第251話 パレードの準備に参加決定



「ふむ、そうね。生き残る事で、強い兵士になる……と考える事もできるんだけど。……一度ヴェンツェル達と話し合ってみるわ」

「まぁ、俺の意見は素人考えだから、参考程度にしてよ」

「わかったわ。新兵を大事にするか、既存の訓練された兵士を大事にするか……ね」

「そこまで考えてた事じゃないんだけどね……」


 ワイバーンの皮を剥ぎ取る時に、ヴェンツェルさんが連れて来た新兵さん達は、規律とかはしっかりしてそうだけど、まだ体の動かし方があまりしっかりしてないように見えた。

 ハーロルトさんやヴェンツェルさんと比べると、はっきり言うと弱そうに見えたんだ。

 ……比べる相手が軍のトップとかっていうのは、間違ってるかもしれないけどね。


 でも、あれだと魔物と戦ってもすぐにやられてしまいそうに見えたからね。

 それなら、やられないように防具を強化して、じっくり訓練できればなぁ……と考えた。

 ワイバーンの皮を使う事以外にも、他に方法はあるかもしれないけど……今回はたまたまワイバーンの皮を使たとしたら……というだけだね。


「それにしても、りっくんが軍の事を考えるなんてねぇ……?」

「……何か、おかしいかな?」

「おかしいとまでは言わないけど、そこまで考えられるようになったんだな……ってね」

「ははは、まぁ、俺もこの世界に来て色々経験してるからね」

「確かにね。魔物の集団を何度も殲滅する経験なんて、冒険者でもそういないわね」


 やりたくて、何度も魔物の集団と戦ってるわけじゃないんだけどね……。

 昔の……小さい頃の俺を知っている姉さんにとっては、俺の成長に感慨深いものがあるようだ。

 ……成長、で良いんだよね?


「あ、そうそう。りっくん」

「どうしたの?」


 感慨深そうにしていた姉さんが、急に何かを思い出したようだ。


「明日から、しばらくこの城にいてね?」

「何かあったっけ?」

「パレードよ、パレード。忘れたの? りっくんのための催しなのに……」

「……あぁ、そう言えば」


 出来れば忘れておきたかったパレード……。

 大通りを闊歩して、俺が王都の人達相手に見世物になる催しだね。


「パレードは、今日から3日後に行われる事になったわ。ちょっと予定より遅くなっちゃったけど、開催は確実ね」

「……そうなんだ……3日後。でも、どうしてそれまで城にいなきゃいけないの?」

「りっくんは冒険者だからよ。放っておいたら、また依頼とか言ってどこかへ行きそうだしね。それに、パレードの練習もしなきゃ」

「パレードの練習? 何か特別な事でもあるの?」


 パレードが行われるのは良いんだけど、そのための練習ってなんなんだろう?

 大通りを通って、見物人に手を振ったりすれば良いだけなんじゃないの?

 まぁ、姉さんの言うように、暇だから冒険者ギルドで何か依頼を……となりそうなのは否定できないね。


「特別な事はないわ。基本的には大通りなんかを含む、城下町の主要な通りを通って、民達へのお披露目ね」

「そうなんだ。それじゃ、なんで練習なんているの?」

「りっくん……馬に乗れないでしょ? それに、いつもの服装……というより、その鎧じゃねぇ?」

「馬……確かに乗った事ないね……。この鎧じゃ駄目なの?」

「駄目よ、全然駄目。もっと見栄えの良い恰好にしなきゃ。 フルプレートとまでは言わないけど、それなりに良い鎧を着なきゃ」


 馬の練習は、確かに必要だと思う。

 この世界に来た最初の頃に、乗合馬車に乗った以外はずっとエルサに頼りきりだ。

 馬に何て、こっちの世界に来る前にも乗った経験なんてないからなぁ。

 でも、鎧は皮の鎧のままでも良いんじゃないかなぁ?

 これでも結構格好良いのに……。


「わかったよ。それじゃあ、明日からはパレードの準備だね」

「よろしくね。……ところで」

「ん?」

「何でエルサちゃんは、そんなに汚れてるの? しかも口の周りばかり……」

「あぁ、これね。ワイバーンの皮を剥ぎ取った後、残った肉を燃やしたんだけど……」

「全部私が食べたのだわ! 美味しかったのだわ!」


 パレ―ドの準備をする事に了解したところで、姉さんがエルサの汚れに気付く。

 口の周りだけ、集中的に黒く汚れてるから気になるよね。

 ほとんど焦げた部分のせいだけど、血が付いてないから怖さはない。

 赤い血で口の周りが汚れてたら……ドラゴンがそうなってるって、ちょっと怖いかな……いや、小型犬くらいの大きさで、俺の頭にべったりくっ付いてるエルサから恐怖を感じる事は無いか。

 モフモフだし。


「ワイバーンの肉を……だ、大丈夫なの?」

「ワイバーンは、人間にとって毒となる物を体内に蓄えているので、食べられないはずですが……」

「エルサは大丈夫みたいだよ? 以前にも、生で食べた事があったみたいだし。今の所、毒で苦しむ様子もないしね」

「そ、そう。そうなのね……ドラゴンって……」

「人間とは違う、という事なのでしょうね。」

「焦げた肉だったけどね。だから汚れてるんだよ。まぁ、ヴェンツェルさんが連れてた新兵さん達には、無駄に穴を掘らせちゃったけど」

「だから、ヴェンツェルについてた兵士達は、疲れた顔をしてたのね?」

「穴を掘って埋める……作業そのものは単純ですが、体への疲労は相当な物でしょう」


 姉さんとヒルダさんは、エルサがワイバーンの肉を食べることに驚いているようだ。

 ドラゴンだから……と、無理矢理納得もしてるけど。

 新兵さん達には、ちょっとかわいそうな事をしたと思う。

 先にエルサが食べられる事を知っていれば、穴を掘って処理する事もなく、作業はもう少し早く終わってたはずだからね。

 まぁ、ヴェンツェルさんが訓練になるって言ってたから良いか………量が多い分、深く広く掘ってたみたいだし、体は鍛えられるのかもしれない。


「それじゃ、俺はエルサを洗うから、お風呂に入るよ」

「準備できております」

「ありがとうございます」

「わかったわ。ちゃんとエルサちゃんを、元の綺麗なモフモフにしてあげてね。それじゃ、おやすみ」

「うん、おやすみー」

「おやすみなのだわ」


 前もって風呂の準備をしてくれていたヒルダさんにお礼を言い、部屋を出る姉さんを見送る。

 その後は、しっかり時間をかけてエルサの汚れを洗い流し、俺の方も皮を剥ぎ取るのに少し汚れてしまってたから、それも洗って風呂を出た。

 鎧とかにも、少し汚れが付いてたから、それもちゃんと洗っておいた。

 まぁ、明日からはパレードの準備で、しばらくこれを着て行動する事はなさそうだから、今のうちに洗ってしっかり乾かしておこう。


「じゃあ、ドライヤーで乾かすぞ?」

「お願いするのだわー」


 風呂から上がった後、エルサの毛をドライヤーもどきの魔法で乾かす。

 気持ち良さそうに温風を体で受けてたエルサは、いつものように途中でぱたりと横に倒れてそのまま寝てしまった。

 今日はワイバーンの焦げ肉やキューなど、エルサが満足するまでいっぱい食べたからなぁ、眠かったんだろう。

 気持ち良さそうに寝ているエルサの毛がしっかり乾き、いつも通りのモフモフになった事を確認して、ベッドに連れて行き、一緒に就寝した。

 今日もしっかりエルサのモフモフを感じながらだから、良い夢が見られるだろうね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る