第326話 助けた男性に事情を聞く
「はぁ……はぁ……」
「もう少しです。あの木陰に、乗って来た馬車がありますから」
「うむ……はぁ……ふぅ……」
歩くだけでも良きが乱れてしまう男性を、支え励ましながら一緒に歩く。
もうすぐ近くまで馬車を止めた場所に来ているから、もうひと頑張りだ。
数個の木が並んでる向こう側には、焚き火をしていると思われる煙がうっすらと見えるから、モニカさんが用意してくれたんだろう。
そこまで行けば、この男性を休ませてあげることができる。
「モニカさん!」
「あ、リクさん! 無事でよかった。……その人は?」
「あはは、何か捕まってたみたいで……とりあえず助けて来ました。っと、まずはこの人を休ませないと」
「この子も、ですね」
「はぁ……はぁ……すまない……」
「すぅ……くぅ……」
「大変! えっと……ユノちゃん、馬車の荷物の中から、毛布を取ってきて! それを敷いて、その子を横に。貴方は……横にならなくても大丈夫かしら。ならこっちに来て座って。スープがあるから、それを飲んでゆっくり休んで!」
焚き火の横で、鍋をかき混ぜながらユノと一緒に座っているモニカさんに声をかける。
こちらを見たモニカさんは、俺達が無事に帰って来た事を喜んだけど、すぐに俺が支えてる人に気付いた。
疲労している様子と、寝ている女の子を見て、すぐにバタバタと動き出すモニカさん。
ユノに指示を出し、適格に二人を休ませていく。
その様子は、マリーさんを彷彿とさせるものがあった。
やっぱり、親子なんだなぁ。
「はぁ……休まる。こんな暖かい物を頂いたのは、久しぶりだ。感謝する。……妹が起きたら、飲ませてやりたいな」
「目が覚めたら、飲んでもらいますよ」
「落ち着いたようですね。良かったです」
焚き火の横に座り、体を休めながらモニカさん特性のスープを飲み、人心地ついた様子の男性。
暖かいスープを飲みながら、男性は近くで毛布の上に横になって寝ている妹へ視線を送りながら、呟いた。
妹の事を心配している、良いお兄さんってところかな?
「それで、何故あのような場所で捕まっていたのか、事情を聞かせてもらえますか?」
焚き火を囲み、他の皆もスープを頂く。
その中で、マルクスさんが男性から事情を聞き出そうと切り出した。
「うむ……その前に聞きたいのだが。君たちは、バルテルの手の者ではないのだな?」
「バルテル……?」
「バルテルって、あの?」
「バルテルが他にいるのかは知らないが……この国の貴族であるバルテル卿の事だ」
「やっぱり、あのバルテルみたいですね、マルクスさん」
「そのようです。しかし、バルテルが関わっていて、ここでその名を聞く事になるとは……」
「俺達は、バルテルとは何も関係がありません。偶然あの建物を見つけました」
男性の口から出たのは、以前姉さんを人質に取り、他の貴族を捕らえ、城を占拠しようとしたバルテル。
思わず顔を見合わせ、俺達の知ってるバルテルなのか疑問符を浮かべるモニカさん。
その様子を見ながら、男性がバルテルの事を貴族だと言い、これで俺達の知っているバルテルで間違いないと確定した。
俺も予想していなかったけど、マルクスさんも同じようで、顔をしかめながら驚いてるようだ。
俺達の中では、バルテルの事はもう終わった事。
帝国との関与を含め、色々と問題は残ってはいるけど、王都から離れた所でその名前を聞くとは思ってもみなかった。
しかも、バルテルとは違う貴族領でその名を聞くなんて。
「あの建物にいた者達は、バルテルの手の者だ。定期的に交代して俺達を見張っていたのだ」
「バルテルの……どうしてそんな事を?」
「俺にはわからん。だが、何か目的はあったようだ。……おそらく、俺と妹を人質にして、父や祖父を脅していたのだと思う。最近は何故か、交代の人員が来ないと、見張りの男がぼやいていたな。バルテルに何かあったのかもしれんが……」
「……失礼。申し訳ありませんが、貴方のお名前は?」
男性が話すには、さっき俺が眠らせた男達は全てバルテルの手の者だったらしい。
バルテルが何を狙っているのかはわからないけど、この兄妹を捕まえて家族を脅す材料にしてたのか……。
姉さんを人質に取った事や、城に集まった貴族を捕まえる事といい、卑怯な男みたいだね。
まぁ、もういないけど……。
多分、交代の人員が来なくなったのは、バルテルが死んだからだろうね。
指示や計画をしていた張本人がいなくなったんだから、そうなるのも当然か。
それに、王都から少し離れてる場所だから、情報が入って来なかったんだろう。
そう考えながら話を聞いていると、マルクスさんが男性の言葉を遮り、名前を聞いた。
そう言えば、まだこの人達の名前も聞いてなかったね。
バルテルが脅す必要があって、人質を使うくらいだから、名のある人なのかな?
「まだ名乗っていなかったか。俺の名前は、エフライム・シュタウヴィンヴァー。クレメン・シュタウヴィンヴァーの孫になる。貴方は、兵士なのだな? なら、お爺様の事も知っていると思う」
「シュタウヴィンヴァー……っ、失礼しました! 私は王都騎士団中隊長、マルクスと申します。子爵様のお孫様だとは思いもせず……」
「それは構わない。あの状況では、会った事がない者が、俺を子爵家の者だとは思わないだろう」
「はっ!」
マルクスさんやモニカさん、ユノを除いた人達が男性……エフライムさんの言った事に驚く。
もちろん、俺も驚いた。
まさか、これから行こうと思っていたクレメン子爵邸、そこの孫だったとはね。
着ている物や、雰囲気が一般の人とは違って、それなりにいい所の人かなとは思っていたけど、貴族家の人だったのか、ちょっと納得。
「シュタウヴィンヴァー、子爵家……クレメン子爵ですか」
「お爺様を知っているのか?」
「あぁ、えっと……これから、俺達はそのクレメン子爵邸に行こう、と思っていたところなんです。途中で怪しい建物と集団を見つけたので、そちらに行ったら……と言うのがここまでの状況ですね」
簡単に、エフライムさんに俺達がここに来て助けた事情を伝える。
「そうか。俺達の、いや、お爺様の所へ。君達は何者なのだ? 王都の騎士団、しかも中隊長になる程の者がここにいるとは……君たちは冒険者のように見えるしな。お爺様が王都へ助けを求めたか?」
「いえ、王都へクレメン子爵は何も言っておりません。領内へ姿を見せる事もなく、子爵邸にこもっておられるようです」
「そうか、俺達が人質にされて、お爺様は身動きが取れなくなっていたのだろうな。バルテルの事だ、監視もしているだろう。それで、君達は? 冒険者と騎士団の者が一緒というのは珍しいが……」
バルテルがクレメン子爵を脅し、身動きを取れなくしたうえで、妙な動きをしないように監視していたんだろう。
だから、クレメン子爵は領内の視察に出る事ができなくなり、近くに魔物が出ても兵士に討伐させたりもできなくなったのかもしれないね。
マルクスさんが情報を集めてくれて、色々考えてたけど、結局はクレメン子爵が何かを企んでいたわけじゃなかったというわけか。
本当に企んでいたのは、バルテルだった。
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