第259話 試着を終えて打ち合わせへ



「それは、パレードアーマーね。一応、本命だったのだけど……」

「パレードアーマー?」

「儀礼用のための鎧だな。見栄え良くするための物で、戦闘には向いてない」


 道理で、金属が薄いと思った。

 装飾や彫金が施されているのは、見栄えのためなんだろう。

 実戦の事はあまり考えられていないようだ。


「やっぱりりっくんには、フルプレートは似合わないわね。兜はそもそも顔が見えなくなるから論外だし……」

「そうですね。先程の……ワイバーンの皮を使った鎧が一番良さそうです」

「そうね。まぁ元々、りっくんにフルプレートでパレードに出てもらう気はあまりなかったけど……」

「ならどうして着せたんだ、姉さん……?」

「だって、色々な格好をするりっくんを見てみたいでしょ?」

「……はぁ……」


 最初に行ってた通り、本当に俺を着せ替えさせて楽しむためだったようだ。

 女王陛下のお戯れってとこか……いやまぁ、昔からそういう所はあったから、女王だから……というわけではないんだろうけど。


「それでは、ワイバーンの皮を使った鎧でパレードに参加……という事でよろしいでしょうか?」

「そうね、それが一番良さそうね。りっくんを見る民達も、鎧に隠されず、しっかりりっくんの事を見られるだろうし」

「……見られるのはあまり好きじゃないんだけど……でも、確かにあれが一番良いかな」


 皆にも好評だったしね。

 ……本当は、皮の鎧が一番気楽で良いんだけど……パレード用なのだから仕方ない。


「それでは、当日は先程の鎧を着て頂きます」

「はい、わかりました」


 ヒルダさんに頷いて答え、鎧を脱ぐためにまたカーテンの内側へ。

 色々な鎧を着るのは、楽しくもあったけど、少し疲れたね。

 気疲れみたいなもんかな?


「はぁ……ようやく落ち着いた」

「お疲れ様、リクさん」

「お疲れ、りっくん。色々な姿が見れて楽しかったわ」

「姉さんを楽しませるための事じゃないと思うんだけどね……」


 目的はパレードに参加する時の衣装を決める事だったはずなのに、いつの間にか姉さんが俺を見て楽しむ時間になってた。

 まぁ、他の皆もくつろぎながら俺を見て、楽しんでた様子だから良いんだけど……。


「それでは、昼食を用意させて頂きます」


 そう言ってヒルダさんが退室。

 馬の練習や、鎧の着せ替えで結構な時間が経っていたようで、もう昼食の時間になっていた。

 姉さんも含めて、この部屋で昼食を頂くようで、皆部屋からは移動しない。


「昼食を食べ終わったら、パレードの打ち合わせね」

「打ち合わせ……そんなのがあるの? 鎧を着て、馬に乗ってれば良いだけじゃないの?」

「基本的にはそれで良いんだけどね。一応、通る道の確認や列の順番、他にも細々と決める事があるのよ。参加する皆が知っていないといけない事もあるから……」

「私達も参加、ですね?」

「そうよ。ここにいる皆、パレードに参加するのだから、打ち合わせはしっかりしないとね」


 お昼を食べた後も、まだまだパレードの準備のためにする事はあるようだ。

 もしかしたら、鎧の着せ替えや馬の練習よりも、打ち合わせの方が気疲れするかもしれない……。

 やらなきゃいけない事とか、ちゃんと覚えられるかなぁ?


「お待たせ致しました」


 談笑しながらしばらく過ごし、ヒルダさんが昼食を持って部屋に戻って来る。

 人数が多いから、一人だけじゃ持ちきれないようで、他の人も一緒に持って来てるけどね。

 それを皆で食べながら、少しだけまったりした時間を過ごした。


 色々やることがあって、パレードも大変なんだなぁ……と思う。

 こんな事なら、パレードなんて参加せず、冒険者として何かの依頼のために動いてた方が良かったかもしれない。

 まぁ、国の会議で決まった事だし、姉さんが乗り気だから断ったりはできないんだけども……。



「では、パレ―ドの打ち合わせを始めたいと思います」


 昼食後、迎えに来たハーロルトさんと一緒に、鎧の片付けを手配するヒルダさんを残して皆で移動する。

 姉さんも含めて、大勢で移動した先は、大きな会議室。

 四角いテーブルが置かれ、数多くの椅子が用意されていた。


 姉さんが真ん中に座り、その対面に俺達が並んで座る。

 俺から見て左にハーロルトさんを始め、ヴェンツェルさんや数人の軍のお偉いさんぽい人達が並んで座る。

 右側には、フランクさんを含めた、豪奢な服を着た貴族っぽい人達が並んでいる。

 貴族っぽいというか、フランクさんもいる事から、そのまま貴族なんだろうな……皆、メイドさんや執事さんのように見える人達を連れてるし。


「アテトリア王国において、救国の英雄リクを民へ知らしめるため、パレードを行う事は皆、知っていると思う」


 横にさっき俺が着たようなフルプレートの兵士が並び、その後ろには幾人かのメイドさんや執事さんを置いている姉さんが、皆に向かって話し始めた。

 姉さんの言葉に、俺達だけじゃなく、軍関係の方々や貴族の方々も頷いた。

 姉さんの横にいる兵士達は、近衛兵とか親衛隊とか……そんな感じの人達、かな?


 皆、パレードの事は知っていて、開催する事に依存は無いようだ。

 偉い人達が参加した会議で決まったんだから、それも当然か。


「今日はパレードの手順、順路の確認を行い、主役のリク殿とその仲間達と打ち合わせを行います……」

「陛下、ハーロルト殿、申し訳ありません。リク殿のパレ―ドに関する打ち合わせの前に……我ら貴族、リク殿に申し上げたい事がございます」

「何か?」


 女王様モードの姉さんの言葉の後を継ぎ、ハーロルトさんが今回集まった事の確認をし、打ち合わせへと移行しようとした時、貴族側……俺から見て右側に座っている貴族達の中から、フランクさんが立ち上がり、話しを中断させて、姉さんやハーロルトさんに頭を下げてから俺へと視線を向けた。

 そんなフランクさんに続いて、他の貴族の方々も立ち上がり、それを見た姉さんが問いかける。


「我らアテトリア王国貴族、全員揃っているわけでは御座いませんが……ここにいる者達のほとんどは、バルテルの凶行の際、リク殿に命を救われたものばかりです。是非とも、そのお礼を申し上げたく……」

「そうか。リク、良いか?」

「え? あ、はい」


 フランクさんを含む、貴族達は何やら俺にお礼を言いたいとの申し出。

 姉さんから聞かれたから思わず返事したけど、ちょっと気の抜けた感じになってしまった。

 特にお礼をされたくて、バルテルを倒したわけじゃないんだけど……あの時は姉さんの事で必死だったし……。

 フランクさんなんて、今朝直接お礼を言われたしなぁ。


「リクさん、リクさん。座ったままじゃなく、立った方が良いですよ?」

「あ、うん。そうだね」


 横に座ってるモニカさんから小声で言われ、慌てて椅子から立ち上がる。

 貴族から……という事で、俺が座ったままなのは失礼、という事だろう。

 言われるまで気付かなくて、少し恥ずかしい。


「リク殿、我ら貴族はリク殿に命を救われました。もしリク殿がいなければ、アテトリア王国の貴族のほとんどが被害を受け、王国の立て直しにも時間がかかった事でしょう」

「その通りですな。バルテルめ……我らだけでなく、陛下まで捕らえるとは……」

「男爵殿、今はその事は……」

「は、そうですな……」


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