第283話 秘密の地下通路



「フィリーナやアルネは?」


 モニカさんとソフィーは部屋に来たけど、フィリーナ達はまだ部屋に来ていない。


「昨日の帰り道、今日は部屋でのんびりしてるって言ってたわ。まぁ、エルフという見た目に好奇の視線を向けられるのがわかってるから、あまり外に出たくないのかもしれないわね」

「フィリーナあたりは、気にしなさそうだがな。まぁ、昨日言ってた通り、のんびり過ごすんだろう」

「成る程ね」


 あの二人は冒険者じゃないから、わざわざギルドまで付いて来なくても……と考えたのかもしれない。

 まぁ、モニカさんの言うように好奇の視線が……というのもあるのかも……パレードからさらに注目されるようになったし。

 ともあれそういう事なら、二人にはのんびりしておいてもらって、俺達だけでギルドに行こう。

 何か依頼があって、王都の外に出るのであれば、その時誘えば良いだろうしね。


「失礼します」

「ハーロルトさん」


 食後、ヒルダさんの淹れてくれたお茶を飲みながらゆっくりしていたら、ハーロルトさんが部屋を訪ねて来た。

 昨日、姉さんが言っていた件かな?


「リク殿、陛下のご命令により、地下通路をご案内します」

「はい、お願いします」


 ささっと支度をして、ハーロルトさんの案内で部屋を出る。

 場内を移動して、ヴェンツェルさんと行った合同訓練の、訓練場の近くから地下の階段へ。


「こちらです」

「へぇー、本当に地下通路があるんですね。姉さん達にもしものことがあったら、この通路から逃げるんですね」

「この通路は、城外への伝令のための通路となります。陛下が逃げる際は、また別の通路になりますね」

「そうなんですね」


 地下は、明かりの魔法で足元まで照らされているため、少し薄暗いくらいで移動するのに問題はない。

 ただ、あちこちに道が分かれているから、案内がなかったら迷う事間違いなしだ。

 姉さんがもしもの時に逃げる通路は別にあるらしいけど……確かにそういう通路は、あんなわかりやすい場所には無いか。


「はぐれないようにして下さい。侵入者防止のため、道順を知っている者以外は迷うようになっています。そのための魔法も掛けられていますので」

「はい、わかりました」

「気を付けなきゃね……」


 通路は広大で入り組んでいるため、知っている人以外では迷いやすくなってるみたいだ。

 それに加えて、魔法でさらに迷いやすくしているらしい。

 逆にこの通路を使って、侵入して来る人がいないようにするための処置なんだろう。

 俺はハーロルトさんの言葉に頷き、モニカさんの方は、はぐれないよう俺に距離を詰めて来た。


「しかし、ハーロルト殿は迷わないのか? 道はまだしも、魔法の方は……」

「魔法は、特定のアイテムを持っている事で無効化されるのです。城の中でも、一部の者しか持っていませんがね。道順に関しては、情報部隊にいる者は全て頭に叩き込まれます」

「成る程。それなら安心だ」


 俺達を先導しながら、ソフィーの質問に答えるハーロルトさん。

 魔法を無効化するためのアイテムを持っていて、道を覚えてるから迷わないのか……情報を取り扱う部隊としては、当たり前の事かもしれない。


「地下通路なの! 面白いの!」

「こら、ユノ。あまり離れるんじゃないぞ。ほら……」

「わかったの!」


 辺りをキョロキョロとしながら、面白そうに辺りを見回しているユノ。

 気を抜いたら、好奇心によっていつの間にかはぐれてるとかありそうだ。

 俺はユノに声をかけて、手を繋いで離れないように気を付ける。

 こんなところで迷子になったら、捜索するのに苦労するだろうし、ハーロルトさん達に迷惑がかかってしまうからね。


「到着しました」


 しばらくの間、代わり映えのしない地下通路を進み、変わらない景色に飽きて来た頃、目的地に着いたようだ。

 地下という珍しい場所だけど、迷いやすくするためなのか、どこも同じような景色ばかりだった。

 最初は面白そうにキョロキョロしていたユノも、今では少し退屈そうにおとなしく俺に手を繋がれている。


「リク殿の到着だ!」

「はっ!」


 地下通路の先、行き止まりになっている場所へハーロルトさんが声をかけながら、壁を押して開いて行く。

 開いた場所には兵士さんがいて、ハーロルトさんや俺達に敬礼してくれていた。


「普通の民家なんですね」

「えぇ。通路が城へ繋がっている事を隠すため、ここは一般の民が暮らすような民家のようにしています」


 通路を通ってきた場所は、人が数人……家族で住む程度の広さがある民家だった。

 壁を開いて出た場所は、窓の無い部屋で、さながら隠し部屋のようになってる。

 その部屋から出ると、すぐに居間があり、寝室と見られる部屋も見えた……あ、厨房もあるね。


「では、リク殿。この家の右3件隣が冒険者ギルドになります。帰りはこの家に入り、常駐している兵士に言えば、城まで案内してくれますので」

「はい、ありがとうございます」


 右に3件か……かなりギルドに近い場所の家のようだ。

 帰りは兵士さんに言えば良いんだね……ありがたい。

 さすがに、一度通っただけで道を覚えれないし、何もなしだと俺達が迷うのは間違いない。

 魔法無効化のアイテムもないしね。


「それじゃ、行ってきます」

「お気をつけて……」


 ハーロルトさんにそう言って、家の扉を開けて外に出る。

 ハーロルトさんや兵士さんは、ここまでのようだ。

 あまり、この家に人が出入りしている事を見られたくないかららしい。

 一応、俺達が外に出る前に、外に通行人がいないか、誰かに見られていないかを確認してくれた。


「はぁ……ようやく外に出られたよ。やっぱり、ずっと室内にいると息が詰まるね」

「まぁ、気持ちはわかるけど……」

「城に部屋を用意してもらっていて、高級宿よりも良い部屋で侍女付きというのにな」

「空気が美味しいの」


 外に出て深呼吸しながら言った俺の言葉に、モニカさんとソフィーが苦笑しながら言っている。

 良い部屋だし、ヒルダさんが色々やってくれるから、楽なのは間違いないんだけどね。

 でもやっぱり、どんなに良い部屋でも、外に出られないのはなぁ……。


「そんな事より、早く移動しないとまた見つかるわよ、リクさん」

「おっと。そうだね、ここで見つかったらせっかくハーロルトさんや、姉さんが通路を教えてくれたのに、元も子もないからね」

「本当にすぐ近くだな。よし、行こう」


 モニカさんの注意に、リラックスしていた気持ちを切り替え、すぐに移動を開始する。

 とはいっても、家3件分移動するだけだから、すぐなんだけどね。


「リク様!?」

「えっと、どうも……」


 通行人に見つからないようにしながら、さっと冒険者ギルドの中へ入る。

 中に入ると、ギルドにいた人達がこちらへ視線を向け、その中からよく見る受付の女性が俺に気付いて声を上げた。

 それは良いんだけど……ギルドにいる人達皆が注目してるようで、皆俺を見てる気がするような……。


「リク様、どうしてこちらに!? ……いえ、とにかくまずは奥へ!」

「え、あ、はい」

「……どうしたのかしら?」

「さぁな。まぁ、これだけ注目されてるのだから、気を使ったのかもな?」


 カウンターからすぐに出て来た受付の女性に、背中を押されるようにようにしながら、奥へと向かう。

 用件も何も言ってないのに、奥に通されて良いんだろうか?


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