第371話 王都へ向け出発



「イオニスさん、お世話になりました」

「いえいえ、リクさんが来てくれたおかげで、この村は救われました。本当に、ありがとうございました。また機会があれば、この村に来て下さい。歓迎いたします」

「はい、また来ますね」


 見送りに来てくれたイオニスさんに、まずは俺が代表して挨拶。

 宿から食事にと、お世話になった事が多いから、しっかりお礼を言っておく。


「ロータ、しっかり頑張るんだぞ。お母さんの手伝いも、忘れずにな?」

「うん、頑張るよ、師匠! リク兄ちゃんも、またね!」

「またな、ロータ。頑張るのもいいけど、無理はするなよ?」

「うん、わかってる!」


 ロータにも、ソフィーと一緒に挨拶しておく。

 後ろで、ロータの母親が頭を下げてくれてるので、俺達も頭を下げる。

 ロータもそうだが、ヌートさんが亡くなったばかりなのに、気丈な人だなと思う。


「リク殿、エフライム達を頼む。陛下にも、よろしく伝えてくれ」

「はい、無事に王都へ送り届けます。陛下にも、子爵の事をしっかり伝えさせてもらいますね」

「うむ。エフライム、レナーテ。二人共、しっかり王都を見て来るのだぞ? 陛下に失礼のないようにな」

「はい、お爺様」

「もちろんです。リク様と楽しんで来ます」


 最後は、クレメン子爵との挨拶。

 クレメン子爵は、オシグ村にもう少し留まり、迎えの護衛騎士さん達が来るまで、イオニスさんと話したり、村の視察をするようだ。

 色々話す事があったり、しっかり村や街を見ないといけないなんて、領主や貴族ってのも大変だな。


 俺の言葉に頷いたクレメン子爵は、次にエフライムとレナの方へ顔を向け、声をかける。

 エフライムは頷いただけなのだけど、レナ……俺と楽しむって、それでいいのかな?


「いや、レナ……それもいいのだが……メイ、レナーテを頼んだぞ?」

「はい、お任せ下さい」

「ん?」

「どうされましたか、リク様?」


 溜め息を吐くように、お気楽にしてるレナを見て、メイさんに視線を向けたクレメン子爵。

 それに対し、頷いたメイさんだったけど、それを見て俺は首を傾げた。


「いえ……メイさんも、王都へ?」

「もちろんでございます。レナーテお嬢様といる事が、私の使命ですから」

「そ、そうですか……」


 聞いてなかったんだけど、メイさんも一緒に王都へ来るようだ。

 嫌とかそういう事ではないけども……メイさん一人で、王都への護衛は十分じゃないかな?

 いやまぁ、エフライムもいるから、一人じゃ不十分なのかもしれないし、数人は護衛がいないといけない、と言うのもわかる気はするんだけどね。

 メイさんの奥の見えなさが、全て一人でやっちゃいそうな雰囲気がしててなぁ……まぁ、あまり気にしないでおこう。


「それでは、出立致します!」


 皆が馬車へ乗ったのを確認し、マルクスさんが大きな声を出して、馬を走らせ始める。

 馬車の中は、モニカさんとソフィーとユノが並んで座り、対面の御者台側にエフライムとレナとメイさんが座ってる。

 エルサは、レナに気に入られたからか、抱かれてモフモフを堪能されてるようだ……王都に帰るまで、少し寝不足になりそう、かな?

 俺は探査魔法で、辺りを窺う役目だから、マルクスさんと一緒に御者台だ。

 来る時よりも人数が増えたけど、大きな馬車には余裕があって、俺が御者台から馬車の中に行ったとしても、余裕がありそうだ。


「お爺様、行って参ります!」

「行って来ます!」


 走り始めた馬車の小窓から、エフライムとレナが顔を出して、見送りに来てくれていたクレメン子爵に向かって声を出す。

 御者台から見る限りでは、エフライムやレナを見送るクレメン子爵は、少し寂しそうな表情をしていた。

 孫が王都へ旅立つからかもね。

 その後ろで、イオニスさんが頭を深々と下げ、ロータが両手を振ってくれていたので、俺はそれに返すようにして、オシグ村を離れた。


「リク様、明日には王都に到着する予定です」

「はい。今日はどこで野営をしましょうか?」

「そうですね……森に入るまでに一度休憩をし、こちらへ来た時と同じように、森で一泊……といったところでしょうか。リク様が野盗を駆逐してくれたおかげで、現在森の危険は少なくなっていると思いますし」

「そうですね。休憩するために、広場も作りましたし。今日はそこまで行きましょう」


 オシグ村から王都へとつながる街道を、馬車で走りながらマルクスさんと、予定を簡単に話し合う。

 村と森は、馬車で半日程度、森に入ってから俺が簡単に作った休憩所まで、大体数時間程度だから……暗くなる頃には、到着できるかな?

 まぁ、何も問題がなければだけど。


「リク様が周囲を警戒して下さっているおかげで、スムーズに移動できますね」

「そうなんですか? 確かにオシグ村へ向かっている時よりも、早く動いてる気はしますけど」

「はい。周囲を警戒しながらだと、速度を出すのを躊躇ってしまうのです。何かあった時に対処がしづらいですからね。まぁ、一度通った道というのも、速度を速めている理由ですが」


 周囲を警戒しながら移動するのは、神経を使う事だとは想像ができるけど、馬車の移動速度にも関わって来るとまでは考えてなかった。

 でも確かに、言われてみるとその通りだと思う。

 速度を出していれば、急に止まるのにも苦労するし、何かが襲ってきたりしても対処がしづらい。

 だから少し速度を落としてでも、周囲の安全を確認する方が優先という事だろう。


 今は、俺が探査魔法で広範囲を調べてるから、何かが来たとしても事前にわかるし、速度を緩めるまでの時間は十分にあるから、遠慮する事なく、移動を優先させられるんだろうね。

 移動に限らずだけど、広い範囲で何かがあるのかを調べる……というのは結構役に立つみたいだ。


「この分なら、多少長めに休憩を取っても、暗くなる前に森の休憩所へと到着できそうです」


 移動できる速度が速いから、目的の場所への到着も早くなる。

 完全に暗くなる前に野営予定地に到着できるのなら、テントや焚き火の支度なんかもやりやすいね。



「はーい、お昼ができましたよー」

「わーい、なの!」

「食べ物なのだわ!」


 森までの道のりを半分以上過ぎた頃、昼食を取るための休憩として、街道横に馬車を止めた。

 前よりも速く走ってる分、馬も疲れるのが早いから、今のうちに十分休ませてあげないとね。

 ササっと焚き火を作り、料理担当になっているモニカさんが皆の昼食を作ってくれる。

 まぁ、今日の昼食くらいは、村を出る時にもらった物を温めるくらいだけどね。


 とりあえず、料理を作り終え、皆に声をかけるモニカさんが、子供の面倒を見る保母さんのように見えるのは気のせいじゃないね。

 ユノとエルサが喜んでモニカさんの所へ行き、一緒にレナも向かった。

 ユノとレナはまだしも、ドラゴンのエルサが混じってるけど、小さな毛玉のようなモフモフが、パタパタと浮かんでいる様子は、なんとなく微笑ましい。


「ふむ、相変わらず、モニカ殿の料理は美味しいな」

「さすがに子爵邸で食べた物よりは、数段劣りますが……それに、ほとんど村で用意された物ですし」

「そんな事はないぞ? このスープは温かくて、体の疲れが取れるようだ。リクに助けられて、最初に口にしたスープの暖かみは、一生忘れられそうにないな」

「あのスープは体に染み渡るようでしたね、お兄様」


 そう言って、スープの入った器を持ち上げ、褒めるエフライム。

 助けられた時の事を思い出しているのだろう、少し遠い目をしたエフライムと、それに同意するレナ。

 二人共、長い間閉じ込められて、まともに食事をしてなかったんだろうな。

 そのうえ疲れ切った体で、モニカさんの暖かいスープを飲んだら、それは一生忘れられない味になってもおかしくない。

 夜だったし、体が暖まったのもあるかもね。


 確かにモニカさんのスープは美味しい。

 いつも簡単そうに作ってるけど、多分マックスさんに仕込まれたんだろうと思う。

 以前モニカさんに、いつもスープを作って手間じゃないか聞いたら、むしろスープの方が手間がかからないって言ってたっけ。

 その時ある食材を処理して、煮込んで、後は少し味を調えるだけ……と、簡単そうに言ってた。


 持っている食材や残っている食材をバランスよく使うためには、丁度いい料理なんだと思う。

 煮込み料理だから、後で味を調えられるのも大きいのかもしれない。

 なんにせよ、碌に料理のできない俺からすると、凄い事だと思うし、外にいても美味しい料理を作ってくれるのは、感謝しかないなぁ……。


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