第177話 会議や説明が終わり解散



「今話したように、りっくんと私、ユノちゃんもね……私達は、公の場でなければ今のように普通に話すわ。一応、公の場では女王と英雄って事にするけどね」

「……それが良いでしょうな。信じがたい話も多くありました……広く知られる事は避けた方が良いでしょう」

「信じてくれる人がどれだけいるかわかりませんからね。事情を知る方達以外の方がいる時は、その方が良いと思われます」

「切り替えるのが面倒だけど……今まで同じ事をやって来たから、何とかなると思うわ」

「俺も頑張るけど……ふいに姉さんと呼びそうで、ちょっと怖いな」

「りっくんは……ちょっと練習が必要かもね。英雄だし、これから色々な場に出る事が増えるかもしれないし……」


 姉さんと俺、元々姉弟だったから普通に話してるけど、他人から見たら、女王様と単なる冒険者だ。

 その二人が親し気に話してるというのは、あまり見せない方が良いだろう……姉さんの評判的にもね。

 俺が姉さんと女王様を使い分ける事に不安を感じていると、姉さんが何やら不穏な事をいた気がする。


「姉さん、今なんて? 俺、あんまり目立つ事はしたくないんだけど……?」

「……あれだけ魔物やバルテルを相手に活躍しておいて、何を言ってるのかしら……この子は……」

「リク様は、ヘルサルの英雄。今ではエルフも王都も救い、名実ともにアテトリア王国の英雄となるでしょう。これからのリク様の行動は、色々な方面から注目されると思われます」

「それに、色んな貴族が目を付けてるだろうしね……多分、自分の所に引き込もうとする貴族も出ると思うわ」

「今回のバルテルも、最初はそのつもりだったようですからな」

「そうだったわね。バルテルがりっくんに興味を持ってるようだったから、突っぱねたら急に変貌したのよね」

「……その話、初耳なんだけど……?」

「あら、言って無かったかしら?」


 姉さんが呆れながら、ハーロルトさんは真面目に、俺がこれから注目されるであろう事を伝えて来る。

 その中で、姉さんが聞き逃せない事を言った。

 もしかして、前にハーロルトさんが言っていた俺を狙ってる……という話に繋がるのか?


「授与式が中途半端な形で中断して、貴族達に説明しに行ったんだけど……」


 俺が倒れて目を覚ました後、姉さんが説明のために貴族達の所へ行ったんだったね。


「その時、バルテルが妙にりっくんがいれば怖いもの無しとか、利用すればどうのなんて言うもんだから……頭に来ちゃって」

「……頭に来ちゃってって……年もそうだけど、立場を考えようよ姉さん……それに、そのポーズは痛いよ?」

「りっくん、それは失礼よ!」


 心外とばかりに俺の言葉に反応する姉さん。

 でも良い年をした女性が、片目を閉じ、片手を後頭部に当てて、舌を出して、「頭に来ちゃった☆」とか言うのはちょっとね……。

 女王様として色々頑張ってるようだけど、以前の世界で暮らしてた頃の感覚はまだまだ抜けないらしい。

 ともあれ、姉さんが俺の事を色々言われて頭に来てバルテルに反論。

 しかも、ずっと姉さんの方針に反抗的な行動を取っていた事を、貴族達が集まる中で指摘した事で、バルテルは凶行に走ったようだ。

 多分、プライドやらなにやらを刺激されたんだろうけど……帝国との関係を色々考えてたのって一体……。

 まぁ、バルテルが帝国と通じて、この国をどうにかしようと計画をしてたのは確実みたいだけどね。


「……りっくんには、近いうちに女性に対する考え方を教え込む必要があるわね……。ちゃんと育ってくれたのは嬉しいのだけど……」

「……それは止めてくれ、姉さん」


 何やら不穏な雰囲気を出しながら言う姉さんを止める。

 小さい時以来だが、こんな感じで姉さんには教育的な指導をされた事は何度もある。

 しかし、ふんわりした柔らかい雰囲気だった以前の姉さんならまだしも、女王様になって見た目も変わった姉さんから説教をされるのは少し怖い。


「それでは陛下、私はこれで。指示通り、今日中に王都にいる貴族達には通達致します」

「お願いするわね。……りっくんへの勲章授与式のおかげで、王国中の貴族が集まっていてちょうど良かったわ。全てじゃないけど、これから招集して会議……となると時間がかかってしまうしね」


 ハーロルトさんが貴族達への通達のため、部屋を出るのを見送りつつ姉さんが漏らす。

 確かに、改めて貴族達を集めて会議というのは手間も時間もかかるからね。

 色々あったから、タイミングが良いと考えるべきなのか、悪いと考えるべきなのかわからないけどね。

 

「それじゃ、私達も宿に戻るわね。……父さん達の方も気になるし」

「マックスさん達なら、大丈夫だろうとは思うが……実際に町の様子も見ておきたいしな」

「マックスさんとマリーさんなら、魔物達と戦ってたんだろうね。怪我とかしてないと良いけど」

「私達も宿に戻るわ」

「魔力を思ったより消費していたみたいだからな。ゆっくり休みたい」


 マックスさん達の事が気になるモニカさん達を見送り、部屋には俺とヒルダさん、姉さんとベッドで寝ているユノとエルサだけになった。


「皆お疲れ様、といったところね」

「魔物達とずっと戦ってくれてたからね。仕方ないよ」

「そうね。国の事を考えると、感謝しかないわ。りっくん、いい仲間を見つけたのね……女の子が多いけど」

「女性が多いのは偶然だよ。狙って揃ったわけじゃないからね。それに、お世話になってばかりだよ。何か返せる事があればいいんだけど……」

「仲間でしょ? 皆はそこまでりっくんから何かしてもらおうとは考えて無いんじゃないかしら? そりゃ、困ってたら助けてあげないといけないけど」

「そういうもんかな?」


 疲れた様子で部屋を出て行った皆。

 フィリーナとアルネはエルフでこの王都に住んでるわけじゃないし、モニカさんとソフィーさんはそもそも冒険者だ。

 魔物に襲われてる人々を助ける事は当たり前かもしれないけど、皆王都を必死で守ってくれた。

 冒険者としての依頼も無いし、エルフは国に所属してるけど離れた場所に住んでるのに、だ。

 ほんと、いい仲間を持ったと思うよ。


「そういえば、りっくんは冒険者なのよね?」

「うん、そうだよ。楽しそうだったというのもあるけど、自分の身を守るためにマックスさんに勧められた事も大きいかな」

「あのりっくんが冒険者ねぇ。でも、自分の身を守るってのはどういうことなの? 冒険者は魔物と戦う事も多いはず……身を守るためなら遠ざかった方が良い職業なのに」

「エルサと契約した事が大きかったかな……」


 ユノとエルサの寝息を聞きながら、姉さんと二人でこれまでの事を色々と話す。

 ほとんど俺の話だったけど、この世界に来てからの細かい事や話してなかった事を色々話せた。


「陛下……そろそろお時間の方が……」

「……あら、もうそんなに経っていたのね。仕方ないわ……仕事をしなきゃね。りっくん、またね」

「姉さんも疲れてるだろうに、無理しないでね」

「ありがと、無理しないように気を付けるわ」


 ヒルダさんに言われて、姉さんが仕事のために退室した。

 これだけ色々な事があって、時間も大分遅いのにまだ仕事があるなんて、女王様も大変だね。

 ……色々あったからこそ仕事をしないといけない事も多いんだろうけど。


「リク様、夕食の方はどう致しましょう?」

「そう言えば、昼も食べて無かったんだった……昨日と同じく、ここで食べられますか?」

「はい。迅速に用意させます」

「ははは、城の皆も今日は大変だったんだから、ゆっくりで良いですよ」


 ヒルダさんにゆっくり用意してもらうように言い、部屋から出るのを見送った。



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