第374話 エルフの集落での出来事を説明



「お礼を言われるほどの事じゃ……それよりも、あんまり強くない反応だから、弱い魔物なんだろうけど……森の中に魔物が散らばってるのは、どうするの?」


 今も、それほど近くに魔物はいないけど、探査魔法を使ってみると、魔物らしい反応がそこかしこに散らばっている。

 反応としては強くないし、人間に近寄って来ない事から、強い魔物とは思えないけど、冒険者や兵士さんでもなければ、危ない可能性が高い。

 それらはどうするんだろう?


「それについては私が。この森にいる魔物は、リク様が仰る通り強くはありません。それでも、戦えない者にとっては、命の危険に晒されるでしょうが……。なので、定期的に討伐される運びになるかと思います」

「そうなんですか?」


 エフライムに代わり、同じ焚き火を囲んでいたマルクスさんが、俺の疑問に答えてくれる。


「はい。王都が管理するという事は、兵士による討伐がされるという事でもあります。……ヴェンツェル様なら、良い訓練場ができたと喜びそうです」

「ははは、確かにそうですね」


 確かにヴェンツェルさんなら、訓練と称して兵士さん達を引き連れて、魔物討伐に乗り出しそうだ。

 自分も含めて、人を鍛えるのが好きらしいからなぁ。

 それに、魔物と戦う経験なんて、簡単に得られる物じゃないから、この森の強くない魔物というのは丁度いいのかもしれない。

 もちろん、ある程度は危険を排除されるだろうから、訓練も安全に行われると思う……人数を多くしたり、ベテランの兵士や強い人を連れてきたりね。


「それに、もし王都の方で人手が足らなければ、冒険者に依頼が来るだろう。定期的に討伐の依頼が出るのは、冒険者としてありがたいな」

「そうだね。兵士さんが手一杯な時もあるし、その時は冒険者ギルドに依頼をすればいいのか。それなら、ここにいる魔物を、今殲滅したりしなくても良さそうだね」


 兵士さんが常に、この森の魔物を討伐できるとは限らない。

 何もなければ大丈夫だろうけど、魔物襲撃の時のような事があれば、討伐するために兵士を派遣するのも難しくなるだろうしね。

 そんな時、冒険者が代わりに依頼を受けて討伐するのであれば、この森が危険な場所になる事も防げると思う。


「そうですね。兵士の訓練の場となる。さらには冒険者ギルドと協力する事で、森を安全に保ち、王都から伸びる道の一つを活性化できると……」

「冒険者には、依頼を求める者が多いからなぁ。多くの依頼がギルドに出されているが、Dランク以下の冒険者はそれでも依頼や報酬にありつけない事もある。まぁ、微々たるものだろうが、それでも依頼が増え、冒険者が受けられる依頼の幅が広がるのは、良い事だ」


 うんうん頷きながら話す、マルクスさんとソフィー。

 この森の魔物が、どの冒険者ランクで討伐できるような強さなのか、はっきりとわからないけど、生活に困窮する可能性の高いDランク以下の冒険者が、しっかりと経験を積めて報酬ももらえるようになれると言うのなら、確かにいい事だね。

 ソフィーの言う通り、多くの冒険者が……という事はなく、微々たる影響なんだろうけど。

 まぁ、ないよりはマシだね。


「……リク、今殲滅するって言ってなかったか?」

「え? うん、そう言ったけど。探査魔法で森の中にいる魔物を探して、倒せばいいかなと」

「そんな事が可能なのか? いや、リクの実力を疑うわけではないのだが……探査魔法も、地下通路の時に使っていたし。だが……あの時とは広さが違う。それに、森はさらに入り組んでいるだろう?」

「……エフライム様は、エルフの森での事を知らないのですか?」

「あー、そういえば話していませんでしたね。あれを知っていれば、リクさんが森一つの魔物を全て討伐する事は、造作もない事だと納得できるんですけどね」

「ソフィー殿、モニカ殿……そのエルフの森とはなんなのだ? 確かに、アテトリア王国にはエルフの集落があり、友好的な関係を保っていると聞くが……」


 エフライムは、どうやら俺がさっき言った殲滅という言葉が気になったようだ。

 エルフの集落でもやった事だけど、探査魔法で魔物を探し、反応のある場所へ向かって討伐……という事を繰り返せば、魔物を全て倒す事も不可能じゃないはずだ。

 あの時、森の中を案内してくれた、アルネやフィリーナが今はいないから、時間はかかるだろうけどね。

 でも、エルフの森よりも魔物は多くなさそうだし、できない事じゃないと思う。


 ソフィーとモニカさんは、その時一緒にいたから納得顔をしている。

 というより、エフライム達にエルフの集落の事を言ってなかったっけ?

 ……ラクトスの事と、王都での事くらいしか言ってなかったか。

 仕方なく、夕食を食べている間に、エフライムやレナ、マルクスさんにエルフの集落であった事を説明した。


 マルクスさんは、王都にいたから情報は知っていたらしいけど、改めて俺達から聞いて驚いた様子だった。

 レナは、俺が凄いという事しか感じなかったらしく、無邪気に俺を褒めて喜んでたけど……皆がいてくれたおかげなんだよね。

 エフライムは……開いた口が塞がらないという様子だ。


 考えてみれば、エフライム達は俺に最高勲章が授与されるのは知っていたけど、その後に攫われたから、エルフの集落での事は知らなくて当然か。

 勲章自体は、ラクトスでの戦いから授与が決定された事だし。

 大体の日数を計算すると、俺がエルフの集落から帰る前後くらいで、エフライム達は攫われたわけだからね。


「エルフの集落か……子爵領にエルフはいないので、実際に見た事はないが……そんな事をしていたのだな、リクは。陛下以外では、この国で今一番の重要人物ではないのか?」

「いや、俺はただ……冒険者として、助けられる人達を助けたかっただけだよ。重要人物になったつもりもないんだけどなぁ」

「子爵領だけでなく、王都、ヘルサル、エルフの集落と救って来たのだ。冒険者という事に関わらず、功績がずば抜けている。本来なら、俺ではなくリクに護衛が付くべきだろう」


 俺に護衛かぁ。

 そりゃ、何かしらの事が原因で狙われたりしてるなら、守ってくれる人がいれば……なんて思うけど、実際はそんな事ないし、必要性もあまり感じない。

 モニカさんやソフィー、ユノやエルサがいてくれるからね。


「エルフ……私も見た事がありません。王都に行くと、いるんですか?」

「ん~、そうだなぁ。王都を歩いてみた感じ、エルフはいなかったように思うけど。ね、モニカさん?」

「そうね。人間の他には、獣人がいるくらいだったわ。獣人なら、子爵領でも見られるんですよね?」

「もちろんだ。獣人は大切な、人間の隣人だからな。数が多いとは言えないが……一つの街に数十人はいるのではないか?」


 そういえば、獣人というのもいたね。

 センテの街で、武具店をやっているエリノアさんや、冒険者ギルドの受付でも何度か見た覚えがある。

 王都やヘルサルでも街中を歩いていると、すれ違う事もあったか。

 見かける度に、モフモフしている耳や尻尾に触れたくなる事が多いけど、さすがに初対面で触ったりと変質者のような事はできないので、その時はエルサをモフモフして我慢してる。

 変な事して捕まりたくはないし、エルサのモフモフは最高だからね。



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