第257話 鎧を着て皆の見世物になる
「陛下もいらっしゃったんですね?」
「お、モニカちゃんに皆も。こっちにいらっしゃい、皆でりっくんを着せ替えしましょ?」
「着せ替えってさ……」
俺はともかく、他の皆は姉さんに呼ばれたら断れない。
自覚してるのかはわからないけど、姉さんは女王様だからね。
そんな姉さんに呼ばれ、俺以外の皆は用意されていたテーブルについて、姉さんと話し始める。
話の内容は、さっきの馬に乗る練習の事が主みたいだ。
「リク様、こちらへ」
「……はい」
姉さんと皆の会話は少し気になったけど、俺はヒルダさんに連れられ、部屋の隅に。
そこには、カーテンで仕切られた場所があり、そこで着替えるのだと思われる。
……もしかして、俺のためにこの部屋を用意したのかな?
「カーテンの向こうに、いくつかの鎧が用意されております。右から順番にお願いします」
「……わかりました」
いくつも用意されてるんだ……しかも順番まで指定されて……姉さんの関与を感じるね。
ちなみにエルサは、俺の着替えに付いて来ても何も楽しくないからか、今は姉さんに抱かれてる。
兜とかを着用する必要があったら、エルサがくっ付けないから、仕方ないか。
「えーっと、右から順番に……って、これは……」
カーテンをくぐってその先へ。
そこには鎧が数個用意されており、全部着るのは少し面倒だなぁと感じてしまう。
まぁ、パレードのためだと思って我慢しようと、指定された順番の鎧を着ようと一番右に置いてある鎧を見た。
それは、さっきも思い出したような金属でできたプレートアーマーだ。
「……これ、着るの? まぁ、仕方ないか」
皆に笑われない事を願いつつ、鎧と一緒に用意されていた服を着る。
確かこれは、こすれや衝撃を吸収したりする素材でできていて、プレートアーマーと一緒に着るものだったはずだ。
ギャンベゾン……だったかな?
エリノアさんの店で鎧を試着した時に、一緒にこれも着て説明してもらった覚えがある。
早い話がインナーシャツのようなものだね。
「あとはこの鎧を……んー、ヒルダさん?」
「はい、どうなされましたか?」
「これ……一人で着れないんですけど……?」
「畏まりました。お手伝いさせて頂きます。お入りしても?」
「お願いします」
服はもうギャンベゾンを着ているから、ヒルダさんに見せても大丈夫だろう。
……男の着替えなんて、見ても何も楽しくはないだろうけど。
フルプレートが一人で着れない俺は、カーテンの外で待っていてくれてるヒルダさんに声をかけ、手伝ってもらう事にした。
エリノアさんの店では、エリノアさんやソフィーに手伝ってもらったなぁ……。
「ん……やっぱり結構重いですね……」
「ご立派でございますよ」
「ははは、そうですか?」
手伝ってもらい、何とか着れたフルプレート。
鏡が無いから、自分の全身を客観的に見れないが、ヒルダさん曰く立派だとの事。
……お世辞だろうけどね。
「最後はこれですね」
「……兜ですか」
「はい。これで完全に防御ができる鎧の完成です」
鎧と一緒に置いてあったからわかってはいたんだけど、やっぱり兜も着用するんだね……。
金属の籠手をガシャガシャと鳴らしつつ、ヒルダさんから兜を受け取って被る。
前面と後面に別れてつなげる構造のため、これも一人では被れないので、全面を顔に当てて固定しているうちに、ヒルダさんが後面を取り付けて固定。
これで、頭から足先までのフルプレートアーマ―の着用は終了だ。
「……ちょっと前が見にくいですね」
「頭や顔は急所ですからね。視界が奪われる部分もありますが、防御には必要です」
ヒルダさんの説明はもっともなんだけど、視界が悪く、鎧自体が重いせいか動きにくい。
これを着て、機敏に動ける人ってすごいなぁと思うよ、ほんとに。
「では、皆様へのお披露目です。行きましょう」
「……はい」
俺の全身を見て、納得したように頷いたヒルダさんが先にカーテンの外へ。
「皆様、リク様の準備が整いました。まずは第1の鎧です」
「りっくん、格好良くなったかしら?」
「ちょっと期待しちゃいますね」
「……以前見た時は、あまり似合ってないように感じましたが……」
「リクの鎧姿ねぇ……皮の鎧を着ているのなら、いつも見てるけど」
「軽装の方が動きやすいからだろうな。まぁ、魔法が得意なエルフもそう変わらんが……」
ヒルダさんが先に皆の所へ行き、着替えが終わった事を報せる。
姉さんを始めとして、皆俺の登場を期待してるようだけど……ソフィーも言ってるように、以前エリノアさんの店で来た時は、あまり似合ってるとは思えなかったんだよなぁ……。
皆の声を聞きながら、少し緊張しながら金属鎧をガシャガシャと言わせながら、皆の待っている場所へと移動する。
「……似合ってる……わよ?」
「リクさん、立派なフルプレートね」
「……エリノアの店より、鎧は立派だな」
「重そうだけど、騎士たちが着てる鎧そのままね」
「リクならこれくらい着て動けるだろうな。とても身軽には見えんが……」
「立派な鎧なの!」
「こんな物無くても、リクの防御は完璧なのだわ」
それぞれが感想を言ってるけど、俺に似合ってるかどうかは言ってくれないんだね……。
いやまぁ、自分でも似合ってるとは思わないけども。
鎧に関しては、城で用意されてる物だから、普通の店で売ってる物よりは良い物なんだろう……というのはわかる。
「りっくん……その鎧、どうかしら?」
「……やっぱりちょっと動きずらいね。重いし、視界が遮られてるし……」
「そう……やっぱりそうよね」
「これでパレ―ドに出るの?」
「それはりっくんに私が着て欲しかったから、用意した物よ。兜までしっかり着用してたら、民にお披露目の意味があまり……ね」
「……だったら着せないでよ……」
フルプレートは、金属でできているから、当然動きが阻害される部分がある。
想像よりは動きやすいような気はするんだけど、皮の鎧や、部分鎧と比べたらそうなるのは当然だよね。
金属だから重いし……。
慣れない事もあるんだろうけど、初めて着た時と違って、重さに負けて動けない……なんてことはないけども……。
というか、兜を着たら俺の顔すら出ないから、パレードでお披露目をするという意味がなくなってしまう。
顔を皆に見せたいというわけじゃないけど、これなら背格好が似ている別の人でも良さそうだしね。
「それでは、次の鎧を着用しましょう」
「……はい」
「頑張ってね、リクさん」
「りっくん、期待して待ってるわよー」
ヒルダさんに促され、またカーテンの所へ向かう俺。
後ろから、モニカさんの励ましと姉さんの気楽な声が聞こえて来た。
姉さんはともかく、モニカさんの励ましが少しだけ心にしみた……。
「はぁ……すみません、こんな事まで頼んでしまって」
「いえ、構いませんよ」
カーテンの中で、ヒルダさんに手伝ってもらいながら、フルプレートを脱ぐ。
真っ先に兜を外して溜め息を吐きつつ、ヒルダさんに謝る。
プレートアーマーは、着るのもそうだけど脱ぐのも一人では難しい。
慣れた人なら出来るのかもしれないけど、俺はまだ慣れて無いから無理だ。
金属の鎧のせいで、手が背中に回せないしね……。
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