第284話 冒険者ギルドにて依頼の確認



「失礼します。リク様が来られました」

「リク君が!? なんだってまた……」

「えーっと、マティルデさん、失礼します」

「ほんとにリク君だわ……どうやってここまで……」


 受付の女性に連れられ、以前にも来た事のある部屋に通された。

 ワイバーンの皮を持って来た時だね。

 部屋の中には、マティルデさんがいて、一人で座って何かの書類っぽい物を見ながら仕事をしてたらしい。

 邪魔しちゃったかな?


「すぐに、お茶の用意をして参ります」

「あ、すみません」

「それでリク君。今日はギルドに何の用なの? というより、よくここまで来れたわね……?」

「ははは、まぁ、ここまでは秘密の通路を通って来ました」

「あぁ、地下通路だね。確かにあそこを通れば、誰にも見つからずに来れるね。……外を歩くのも大変だからって、そんな通路を使って来るなんて」

「……知ってたんですか?」


 お茶の準備をするという、受付の女性が退室するのを見送り、マティルデさんの質問に答える。

 秘密の通路って言っただけで、マティルデさんにはどういった物かすぐにわかったようだ。

 ギルドマスターだから、それくらい知ってなきゃいけないか。

 ともあれ、マティルデさんは俺達が外を歩くのも苦労するくらい、人に囲まれるようになった事を知ってるみたいだ。


「もちろんだよ。というより、ギルドにも依頼が来ててねぇ……」

「依頼ですか?」

「リク君達と話したいから、外を歩いてたら教えてくれとか……リク君がどこに泊っているのか調べてくれとか……一人ではリク君と話すのに緊張するから、友人を装って一緒に来てくれ……とかね」

「……そんな依頼が」


 難しい顔をさせながら、教えてくれるマティルデさん。

 俺なんかのためにそんな依頼をする人がいるなんて、考えもしなかったけど……それなら、俺が人に囲まれる事くらい、簡単に想像できるか。


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「ありがとうございます」

「ご苦労さん。まぁ、とにかく座って話そうか」

「はい」

「わかりました」


 お茶を持って部屋に入って来た受付の女性が、テーブルに置くと、マティルデさんに座るよう勧められた。

 マティルデさんにも話しに来たのもあるけど、長く居座るつもりはなかったんだけどなぁ。

 まぁ、ギルドに入った時の様子を見る限り、カウンターでじっくり依頼の確認をするような雰囲気じゃなかったから、仕方ないか。


「まぁ、そんなふざけた依頼は、審査の段階で断ったわ。ともあれ、リク君がギルドに直接来るとは思ってなかったから……受付には、依頼人もいるはずだから、すぐにこっちに来てもらって良かったわ」

「はい、リク様が囲まれる気配を察しましたので、すぐにこちらへお連れしました」

「ははは、そういう事だったんですね。何も言ってないのに奥へ連れて来られたから、どうしたのかと……」


 ギルドに来る人は、依頼を受ける冒険者だけじゃなく、依頼をする依頼人も来るのは当然か。

 そこまで考えて無かったけど、入って来た時に俺を見ていた視線の中には、さっきマティルデさんが言ったような、おかしな依頼をしようとしてた人がいたんだろう。

 ギルドの入り口で、俺達が囲まれてしまったら職員さん達に迷惑をかける所だった……すぐにここまで連れて来てくれた、受付の女性に感謝だね。


「それで、今日はどんな用で来たの? まさか、リク君が依頼を出すなんて……無いわよね? あったら緊急事態だわ」

「今日は、今どんな依頼があるのか確認に来ました。もしよさそうな依頼があれば、受けようかと思って」


 マティルデさんは俺が来た理由を聞くけど……俺が依頼を出す状況がどうして緊急事態なんだろう?

 まぁ、そんな疑問はさておいて、今日は依頼の確認に来たのだと伝える。


「はぁ……そんな事のためにあの通路を使ってまで……リク君は面白いわね」


 マティルデさんが苦笑をしながら言う。

 冒険者として、依頼を受けるために頑張る……というのはおかしいのかな?

 まぁ、本来は依頼を全力で、という事かもしれないけどね。


「皆がリク君達みたいに、依頼に対して真摯に対応してくれれば良いんだけどねぇ」

「違うんですか?」

「いるにはいるんだけどね。でも、どちらかというと少数派かしら? 高ランクになればなるほど、数はは増えるんだけど、やっぱり低ランクがね……その日生活するために活動するのもいるから」


 頭を悩ませるように言うマティルデさんと、それを聞いて深く頷いている受け付けの女性。

 高ランクになれば、大きな依頼が舞い込んで来るから、依頼をこなして人を助ける……という意識が芽生えるのかもしれないね。

 低ランクは……さっさとランクが上がった俺は詳しくないけど、DランクやEランクの依頼だと、当然簡単な依頼になって報酬も少ないから、生活するのに必死なんだろう。


 食費や宿泊費、さらには装備にもお金が必要だからね……。

 他に収入源がなかったり、俺のように獅子亭でバイトのような事をしながら、とかでなければ生活は苦しいのかもしれないなぁ。


「それで、何か目ぼしい依頼はありますか?」

「んー、そうねぇ……Aランクであるリク君に相応しい依頼は、今のところないわね。特殊な素材に対する依頼も、この前リク君がワイバーンの皮を持って来てくれたし……」

「そうなんですか? 素材以外に、前にキマイラ討伐があったように、強い魔物とかがいて危ないとかっていうのも?」

「そうそうあんな魔物は出て来ないわ。それにね、最近魔物討伐の依頼が減って来ているのよ。……正しくは、王都周辺やその他の地域の魔物が減っているらしいわ」

「魔物が?」


 マティルデさんが考える、Aランクに相応しいと言える依頼は、今のところないようだ。

 素材はまだしも、キマイラが数匹いたくらいだから、もっと他にも危険な魔物がいてもおかしくないと思ったんだけどなぁ。

 でも、マティルデさんがちょっと気になる事を言ったね……魔物が減ってる?


「魔物の調査は、王都のギルドから定期的に依頼を出して確認しているの。だけど、以前に比べて確認される魔物が少ないとの報告を受けているわ。いないわけじゃないんだけどね」


 魔物が減ったというのは、普通に暮らす人達が迷惑をしなくて良い事なのかもしれない。

 けど、冒険者ギルドとしては、依頼が減るからあまり良い事でもないのか……。

 それに、素材という観点で見ると、有用な素材が入手しづらくなるから、良い事ばかりでもいられないのかもしれない。

 

「それは、いつからですか?」

「えーっと……報告によれば、リク君が活躍した……魔物が襲撃して来た時からね……」


 マティルデさんの言葉に、ソフィーが質問する。

 城に魔物達が襲撃して来た後からかぁ……。


「という事は、周辺の魔物が集まったから……ですかね?」

「その可能性はあるわ。けど、襲撃して来た魔物が全て王都周辺にいた魔物ではないと思うの。あれだけの数が周囲に生息していたのなら、王都はもっと危険な場所になっているからね。」

「確かに……そうですね」

「周辺にいた魔物も混ざっていたのでしょうけど、魔物達は他の場所からも集まって来た……と我がギルドは考えているわ。そのうえで、集結と移動の際、周囲の魔物を捕食したのではないかと」

「ヘルサルと同じかもしれませんね」


 マティルデさんがギルドとしての考えを示す。

 それを聞いて思い出したのは、ヘルサルにゴブリンの大群が襲って来た後の事。

 ヤンさんが周辺の魔物が減ったと言っていた。

 魔物達が集結する時に、元々いた魔物達が駆逐されて……という事なんだろうね。



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