第253話 フランクさんの謝辞



「キマイラへ立ち向かった事もそうなのですが……私を見てもへりくだることなく、普通に話していらっしゃます」

「フランクさんへ……?」

「リク様……フランク様は子爵家の当主でございます。つまり、貴族なのです。陛下や他の貴族様方ならまだしも、貴族ではない者が、普通に話している事に驚いているようです」

「あぁ、成る程。貴族……貴族……ね」


 ヒルダさんがこっそり教えてくれたけど、フランクさんは子爵家という貴族の一員らしい。

 という事は、コルネリウスさんも貴族家という事か……道理で上から物を見るような態度だったわけだ……。

 でも俺にとって、貴族階級の事はよくわからない。

 爵位の序列もわからないしね。

 まぁ、誰にでもへりくだるというような性格をしていないのもあるだろうけど……。


 でも、日本では一応、階級差というものが無い生活だからね、上下関係というのはあったけど、基本的に平等……という事だった……正しくそれが機能していたかは微妙なところだけども。

 とりあえず年上だったり、偉い役職に就いてそうな人だったり……初めて会う人も含めて、敬語を使って失礼のないように話してるから、大丈夫だろうという楽観的な考えだ。

 ……改めた方が良いのかな? 


「はっはっは、陳謝しに参った私が言うのもおかしな事かもしれませんが……リク殿はそのままで良いのではないですか? 国を救った英雄でもありますからな。むしろ、私の方が平伏しないといけないかもしれません」

「いや……それはちょっと……。失礼でないのなら、今のような話し方でも良いですか?」

「リク殿と気楽に話せる、というのは嬉しいですな。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ヒルダさんがこっそり教えてくれた事で、貴族の事を考えて俺が難しい顔をしてしまったのを見て察したのか、フランクさんからは今のままで良いと言って来る。

 貴族の人からそう言われるんだ、このままで良いのかもしれない。

 あと、コルネリウスさんと違って、フランクさんは気さくな人のようだね。

 ……あっちは、あんなに人を見下して、根拠のない自信に満ち溢れていたのに。


「リク殿、パレードの件は聞きましたかな?」

「あぁ、はい。姉さ……陛下から直接……」

「そうですか。そういえば、リク殿は陛下とも仲が良いご様子。良い事ですな……陛下は友人が少なかったものですから……我々臣下の者が友人、というのも難しいのでしょうし、英雄であるリク様なら……というのもあるのでしょう」

「そ、そうなんですかね?」


 フランクさんは、どうやら姉さんの友人が少ない事を気にしていたらしい。

 どういう理由でかはわからないけど、色んな人に気にされてる姉さんは、きっと人望があるのだろう。

 まぁ、友人というか姉弟なんだけどね……。


「陛下はまだお若い。友人を作り、遊ぶのよろしいかと考えています。それも、経験になりますからな。……まぁ、度が過ぎては困りますが……」

「ははは……」

「それはともかく、リク殿。パレード、楽しみにしておりますぞ? 私も、会議でパレードを行う事を推奨した者として……」

「フランクさんもですか……」


 パレードが行われる事が決まった会議で、フランクさんも賛成していたらしい。

 姉さんが言っていた、貴族の人達がこぞって俺のパレードを推した……というのは本当らしいね。

 もしかしたら、フランクさんもバルテルが謁見の間に立てこもった時に、捕らわれていたのかもしれない。

 あの時は、姉さんの事ばかり考えていたから、捕らわれてた貴族の人達の事まで気にしてる余裕が無かったからなぁ……覚えて無くても無理はないのかも。


「リク殿、先日のバルテルの凶行の際には、お助け頂きありがとうございます。命を失った貴族もおりますが……リク殿のおかげで生き延びる事ができました。それに、コルネリウスの事も……リク殿がいなければ、無謀にもキマイラに挑んで命を落としていたでしょう……」

「あー、はい。そうですね……。コルネリウスさんは、気を付けた方が良いかもしれませんね。もう少し、ランクに見合った依頼を受けた方が良いかもしれません」


 謁見の間での凶行を思い出していたら、フランクさんにその事のお礼を言われた。

 パレードや会議から、ちょうどその事も思い出したんだろう、俺と同じく。

 それはともかく、コルネリウスさんの事だ。

 Bランクのフィネさんが付いているからといって、Dランクでキマイラ討伐のAランク依頼に挑むのは危険すぎる。

 順序を追って……という事を、あまりしていない俺が言うのもなんだけど、もう少しランクに合った依頼をして経験を積んだ方が良いだろうね。

 せめて、Cランク……ってとこかな?


「リク殿の言う通りです……コルネリウスには、いつも身の丈に合った行動をしろ、と言っているのです。困ったものです……」

「そうなんですか?」

「はい……小さい頃に甘やかしすぎましてな……少々、いやかなり自信過剰なのです。貴族家なので、周囲の者は甘やかすのは当然なのですが……息子可愛さに、厳しくしなければいけなかった私も甘やかしてしまったのです。今になって後悔しているのですが、そのせいで、あのような息子に育ってしまいました……」

「それはまた……」


 子供がいる親の心境……というのは俺には全くわからない事だけど、可愛い息子を甘やかしてしまうというのは、理解できない事も無い。

 妹のように接してるユノを、甘やかしてるなぁ……と思う事もあるからね。

 でも、周囲も父親も甘やかしてしまったせいで、自分は何でもできるんだ……と勘違いしてしまっているのかもしれない。

 家の中だけでそうなら良いんだけど、外に出て迷惑をかけるようだと、ちょっと困る。


「今回の事で、フィネが特に痛感したようでしてな。私からも厳しく注意しますが、しばらくフィネからの厳しい教育がありそうです」

「ははは、フィネさんは怒ったら怖そうでしたからね」


 コルネリウスさんが、勝手な事をしたり言ったりした時、フィネさんが怒って諌めていた。

 迫力のある女性からの教育……という事なら、いずれコルネリウスさんの性格も改善されるかもしれない。

 これからのフィネさんに期待……かな?


 コンコン……。


「ハーロルトです、リク様はいらっしゃますか?」

「どうぞ」

「失礼します。おや、フランク卿もいらっしゃっておいででしたか」

「ハーロルト殿? 私は、息子の事でリク殿にな……」

「息子……フランク卿も、苦労が絶えませんね……」

「ははは、まぁ、自分が蒔いた種でもあるからな。仕方あるまい」


 ノックをして、部屋に入って来たのはハーロルトさん。

 そのハーロルトさんは、フランクさんを見て親し気に話してるけど……子爵のフランクさんと、騎士爵を持ってるハーロルトさんなら、知り合いであってもおかしくは無いか。

 ハーロルトさんは、国軍のお偉いさんでもあるからね。

 ともあれ、ハーロルトさんの方も、コルネリウスさんの事と聞いてすぐに納得したようだ。

 ……もしかすると、一部の間ではコルネリウスさんの困った性格というのは、知れ渡っているのかもしれないなぁ。



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