

 揉めている声のようにも聞こえるけど、叫んでいる声に答えるのは、よく知っている声だし、落ち着いてる様子だ。

 立ち止まり、モニカさんと顔を合わせて確認。

 フィリーナも頷いてるし、やっぱり、落ち着いてる方の声はソフィーのようだ。


 女性の声であの話し方をするのは、俺の知っている中ではソフィーしかいないしね。

 けど、叫んでいる方の声も、ソフィーに似ている話し方のようだったけど……?


「とにかく、行って見ましょう」

「そうだね」

「ええ」


 モニカさんに頷き、三人で少し速足になりながら受付に向かう。

 その間も、何やら叫んでいる様子なのが聞こえて来た。

 どうやら、一方的にソフィーに絡んでいるようなんだけど……女性がソフィーに絡むって、何があったのか。

 キリッとした雰囲気でも美人のソフィーだから、男性に絡まれてるという事なら、ありそうなんだけど……?


「ソフィー?」

「あぁ、リク。話は終わったのか?」

「リクなのー」

「あぁ、うん。ユノも一緒か。一体どうしたんだ?」

「なんなのだ、この男は……?」


 冒険者たちの待合も兼ねている受付に出ると、すぐにソフィーへ声をかける。

 ソフィーはユノと手を繋いで受付の中央付近におり、その向かいには冒険者と見られる、鎧を身に着け、武器を持った数人の女性達と向き合っていた。

 俺に声をかけられて、こちらを見るソフィー。

 ユノも俺を見て一緒に声をかけて来た。


 ソフィーと向き合っている女性達のうち、一番前に出ていた女性が俺を訝し気に見て、声を出す。

 話し方と声の感じからして、ソフィーに叫んでいたのはこの人のようだ。

 しかしこの人の恰好……どうなんだろう、これは……。


「えっと、ソフィー……知り合い? 何か揉めてたような声が聞こえたけど?」

「揉めているつもりはないんだけどな。まぁ、向こうが突っかかって来ている状況だな。私とユノが一緒にいる事が気になったらしい」

「ユノと……?」

「……ソフィー、どういう事だ? 子供を連れている事といい、男と親しそうに話していることといい……説明しろ!」

「ふむ、お互い初対面だし、紹介が必要か……あ」

「リクー、お手伝い終わったのー」

「おっと。そうか、ユノ、偉かったな」

「えへへ―、なのー」


 ソフィーのいる所へ、モニカさんと近付きながら、どういう事かを聞く。

 フィリーナは、少し離れた場所で様子を見るつもりらしい、エルフが近付くと、話がややこしくなるとか考えて良そうだ。

 説明によれば、ユノといる事で向こうから絡んで来ている状況らしい。

 ユノがいるからって、どうしてだろう……?

 子供と一緒にギルドに来てはいけないという事ではないだろうし、さっきまで聞こえて来ていた叫び声の内容からすると、そういう事ではないようだ。


 俺が近付いて行くと、さらに顔を険しく歪め、嫌そうにしながらソフィーに俺の事を聞く女性。

 ソフィーが一つ頷き、お互いの紹介が必要だと言ったところで、ユノが繋いでいた手を離し、俺に向かって駆けて来た。

 それを受け止めつつ、獅子亭の手伝いをした事を褒めてやると、嬉しそうな笑顔。

 ……うん、元々神様だったって事を忘れそうだね。


「まさか……その子供は、その男との……」

「いや、違う。勘違いはよせ。そういう間柄ではない」


 ユノを褒める俺を、目をむいて見ている女性。

 それに対し、首を振って否定するソフィー。

 ……何か、変な勘違いをされたかな?

 ちなみに、女性の後ろにいるのは、3人の女性。

 武器を持っている事から、もしかすると女性だけの冒険者パーティなのかもしれない。


 一番前にいる女性以外の人達も、驚いている様子ではあったけど、ソフィーに対して何かを言うような雰囲気じゃない。

 多分、さっきから叫んでいる女性だけが、ソフィーに絡んでいたんだろう……後ろの人達、止めようとしてる気配すらあるし。


「ルギネぇ……ソフィーが気になるのはわかるけど、あまり突っかかるのもよくないわよぉ?」

「そうですお姉さま。私達がいるじゃないですか」

「ルギネ、情熱的なのは良い事だけど、あまり行き過ぎると嫌われるわよ。焦げた肉のように……」

「アンリ、グリンデ、ミーム。今は黙っててくれ。これは私にとって大事な事なんだ!」

「はぁ……リク、この赤い髪をしたのが、リリーフラワーというパーティを率いるリーダー、ルギネだ。後ろにいるのは、アンネ、グリンデ、ミームという。この4人でパーティを組む冒険者だな」

「そうなんだ。えっと……初めまして。ソフィーとパーティを組んでいる、ニーズヘッグのパーティリーダー、リクです」

「同じくパーティメンバーの、モニカです」


 後ろの三人に止められながらも、それを黙らせるように叫ぶ女性……ルギネさん。

 皆同じパーティで冒険者なのは間違いなかったようだ。

 ソフィーの紹介を受けて、俺やモニカさんも自己紹介。

 とは言っても、自分の名前とパーティ名を言うくらいの簡単なものだけどね。


 最初にルギネさんに声をかけたのは、緑色の髪を腰まで伸ばしているアンリさん。

 垂れ目を眠そうにしながら、ゆったりとした喋り方をしている。

 一番年上に見えるアンリさんは、泣きぼくろとモニカさんよりも大きな……巨大といっても過言ではない程の胸を持ち、肌の多くを出していない格好なのにも関わらず、異様な色気を醸し出している。

 ……あまり注視するのは止めよう……色気に惑わされる可能性以前に、隣にいるモニカさんからの視線が痛い。

 でも、背中に二メートル近くありそうなでっかい斧を背負ってるけど……まさかそんな物を振り回したりするんだろうか……?


 次に声をかけたグリンデさん。

 この人は、四人の中で一番年齢が低そうで、幼さの残る声をしている。

 ショートカットにした黄色の髪と同じように、勝ち気な目と相俟って、活発な印象を受ける。

 身軽な服装で、太ももに左右一本ずつ短剣を携えており、活発な印象通り、素早い動きで敵をかく乱する役目を担ってるのかもしれないね。

 小柄で、ユノを除いたこの場にいる誰よりも小さい。


 一人ずつどんな人かを考えながら、リリーフラワーという冒険者パーティ、それぞれのメンバを順々に見ながら、その様子を窺った――。



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