第225話 コルネリウスの護衛兼冒険者
「将来有名になるためには、これくらいの依頼を軽くこなせないといけないと仰いまして……ギルドには言わず……」
「無許可依頼か……罰せられる事は無いが、達成しても報酬は無いぞ?」
「それはわかっております。コルネリウス様はキマイラを倒したという勇名が欲しいだけで、報酬は気にしていないのです」
無許可……というか、ギルドで正式に依頼を受けないと、対象の魔物を討伐しても依頼を達成したとは認められない。
依頼を受けて、それを遂行する……というシステム上仕方ない事らしい。
薬草採りなんかの、危険の少ない低ランク用の依頼は、物納で済まされるから報酬を貰えることもあるようだけど、魔物を相手にする依頼は別だね。
そうしないと、偶然討伐証明部位を入手した人が報酬を貰おうとする事もあるらしい。
コルネリウスさんは、キマイラを討伐した……という事実が欲しいだけで、報酬が欲しいわけじゃないみたいだ。
まぁ、従者を持つくらいだから、お金には困っていないからなんだろうけど、冒険者を甘く見てるような気がして、あまり良い気はしない。
「しかし、フィネはBランク……もう一人冒険者に見られる人もいるが……あちらは?」
「あちらも私と同じく冒険者で、コルネリウス様の護衛兼従者で、Cランクです」
もう一人、馬車の横に立ってこちらを見ているだけの男性は、ローブのような軽い物に身を包み、剣や槍といった武器を持っていない。
一応、盾を持っているけど、身軽にしているのは魔法を使って戦う人だからかもしれない。
「そのランクが実力相応であるのなら、キマイラは倒せないだろう?」
「その通りです。ですが……コルネリウス様にあまり逆らえません。雇い主ですからね。……小さい頃から面倒を見ていますし」
フィネさんが言うには、コルネリウスさんが雇い主であるという事と、昔から面倒を見ている相手だから、放ってはおけないとの事。
それなら止めろとも思うけど、雇い主だから強く言って止める事はできないのだろう。
……そのわりには、さっきから叫んでるコルネリウスさんを無視してるけど……その辺りは昔馴染みだからできる事なんだろう、多分。
「だが、キマイラを相手にするとなると……危険だと思うが……」
「それも承知の上です。私やあちらのカルステン……魔法使いの冒険者なのですが、彼と私はコルネリウス様を守るのが使命。もしもの時は私達を囮にコルネリウス様だけでも……」
フィネさんは、例えそれがコルネリウスさんの身勝手な都合だとしても、身を挺して守るつもりのようだ。
馬車の方にいる魔法使いの人……カルステンという人も同じ考えのようだね。
……でも、キマイラを倒すのに、そこまで悲壮な決意をしなくても……と思う。
命あっての物種とはよく言うもんだ。
「フィネさん、ここは協力してキマイラを討伐しましょう。そうすれば、皆の生存率も上がるはずですから」
「リク様が加勢して下さるのであれば、心強いです! 是非お願……」
「おい、何を言っているんだ! キマイラは私の獲物だぞ! 僕の勇名を轟かせるため、戦うのは僕達だけで十分だ。邪魔をしないでくれ!」
「コルネリウス様……」
今まで無視していたコルネリウスさんだけど、いつの間にか俺達に近付いてきていて、話を聞いていたらしい。
俺が協力する事を提案したのを、邪魔をするつもりだと勘違いしている。
……邪魔とかじゃなく、フィネさん達を助けるために提案したんだけどなぁ。
「コルネリウス様、この方は最近噂になっているリク様なのですよ? ここは協力を仰いでいた方が得策かと思われますが……」
「ふん! ミクだかニクだか知らんが、そんな者の助力など必要ない。本当ならキマイラ程度、僕一人で十分なのだからな!」
「……コルネリウス様」
フィネさんが穏やかに提案しても、コルネリウスさんは聞く耳を持たない。
どうでも良いけど、俺の名前はリクだ。
そんな間違えられ方、初めてされたよ。
コルネリウスさんがわめいて、俯くフィネさん。
雇われてるからというのと、小さい頃から面倒を見ているというのが大きな理由だと思うけど、ここまで人の話を聞かない人の意見を、いつまでも聞いていなくて良いと思うんだけど……。
「コルネリウス様……いえ、コル!」
「ひっ!」
そう考えていたら、俯いていたフィネさんが顔を上げ、怒ったような表情でコルネリウスさんを睨んだ。
さっきまで自信ありそうにしていたコルネリウスさんは、それだけで身を竦める。
おや、なにやら雰囲気が変わったぞ?
「貴方はいつまで我が儘を通すつもりなの! いい加減気付きなさい、キマイラは貴方の手におえる相手ではないのよ!」
「フィネ……しかし……僕は……」
「勇名を轟かせよう、活躍しようと考える事までは良いわ! けど、人の好意を跳ねのけてまでする事じゃないわよ! わかってるの? 私やカルステンだけならまだしも、後ろの馬車には御者を務めてる人もいるのよ!? 囮のために馬を連れて来るのは良い考えだと思うけど、失敗したらあの人達も命はないのよ!?」
さっきまでとは打って変わって、フィネさんの圧力にコルネリウスさんはすっかり委縮している。
……これだけ強く出られるなら、最初からキマイラに挑戦なんて無謀な事、止めておいてもらいたい……と思っても、もうここまで来たのだから遅いか。
どうやら、後ろの馬車……とくに馬はキマイラ相手の囮らしい。
アルネがキマイラの好物の可能性が高いと言っていたから、そのためだろう。
馬だけでなく、馬車にしているのは、幌馬車の中で移動中の休憩をするためかもしれない。
「リク様、コルが失礼な事を……申し訳ありません。リク様の協力、是非ともお願いしたく存じます」
「えーと、はい。大丈夫ですよ」
失礼な物言いはそこまで気にしなくて良いんだけど、未だ委縮した様子のコルネリウスさんと、怒った表情のフィネさんが気になる。
その迫力のような物に押されて、俺は協力する事を承諾した。
元々目の前でキマイラの餌食になるのは、見過ごせないから、協力はするつもりだったんだけどね。
「それでは、私はこの斧で援護を……」
「話はそこまでなの! 来るの!」
「ユノ?」
フィネさんが協力をするという事で、自分の役割を確認しようとしたのだろう、斧を持ってが得意かを話そうとしたところで、ユノが割って入った。
「「RYUAAAA!」」
「キマイラか!」
話に割って入って来たユノの方へ顔を向けると、その顔は林の方へ向いている。
その時、林の方で人とは思えない雄たけびが辺りに響き渡る。
それと同時、ソフィーも叫んだ。
どうやらキマイラが俺達に気付いて、こちらへ向かって来ているようだ。
……結構長い間話してたように思うけど、ようやく気付くなんて……キマイラって意外と鈍感?
「皆、俺達の後ろに! フィネさん、コルネリウスさんも!」
「わかったわ」
「頼んだぞ、リク!」
「まぁ、リクに任せてれば良さそうね」
「そうだな」
俺とユノが並んで林に体を向け、その後ろへモニカさん達は移動。
完全に俺達にキマイラ討伐を任せるようだけど、以前から言われてたからね、仕方ない。
「私達も!」
「ぼ、ぼ、僕だって、戦う!」
「……援護する」
フィネさんとコルネリウスさんが、俺とユノの横に並び、いつでも戦えるように構える……けど、コルネリウスさんの方は、さっきの雄たけびに怯えたのか、少し腰が引けてる様子だ。
……さっきまでの威勢はどこへ行ったのか……。
フィネさんは斧を握りしめ、カルステンさんはその数歩後ろで魔法をいつでも放てるようにしている。
そうしている間に、キマイラが林の中から出て来た。
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