第260話 皆から改めて感謝されるリク



「我らがここでこうしていられるのは、リク殿のご活躍あっての事。パレードへの協力を惜しまず、リク殿への協力をする事を約束致します」

「リク殿、貴族、陛下、そして国を救って頂き、ありがとうございました」

「……えーと、恐縮です」


 立ち上がった貴族達が、フランクさんの言葉に始まり、男爵と呼ばれた腰の曲がったお爺さんや、他の貴族達が俺に言葉をかけて来る。

 最後に、一斉に頭を下げてお礼をされ、俺にはどう返して良いかわからなかったけど、何とか一言返す事ができた。

 こういう場に慣れて無い身としては、一言でも返せただけでも自分を褒めてあげたい……。


「ほっほっほ、英雄殿はあまりこういう場に慣れていないようですな……」

「いや、まぁ……はい」

「侯爵殿、年若い者を見るのが楽しいのはわかりますが、その辺りで……」

「ほっほっほ。わかりました」

「リク殿には、是非我ら同様、貴族になって頂きたかったのですが……」

「その話は、陛下を通してお断りされているはずですな。……残念な事です」

「ははは……まぁ、俺は貴族という柄ではありませんんから……」


 貴族達は、見た目で結構年を取っている人達が相好を崩して色々言っている。

 その中でも、姉さんに言われたように、貴族を勧めるような声もあったけど、俺には向いてないと思うんだよなぁ。

 領地経営とかできるとは思えないし……。


 貴族達は総勢16人、若い人もいるが、全員俺よりは年上なのは間違いないだろう。

 ヘルサルからこっち、色んな人達が並んでお礼を言われるのには多少慣れて来たけど、国の偉い人達が勢揃いしてお礼を言われるのには、まだ慣れて無い。

 というか、貴族達が並んでお礼って……慣れてる人はいるのかな……あぁ、姉さんはその上の女王陛下だから、慣れててもおかしくないか……。


「静粛に!」

「おっと、これは失礼しました」

「ほっほっほ、会議とは違って気楽な場とは言え、陛下の御前……これ以上はいけませんな」


 貴族達が立ったまま、色々と話している事に対し、ハーロルトさんが声を上げて静かにさせた。

 気楽な場とは言っても、姉さんだとか色んな人がいるんだから、好き勝手に話すのは……とも思ったけど、一番偉い姉さんがニコニコして俺を見てるから、良いのか……。

 やっぱり、ちょっとこの国の行く末が心配になってしまう……。


「貴族方、お礼が済んだのであれば着席するよう、お願いします」

「ハーロルトは固いのぅ」

「はは、だからこその、情報部隊だろう?」

「そうですなぁ」


 好きな事を言いながらも、ハーロルトさんに言われて貴族達が椅子に座る。

 貴族って、こんなに自由で良いのかな?

 それはともかく、ようやく俺も椅子に座って一息入れられるね。


「リク殿、次は我ら軍部からも、お礼を申し上げたいと思います」

「え、あ……はぁ」


 ハーロルトさんの一言で、左側に立っていた軍関係の人達が全員立ち上がる。

 ……もうしばらく座れそうにないね。


「ヴェンツェル様」

「うむ。リク殿、不甲斐ない軍部に代わり、陛下や貴族を救うだけでなく、魔物達の襲撃に対する戦闘への参加、心より感謝する」


 ハーロルトさんが示して、ヴェンツェルさんが俺に視線を向けて真面目な顔。

 筋肉も相俟って、ちょっと部屋の暑苦しさが増した気がするけど、それに気を取られちゃいけないか。

 真剣な顔で、言葉を続けるヴェンツェルさんへ注目する。


「ワイバーンの襲撃に始まり、魔物達の王都侵入。城への攻撃を退けられたのは、ひとえにリク殿あっての事。私をはじめ、不甲斐ない者達はバルテルの謀略により無力化されていた。その中でも獅子奮迅の働きをし、ワイバーンを退け、城門を越え城へと迫る魔物を退けた事、我ら軍部はリク殿に敬意を表する」

「リク殿がいなければ、軍は全滅……城は魔物達に占領……というあってはならない事も考えられます。それに、リク殿の仲間達も協力して下さいました」

「ハーロルト殿を使っての伝令の手際、兵を引かせて自分が前に出て戦う勇姿………どれも素晴らしい物です」

「我ら軍部は、リク殿への敬意と感謝を、ここに伝えるものとする!」

「……えーっと、恐縮です」


 ヴェンツェルさんやハーロルトさん達が言葉を俺に掛け、全員で頭を下げた。

 それに対し、俺はさっき貴族の方たちへ行った言葉と同じ言葉を返す。

 これしか出なかったんだけど……これで良いのかな?

 ちらりと姉さんの方を見ると、笑いを堪えてるようだった。


 ……あとでからかわれそうだなぁ。

 こういう場に慣れて無いんだから、仕方ないと思うんだけど……。


「……皆の者、謝辞は終えたか? では、打ち合わせの続きと参ろう。……まずは座れ」

「はっ」

「……はい」

 

 笑いを堪えてた姉さんが立ち上がり、皆に声をかける。

 軍関係の人達が一斉に座り、それに倣って俺も椅子へと座った。

 ……ようやく一息付けた……何か緊張する事ばかりで、精神的に疲れたよ。


「ではまず、順路の確認だな……」

「はっ。パレードで行進するのは、城下町の中央……大通りから……」


 姉さんの合図で、後ろに控えていた豪奢な衣装を着た人が横に立ち、説明を開始する。

 執事とか、そういう人よりも着ている物がしっかりしてるから……もしかして大臣とかそういう役職の人……かな?

 その後しばらく、大臣さんっぽい人の説明で順路の確認をしていく。

 時折、警備の関係なのか、ハーロルトさん達と細々とした事の確認をしつつ、話は進んだ。


 パレードは、昼から始まり、夕方まで続くようだ。

 城下町で一番大きな大通りを出発点に、各場所の主要通りを馬でゆっくりと移動。

 その後、最後にまた大通りを通り、城門へと向かって城へ入る……という流れだね。

 通る道筋や、場所ごとの兵士の配置、予想される観客の数を確認しながら、打ち合わせは進んでいった。


「……これが、パレードの進行順となります。皆様、お判り頂けましたでしょうか? ご質問などがあれば、なんなりと」

「ほっほっほ、年寄りには、一度に全部覚えるのは難しいのう」

「そうですなぁ……」

「決定された事に関しましては、明日、関係各所へ書類にてお知らせ致します。もう一度確認されたい場合は、その書類を見て頂けたらと思います」

「成る程、それなら覚えられなくとも安心ですな」

「伯爵殿、パレードまでにはしっかり覚えないといけませんよ」

「わかていますよ、子爵殿」

「……ハーロルト、覚える事は苦手なんだが……」

「ヴェンツェル様。これは陛下を始め貴族、軍部と協力して推進する行事です。将軍が流れを覚えていないといけないので、しっかり記憶して下さい」

「むぅ……」


 大臣っぽい人の説明が終わり、質疑応答へと移る。

 その中で、貴族達は書類が回って来るのを待って、もう一度確認する事にしたようだ。

 ヴェンツェルさんは……まぁ、頭を使う事は苦手って言ってたしなぁ……。

 ハーロルトさんに小声で注意されてるけど、頑張って覚えて欲しい。


 俺やモニカさん達も、一度の説明で全てを覚える事は難しかったので、後で書類を確認しておこう。

 王都の地理が完璧じゃないからなぁ……マックスさん達に、多少でも教えてもらっていて良かった。

 何も知らないよりは、覚えやすいだろうからね。

 書類が来たら、しっかり覚えておこう。


「皆様、よろしいですかな?」


 細々としたことを確認し、質疑応答を終えた大臣ぽい人が皆に確認の言葉。

 それに俺達も含めて全員頷いた。



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