第325話 建物内部に突入と救助
「凄いですね、見張りが見る間に倒れて行きます」
「無事、寝てくれたみたいですね……奥まで届いていなければ良いんですが」
「まぁ、捕まっている親子と思われる人物達も、寝ていたら運び出してから起こしましょう」
「そうですね」
マルクスさんと話しながら、霧が建物の中に入って行き渡るのを見守る。
内部の様子は目では見えないけど、魔法探査を使ってるから、何となく寝ているかどうかわかる。
立ったまま寝るとかはほぼないと考えているし、実際見張りの人達が倒れ込んで寝た様子を見ても、今までと違う動きを感知すれば良いだけなはずだ。
「……そろそろ、ですかね?」
「そうですね……奥の2人は最初から座ったりしているので、本当に寝ているのかまでわかりませんが……それ以外の人間は倒れたようになっている感じなので……大丈夫だと思います」
「わかりました。それでは、中に突入しましょう」
「はい」
マルクスさんから聞かれて、魔法探査で内部の様子を窺っていた俺は、そこから返って来る魔力反応に注意しながら答えた。
多分、奥の2人以外は全員寝てるはずだから、もう大丈夫だろうと思う。
マルクスさんと顔を見合わせ、頷きあって隠れていた木の影から建物に向かって移動を開始した。
「……静かですね。リク様の魔法のおかげで、本当に寝ているようです」
ギィィィィと、建て付けが悪いのか、思ったよりも音のなる入り口の扉を開け、マルクスさんと俺が中に入る。
中に入ると、床に崩れ落ちて寝ている3人がいた。
魔法探査で確認してた通りだね。
寝息やいびきが聞こえる以外は、話し声も何も無く、建物の中は静かだった。
これで話し声や物音がするなら、魔法が効いてないって事だから、もっと警戒して入らないといけなかったけどね。
「ここも……寝てますね」
「はい、そのようです。……これは、厳重ですね」
「はい。やはり閉じ込めていた、と考えるべきでしょうね」
入り口近くで寝ている男達3人をそのままにして、建物の奥へと進む。
何個かの小さな部屋や台所と見られる場所を通り過ぎ、建物の一番奥まった場所。
何かしらの部屋を通らないと、辿り着けないような構造になっていて、忍び込もうとしても、どこかしらで見つかる可能性が高い作りをしていた。
その一番奥の一つ手前。
その部屋は人が数人入れるだけの小さな部屋で、中には椅子が一つあるだけだ。
そこで、俺が魔法探査で感知していた人間の男が1人、椅子から床に倒れ込んで寝ている。
その男の向こう側には、金属でできた扉があり、南京錠のようなもので鍵を付けられていた。
外から鍵を……ってことは、やっぱり閉じ込めてたと考えて良いだろうね。
「リク様、この男が鍵を持っていました」
「そうですか……閉じ込めて置いて見張り。間違いなく捕まえて来た人を、捕らえておくための部屋ですね」
「はい。……それでは、開けます」
「お願いします」
床にうつ伏せで寝ている男を探っていたマルクスさんが、扉を開けるための鍵を発見してくれる。
それを使って、南京錠っぽい物を外し、扉に手をかけた。
マルクスさんが扉を開いて、俺は何が出て来ても対処できるよう、鞘に収まったままの剣に手を添え、備える。
絶対に危険がないって、わかったわけじゃないからね。
「……何か用か?」
「……くぅ……すぅ……」
扉を開けて中に入ると、一人の男性が寝ている女の子を抱えて座っており、こちらを睨むようにしながら声を上げた。
「貴方は?」
「む? あの者達の仲間では無いのか?」
「あの者達……この建物にいた人達の事ですか?」
「うむ……あの者達以外の者が、ここに入って来れるとは思えんが……」
男性は、俺と同じくらいの年頃に見える。
部屋が薄暗いから、はっきりとは見えないけど、顔や髪、服は薄汚れてはいるが、粗末な物ではなく元々身なりが良かったと窺わせるように見えた。
その膝の上で寝ている女の子は、あどけない顔をしていて、幼さがまだまだ残る子供だ。
ロータよりは年上……かな?
「この建物にいた者達は、全員眠らせておきました。貴方達は、何故こんな所に?」
「俺達は、ここにいる奴らに襲われ、捕まった。……窓のないこの部屋では、時間の感覚がはっきりとしないが……もう1カ月以上はここにいる気がする」
「1カ月……」
1カ月以上も、この薄暗い部屋で窓すらなく外も見る事無く、閉じ込められてたのか……。
何でこの人達が捕まってここにいるのか、理由はまだはっきりとしないけど、この建物にいた他の男達は、悪者確定だね。
「……寝ている者達がいつ起きるとも知れません。まずは外へ出た方が?」
「そうですね。わかりました。……立てますか?」
「うむ。いつかここから解放される事があると信じて、狭いながらも体は動かしていた」
「それなら、大丈夫そうですね。えぇっと……その子は?」
「妹は、何やら先程、扉の隙間から雲のような霧のようなものが入り込み、それを吸い込んで寝てしまったのだ。……体に害が無い物だと良いのだが……」
「……すみません。体には害がないので、大丈夫だと思います」
「あの霧は、君が?」
「……はい」
「すみませんが、お話は外で。その子は私が背負って行きましょう」
「すまない、頼む。自分で立って動く事はできるが、妹を背負うのは難しそうだ……」
「はい、大丈夫です」
マルクスさんからの忠告で、話をするよりもまずは外に出る事を優先させる。
魔法の効果で、まだもう少しの時間は大丈夫だろうけど……この人達を捕まえた人がいる場所で、悠長に話をする場面でもない。
事情はここから離れてから、ゆっくりと聞けば良いしね。
それにしても……子供がいるから、親子だと勝手に想像してたけど……兄妹だったようだね。
寝ている女の子を背中に背負い、マルクスさんが先に部屋を出る。
それに続いて男性が、少しふらつきながらも立ち上がって、マルクスさんに付いて行く。
大丈夫と本人は言ってたけど、やっぱり少し移動するのは辛そうだ。
まぁ、2メートル四方くらいの狭い部屋に、1カ月以上も閉じ込められてると、そうなっても仕方ないよね。
動かないと筋肉は落ちて来るし……かといって動こうにも部屋は狭い。
寝たきりの病気とかじゃ無いから、まだマシだったんだろう。
いつでも動けるために準備したというのも、相当苦労したのかもしれないな。
「ここまで来れば、大丈夫でしょう」
「はぁ……はぁ……そう、だな」
「大丈夫ですか?」
「すまない……はぁ……久しぶりに外を歩いたので、少し疲れてしまったようだ」
「もう少しで、俺達が乗って来た馬車があるので、そこまで行って休みましょう」
「うむ、わかった」
建物から大分離れ、遠目にでしか確認できないくらい離れたあたりで、今まで無言で歩いていたマルクスさんが声を出す。
何とか歩いて来た男性は、息も荒く、足元も少しおぼつかない。
それを俺が横で支えながら、もう少しで休憩だと伝えた。
女の子は、マルクスさんに背負われたまま、まだ健やかに寝てる。
ちなみに、兄妹を助けて逃げ出す前、マルクスさんが思いついて閉じ込められた扉は、閉め直してまた南京錠っぽい物もしっかりかけておいた。
寝ていた男の所へ鍵を戻すのも忘れない。
もし男達が起きた時、異常をすぐに悟られないように、というわけだね。
まぁ、建物にいた男達全員が、一斉に寝てしまったという事で、すぐにバレてしまうかもしれないけど、何もやらないよりはマシかなと思った。
大して時間もかかってないしね。
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