第249話 大きくなって全てを食らい尽くすエルサ
「それじゃ、エルサ……もしかしてこれ全部食べられるか?」
「このままじゃ多過ぎて食べられないのだわ。けど、大きくなればペロリなのだわ」
「そうか……わかった。それじゃ大きくなって全部食べてくれ。ヴェンツェルさん、どうやら穴に埋める必要はないみたいです……」
「そ、そうか……わかった」
「大きくなるのだわー」
小さいままだと、食べられる量も少ないから、全ては無理だろう。
でも大きくなれば全部食べ切れると言い張るエルサ。
それなら、穴に埋める手間も省けるから、そっちの方が良いな。
エルサにお願いして大きくなってもらい、ワイバーンの焦げ肉を食べてもらう事にした。
ヴェンツェルさんは少し引いた様子だけど……相手はドラゴンだからね、仕方ない。
「これが本来の姿か……先程のリク殿の魔法にも驚いたが、これにも驚きだな……」
「まぁ、小さい方が楽らしいんですけどね」
俺達の前で大きくなったエルサを見て、ヴェンツェルさんは驚きを隠せない様子。
エルサを初めて見たら、そうなるのも無理はないなぁ。
ちらりと新兵さん達の方を見てみると、そちらでも驚いて動きが止まっていた。
中には怯えているような人もいるみたいだけど……エルサが襲い掛かって来たりはしませんからねー。
「食べるのだわー」
「よろしく頼む」
エルサは、いつも俺達を乗せて飛んでるくらいの大きさだ。
その大きさになれば、体あ大きい事もあって、ワイバーンの焦げ肉を全部食べるのにも問題はないんだろう。
俺の言葉を受け、エルサは口を大きく開けて焦げ肉に齧り付き始めた。
おぉ、あんなに山になっていた肉がどんどんなくなって行く……。
「すごいわね……この大きさになって、全力で食べてる姿を見た事無かったけど……迫力があるというかなんというか……」
「人間なんて、一口で食べられそうだな」
「エルフもそうよ。いつもはリクの頭にくっ付いてて可愛いくらいだけど……」
「これは少々恐怖を感じざるを得んな……」
俺の後ろで、焦げ肉を食べるエルサの様子を見ていた皆が、その様子について何やら話してる。
まぁ、大きなドラゴンが、どんどん肉を食い漁る様子は、確かに恐怖を感じてもおかしくないかもね。
俺は、エルサの口の周りが焦げ肉によって汚れてしまって、モフモフが失われて行く方が気になったけど。
……今日のお風呂は、顔をしっかり洗ってやろう。
「……リク殿が味方で良かった、と思える光景だな。リク殿も、エルサ殿も……これが敵だったら、我が国は一瞬で無くなってしまうだろうな……」
「そんな、大袈裟ですよ? さすがにそこまでは……」
「ワイバーンを簡単に倒し、残った肉を一気に燃やすような魔法を使うリク殿。さらに伝説で語られるドラゴンが、残った肉を食べる……これのどこが大袈裟なのか……」
ヴェンツェルさんが、エルサを呆然と見ながらそんな事を言ってるけど、大袈裟だと思うんだけどなぁ……?
一人一人の兵士とかは何とかできるとしても、軍で押し寄せて来たら俺にはどうしようもない気がする。
エルサの姿に驚いて、そんな事を言ってるだけだな、うん。
……ゴブリンの軍隊相手に、広範囲の魔法を使った事は忘れよう……あんな事はさすがにもうごめんだし。
「食べたのだわー。お腹いっぱいなのだわー」
「ご苦労様。……綺麗に全部食べたな……」
「大きさに見合う食事量と言えるかもしれないけど……これだけの食事はさすがに多過ぎね……」
「これからも、エルサには小さいままで食事をしてもらおう……」
「私もいっぱい食べたいのー」
「ユノは、帰ったらいっぱい食べさせてやるから、今は我慢な?」
「はーいなの」
ワイバーンの焦げ肉を全て食べ切った事で、満腹になったエルサが、満足そうにしているのを見ながら、モニカさんとソフィーさんの話を聞く。
これだけの量を毎食食べてたら、食料が足りなくなってしまうからね……俺も今度から小さい時だけ食事させる事に賛成だよ。
あと、エルサが食べるところを見て、ユノだけが食欲をそそられたようだ。
……焦げ肉を食らい尽くすドラゴンを見てとは……独特の感性だ……とは思うが、ユノだからなぁ。
とりあえず、帰ったらユノにはお腹いっぱい食べてもらう事にしよう。
「ヴェンツェルさん、こっちは終わりました」
「……そのようだな。あれほどの量をこの短時間で……。では、我々は掘った穴を埋める作業だな。穴を掘って埋める……中々の訓練になるだろう」
「……お願いします」
「リク殿は、もう城へ帰っても良いだろう。皮の方は、我々が城まで運ぶ」
「はい。わかりました」
エルサが全部食べ尽くした事で、穴に埋める必要はなくなったため、一度掘った穴を埋め直す作業を新兵さん達に任せるみたいだ。
穴を掘って埋めるだけの意味の無い作業……どこの拷問かな? と思ったけど、それなりの力仕事なのは間違いないから、訓練にもなるのかもしれない。
……俺は、そんな作業をさせられたくはないけどね。
穴の事や、皮を運ぶのはヴェンツェルさん達に任せ、俺達は先に帰っても良いとの事だったので、お言葉に甘える事にした。
少しだけ、自分達用に素材として皮を分けてもらい、残った大量の皮は新兵さん達に任せる。
素材の皮は……今の所特に使い道も考えていないけど、何かあれば使えるかもしれないからね、腐る事もなさそうだから念のため。
「……美味しかったけど、苦みがまだ残ってるのだわ。キューで口直しをするのだわ!」
「……まだ食べるのか?」
「キュー別腹なのだわ!」
小さくなって、また俺の頭にドッキングしたエルサはキューを求め始める。
口直しとか別腹って……キューってそんな感じなのか。
夕食はいらないのかもしれないけど、しっかりキューは食べるようだ。
「それじゃあ、ヴェンツェルさん。俺達はこれで」
「あぁ。今回は助かった。リク殿の協力に、感謝する!」
「「「感謝します!」」」
ヴェンツェルさんに声をかけて、王都へ戻ろうとしたら、大きな声と共に、新兵さん達も加えて敬礼して来た。
ちょっと大げさだけど、お礼は素直に受け取っておこう。
俺も、作業を手伝ってもらって助かった部分もあるから、ヴェンツェルさん達にお礼を言って、その場を離れた。
「リクさん、肉料理が食べたいわ」
「そうだな……あの匂いが忘れられない」
「私もね」
「俺もだ」
「……皆そうなんだね。……実は、俺もなんだ」
「私も食べたいのー」
王都への帰り道、皆の意見が肉料理を食べる事で一致。
もしかすると、王城で姉さんやヒルダさんが夕食を用意して、待っていてくれるかもしれないけど……今日の所は、城下町でお肉をいっぱい食べようと思う。
あのワイバーンを焼く匂いのせいで、皆空腹に耐えられないようだしね。
「でも、どこで食べよう? 美味しい肉料理の店とか……皆知ってる?」
「私は知らないわ。肉料理を求めて店を探す……なんてした事がないもの」
「私達エルフはそうだな」
「私は……すまない、わからないな。ヘルサルなら獅子亭で決まりなんだが……」
「そうだよね。マックスさんの料理があれば一番なんだけどねぇ」
「そうね……肉料理……」
皆に聞いてみるが、誰も美味しいお店を知らないみたいだ。
ソフィーの言うように、獅子亭があればそこで食べるのが一番なんだけどね。
エルフ達は、そもそも肉料理を食べる事があまり多くないみたいだから、仕方ないか。
そもそも、皆王都に来てそんなに日が経ってないから、大きい王都で美味しい店なんて、すぐに見つけられるわけもないだろうしなぁ。
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