第254話 リクと馬のご対面



「それでハーロルトさん、どうしたんですか?」

「おっと、用件を忘れてはいけませんな。リク殿、準備ができましたので、こちらへ……」

「あぁ、そうですね。わかりました」

「何やらリク殿は用があるようですな。邪魔しては申し訳ない。それでは、私はこれで」

「はい、フランクさん。」

「リク殿、この度の件、申し訳ありませんでした。コルネリウスには、きつく言っておきますので」

「ははは、程々に……」


 姉さんの言っていた、パレードの準備のための練習……馬の乗り方や鎧を着てみたりなんかのためだね……そのために、ハーロルトさんは俺を呼びに来てくれたみたいだ。

 俺に用があると知ったフランクさんは、邪魔しては悪いとすぐに立ち去った。

 コルネリウスさんは、これからこっぴどく叱られるのかもしれないけど……俺には苦笑しながら見送るしかできないね。


「ハーロルトさん、まずは何をするんですか?」

「これは皆さんもお揃いで。リク殿は馬に乗った事が無いとの事。まずは馬に乗る練習からですね」

「そうですか。それは私達も見学しても良いのですか?」

「大丈夫ですよ。それに、皆さんにはそれぞれパレードに参列して頂く予定でしたからね」

「私達も?」

「我々も参列するのか?」

「はい。モニカ殿とソフィー殿は、リク殿と同じパーティメンバーとして。フィリーナ殿とアルネ殿は、エルフとして……魔物の襲撃に際し、防衛に参加してくれましたからな。ユノ殿は……リク殿の妹として、ですな」

「私も参加できるの!」


 俺だけじゃなく、モニカさん達もパレードの参加者になっているようだ。

 皆、一緒に戦ってくれたからね……俺だけじゃなく見知ってる人が一緒にいてくれるようで、ちょっと安心。

 ユノは、パレードに参加できる事を素直に喜んでるけど、どんな事をするのかわかってるんだろうか?


「本日、皆様へお報せに使いの者を向かわせましたが……入れ違いになったようですね」

「そうみたいですね。すみません」

「朝食後、すぐにこの部屋まで来たからな。使いの者には悪い事をしたと思う」

「私達も同じね」

「ここへ来るのが早すぎたか……」

「まぁ、使いの者も皆様が宿にいない事を知ると、すぐに帰って来るでしょう。そこまで手間でもありませんので、お気になさらず」


 皆には、今日報せる予定だったみたいだ。

 確かに、皆来るのが早かったから、入れ違いになるのも仕方ないのかも?

 というか、朝食の後すぐって……朝はもう少し、ゆっくりしていても良いんじゃないかな、皆?

 

「このまま話していても、時間が過ぎるばかりですな。リク殿、皆様、こちらへ……」

「はい」

「私達も行きましょう」

「そうだな。リクがどんな事をするのか、興味もあるしな」

「馬に乗る練習って言ってたから、特別な事は無さそうだけどね」

「他に予定も無いからな。見るだけでも良いだろう」

「お馬さんの所へ行くのー」

「ふむ……だわ」

「皆様、いってらっしゃいませ」


 ヒルダさんに見送られて、部屋を出て行くハーロルトさんに付いて行き、城の中を移動。

 俺以外の皆は、興味があるからと付いて来るだけのようだけど、とりあえずは俺が馬に乗る練習をするだけのようだから、あまり面白いものじゃないと思うけどなぁ。

 ……ユノだけは、馬と遊べるのを期待して楽しそうだけど……遊べるのかな、ここにいる馬って?

 城にいる馬と考えると、軍用とか、貴族が乗って来た馬とかしかいないイメージだけど……まぁ、おとなしい馬もいるかもしれないか。


「こちらです……」


 ハーロルトさんに案内された場所は、開けた場所ではあるけど、あまり人のいないような場所だった。

 以前エルサが大きくなるために行った、中庭や城門近くの場所じゃないようだね。

 まぁ、中庭は花壇があったりしたし、城門近くは人が通るだろうから、馬に乗る練習とかをしたら邪魔になってしまうか。


「へぇ……厩とかじゃなんですね?」

「あそこは、馬の世話をするための場所ですからな。色々な馬がいますが、練習するには向いていません」

「確かに、言われてみるとそうだな。馬を選ぶのには良いんだろうが、練習するには場所の確保も必要か」


 モニカさんがハーロルトさんに聞いて、ソフィーさんが答えに頷いてる。

 成る程、そうなんだね。

 俺はまず、ずらりと並んだ馬のうち、どれかを選ぶことから始めると考えていたけど、予想は外れたみたいだ。


「では、馬を連れてきますので……」

「はい、お願いします。……初心者でも乗れる馬にして下さいね?」

「ははは、できるだけおとなしい馬を連れてきますよ」


 馬を直接見た事すらあまりない俺にとっては、お願いしたようにできるだけ簡単に乗れそうな馬が良い。

 笑いながら離れて行くハーロルトさんを見ながら、おとなしく簡単に乗れそうな馬が来る事を願った。

 ……簡単に乗れる馬とかがいるのかどうか知らないけど……普通の馬よりも小さなポニーとか?


「お待たせしました。こちらが、リク殿に乗ってもらう馬になります。他の馬と比べて、気性がおとなしいので、練習するには十分かと」

「ヒヒーン、ブルルルル……」


 ハーロルトさんが連れて来た馬は、この世界に来て見た馬のどれよりも大きく、全長3メートル近く、全高は2メートル以上はあるようで、俺からすると見上げる程だ……首が痛くなりそう。

 乗りやすい馬……と考えて、小さめの馬を想像していた俺は、連れて来られた馬のいななきを聞きながら、少しだけ呆然。

 ……こんな大きな馬に乗るの? もう少し小さくても良いんじゃないかな?


「大きい馬なのー!」

「普通よりは大きいですね。確かにおとなしそうだけど……」

「リクがこれに乗るのか」

「確かに、これに乗ったリクは、見栄えが良さそうね」

「だが、この大きさ……軍馬では無いのか? 初めて乗るには、少々……」

「いえ、この馬は軍馬ではありません。大きさは十分なのですが……おとなしい気性のためか、争いを嫌うようなのです。なので軍馬に向かず、厩で過ごすだけの馬でした。まぁ、城にいる馬達をまとめるような素振りが多く見え、厩の主のようになっていました」


 俺以外にも、ついて来た皆が馬を見上げ、それぞれに感想を言ってる。

 アルネが言ったように、初心者が乗るにはちょっとと思うけど、ハーロルトさん曰く、平和主義の馬らしく、軍馬では無いとの事。

 馬達のボスみたいになってるみたいだけど、平和主義なら、振り落とされたりはしなさそう……かな?


「どうぞ、リク殿。まずは馬に慣れる事からです。近付いて顔を撫でてやって下さい」

「……はい」

「ブルルルル! ヒヒーン!」

「うぉ!?」

「馬が……おかしいですね、日頃は人が近付いても興奮したりせず、おとなしいのですが……」


 ハーロルトさんに言われて、馬を撫でようと近付いた時、馬が急に興奮した様子でいななき始めた。

 さっきまで、おとなしくジッとしていたのに……なんでだろう?


「やっぱりなのだわ」

「エルサ?」

「エルサ様、どうかされたのですか?」


 馬から少し離れ、落ち着くまで待とうとした時、エルサが俺の頭にくっ付いたままで呟いた。

 それに対し、俺とハーロルトさんがエルサに聞いた。



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