第363話 再開とロータの決意



「イオニスさん、ロータやソフィーはどうしていますか?」


 てっきり、出迎えてくれてる人達の中に、二人がいるかと思っていたんだけど、今のところ見当たらない。

 ソフィーの事だから、俺達が戻って来るのをわかっていても、ロータの訓練を優先している可能性が大きいけどね。


「リク兄ちゃん!」

「お、ロータ!」


 クレメン子爵との話が落ち着いたあたりで、イオニスさんに聞いていると、村の人達の後ろから俺を呼ぶ声。

 それと共に、奥の方から走って来る小さな影。

 すぐにそれがロータの姿だとわかった。

 というより、俺の事をリク兄ちゃんなんて呼ぶの、ロータしかいないからね。


「ふむ、私もリクお兄ちゃん! とか呼ぶのも楽しそうだな……」

「止めてよ、ソフィー。ソフィーの方が年上でしょ? むしろこっちが、ソフィーお姉ちゃんとか呼ぶ方が正しいんじゃない?」

「それは止めてくれ……城に戻った後がややこしそうだ……」


 正面から駆け寄って来るロータを見ながら、横から近づいて話しかけて来たソフィーに返す。

 俺はもちろん気付いていたし、モニカさんやユノも顔を知っているから気付いていたようだけど、気配を消してススっと横から近付いて来た事に、クレメン子爵やエフライム達は驚いていた。

 何故か、レナはソフィーを睨むようにしていたけど……何でだろう。


 それはともかく、ソフィーをお姉ちゃんとか呼んだ場合、城に戻った時、姉さんの前で呼ぶ事になったらややこしそうだ。

 私の事もお姉ちゃんとか、お姉様とか呼んで……なんて言いそうだしな、あの女王陛下は。

 逆に俺がソフィーにお兄ちゃんと呼ばれるのも、なんだか色んな人から白い目で見られそうで嫌だ。

 ロータは男同士だから問題ないが……俺にはそう呼んで欲しい願望なんてないからね……弟か妹が欲しいと思った事はあったけど。


「リク兄ちゃん、俺頑張ってるんだ! 見てよ、ようやくソフィー師匠に、剣を持つ事を許可してもらったんだ!」

「おぉそうか。頑張ったんだな、偉いぞ?」

「ふふん」

「ソフィー、ロータに師匠って呼ばれてるの?」

「いや、まぁな……。私は別に呼び方を気にしないんだが、ロータが急に言い出したんだ。そっちの方が、教えてもらってるという感覚になるんだそうだ」


 ソフィーより遅れたけど、ようやく俺の前まで駆けて来たロータが、父親から受け継いだ剣を持ち、誇らしそうにそれを翳して見せる。

 訓練の最初は、体力作りのようなものばかりで、剣を持たせてもらえなさそうだから、この数日で持てるようになったのは素直に凄いと思う。

 それを見て褒めてやると、嬉しそうな照れくさそうな表情をするロータ……よっぽど嬉しいんだな。


 俺の後ろでは、ソフィーが師匠と呼ばれてる事を、モニカさんに突っ込まれてた。

 そういえば、俺達が村を出る時はまだ、師匠なんて呼ばれてなかったっけ。

 まぁ、ロータは形から入るタイプなのかもしれないけど、師匠とかから剣を教えられて、強くなっていく……というのは男の子にとってロマンの一つだからな、うん。


「ふむ、そちらの女性がリク殿の仲間か? そして、そちらの少年が……被害に遭った者の息子、か」

「あぁ、はい。こちらが同じパーティのソフィーです。ソフィー、この方がクレメン子爵だよ」

「クレメン子爵様、お初にお目にかかります。不躾に話しかけた事、お許し下さい」

「はっはっは、気にしてはおらんよ。ソフィー殿、そう畏まらずとも良い。……それで、だが……」

「えぇと、ロータ?」

「どうしたの、リク兄ちゃん?」


 ソフィーやロータと、再開を喜んで話していると、後ろからクレメン子爵に声をかけられた。

 おっと、忘れちゃいけない……今は子爵様が一緒にいるから、そっちの方が大事だよね。

 ソフィーの事を紹介し、お互い言葉を交わした後、クレメン子爵は何かを言いたそうに、ロータへと視線を向ける。

 多分、ロータの父親、ヌートさんの事だろうな。


 さっきもイオニスさんに謝っていた事から、直接被害に遭ったと言えるロータに対し、何か言いたい事があるんだろう。

 剣を翳して笑っていたロータの剣を降ろさせ、後ろに回って背中を押しながら、クレメン子爵の前へ。

 突然知らない人の前に立たされたロータは、キョトンとしてるね。


「……ロータ、と言ったね?」

「うん、そうだけど……お爺さんは誰?」

「これロータ! その方は……」

「良い。身分の事などワシは気にしていない。それにワシは、この子に謝らねばならんからな」

「はぁ……畏まりました」


 クレメン子爵は、膝を付き、ロータと視線を合わせて問いかける。

 キョトンとしたままのロータは、クレメン子爵が誰かがわかっていないようで、イオニスさんから怒られそうになるが、それをクレメン子爵が止めた。

 本人から止められたら何も言えないのか、イオニスさんは頷いてロータに何も言う事はなくなったけど、周囲の村の人達も含めて、ロータが失礼な事を言わないかハラハラしている様子だ。

 クレメン子爵なら、多少の事で怒ったりしないだろうから、大丈夫だと思うけどなぁ。

 いや、知り合って数日で偉そうなことは言えないけど……。


「ロータ……ワシは、この辺りを任されている、クレメンという者だ。そなたの父親の事、全て責はワシにある。魔物への対処、野盗の捜索等……領内の事をしっかりしていれば、そなたの父親が被害に遭う事はなかったはずだ。謝って済む問題ではないのはわかっているが、すまなかった……」

「うーんと……お爺さん……クレメンさんは、父ちゃんの事、覚えててくれる?」

「……もちろんだ。決して忘れることはないと誓おう」

「だったら、もう謝る事はないよ。父ちゃんは、村を守るために頑張ってくれた。僕を守るために、刺されながらも馬を走らせてくれた! おかげでこうしてリク兄ちゃんが来てくれて、村は無事だし、魔物もやっつけてくれたし、父ちゃんの仇も取ってくれたんだ! 今度は、僕が父ちゃんの代わりに村を守るんだ!」

「……そうか、そうだな……」


 視線を合わせて謝るクレメン子爵。

 全ての責は……と言っているけど、実際に悪いのは野盗であり、魔物だ。

 クレメン子爵は、バルテルによって動きようがなかったのだし、責められる部分はほとんどない…と俺は思うが、それはロータには関係ない。

 だがロータは、父親の事を忘れないと言ったクレメン子爵に、無理矢理作ったような笑顔を向けて、はっきりと宣言するように言った。


 ロータの言う通り、ヌートさんが命がけでロータを守ったおかげで、ロータは王都の冒険者ギルドに辿り着けたし、それがあったから俺はここに来れた。

 それがなければ、魔物が出た事や、野盗の事なんて何も知らずに、ただただ犠牲が増えて行ったのかもしれない。

 それに、ついでと姉さんに頼まれたとはいえ、おかげでエフライムやレナを助ける事ができた。

 きっかけだとか、色々と複雑な事があるけど、ヌートさんやロータが頑張ったおかげで、今皆ここにいる事は確かだ。


 俺が来なくとも、いずれは解決できた事ばかりかもしれないけど、遅くなればなる程、作物や人に被害が大きくなってしまう。

 エフライム達も、騎士団長さん達が無事に助けたとしても、もう少しあの狭い部屋に閉じ込められてただろうしね。

 そう考えると、命を賭けてロータを守り、魔物や夜盗の事を伝えさせたヌートさんの功績は大きいんろうなぁ。


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