第176話 皆への事情説明
「まぁ、とにかく。帝国の事や諸々を含めて会議をするって事よ。りっくんには、会議が終わるまで王都にいて欲しいの」
「それは良いけど、町を見に行ったりしても良いかな?」
「それはもちろん良いわよ。英雄の顔を見せたら、町の方も活気が出るでしょうしね。自由に城を出入りできるようにしておくわ。もちろん、武器もね」
姉さんの許可で、俺はこの城と町を自由に行き来出来る事になった。
まぁ、今まで町に行けなかったわけじゃないんだけどね……授与式や襲撃でそんな暇が無かっただけだし。
それと、城に入る時も武器を預けたりしなくて良いみたいだ。
そう言えば、魔物を倒した時のままで皆武器を持ったままだった。
最初に城に入る時は武器を預けないといけなかったけど、これからはそう言う事も無くなるみたいだね。
「国の危機を救ってくれた方ですからな。信頼性は十分です。リク様達から武器を預かる必要はないでしょう」
ハーロルトさんも、そう言って同意してくれる。
「りっくんは、会議が終わるまで自由にしてくれていいわ。町に遊びに行ってもいいし、ここでヒルダにお茶を淹れさせてのんびりするのでもいいしね」
「まぁ、今日はさすがに休ませてもらうよ。町には明日行こうかな」
「そうね、色々あって疲れてるでしょうからね。……私も疲れたわぁ」
姉さんも俺と同じく疲れを感じてるようだ。
部屋にいる皆の顔を見てみると、そこにはそれぞれ疲労が浮かんでるのがわかる。
モニカさんなんて、怪我までしてたからね。
侍女であるヒルダさんだけは、疲れを見せないようににこやかな表情をしているけど、それでもやっぱり疲れてそうだ……ハーロルトさんすらも、その表情は疲れているように見える。
授与式が終わってから、俺が倒れたり、姉さんが捕らえられたり、魔物との戦闘と色々立て続けにあったからね。
疲れるのも当然だ。
「私達も、今日は宿に帰って休む事にするわ」
「そうね……立て続けに色々な事が起こって……疲れたわ」
「そうだな。魔法を使い続けていたし、ゆっくり休みたいな」
モニカさんやフィリーナさん、アルネも宿に戻って休むつもりのようだ。
今日はゆっくり休んで、明日色々行動すれば良いからね。
窓の外を見てみると、外はもう真っ暗で日が沈みきっている。
授与式が午前だったとはいえ、それから大分経ってしまった。
皆が、話を終えて休むために部屋を出るような雰囲気になった時、ポツリとソフィーさんが呟く。
「結局、リクと陛下はどういう関係なんだ? リクは陛下と会うのは初めてだったはずだが……随分親しそうだからな」
その呟きに、皆が俺と姉さんの顔に視線を向ける。
皆、俺と姉さんの関係には興味があるようだ。
「ソフィーの言う通りだわ。陛下もリクさんに対しては随分と砕けた話し方をしていらっしゃるし……」
「何やら面白そうな匂いがするわね……」
「フィリーナ、楽しみ過ぎるなよ」
「確かに、私達もリク様と陛下の関係は聞き及んでいませんでした」
「私も興味があります。陛下が男性とこれほど親しそうに話す事は、今までありませんでしたので」
「皆、興味があるんだね」
「はぁ……ヒルダまで……そんなに面白い話じゃないと思うんだけど」
ソフィーさんの呟きに興味をそそられた皆は、事情を説明しないと帰らないとでも言うような雰囲気を出している。
姉さんが溜め息を吐いてヒルダさんにジト目を向けるが、ヒルダさんの方はそれよりも興味が勝っているらしい。
「これは、説明した方が良さそうだね。ちょうど皆揃ってるし」
「そうねぇ。ここではぐらかすよりも、ちゃんと説明した方が良さそうね」
姉さんと顔を見合わせて、皆に説明する事を決める。
「とりあえず、今から話す話は出来るだけ他言はしないように」
「陛下のご命令とあらば」
「陛下の事を他人に言いふらすような事はしません」
姉さんの言葉に、ハーロルトさんとヒルダさんが真面目な顔をして答える。
他の皆も、頷いて答えている。
まぁ、ここにいる皆が面白半分で色々言いふらす事は無いだろう。
「私とりっくんはね、ここではない別の世界で姉弟だったの」
「は?」
「……陛下、冗談は程々にして下さい」
「本当なのよ!」
「……リクが異世界から来た……という話は聞いたが……まさか陛下も?」
「ユノちゃんが来た時に話してくれたわよね。でも、姉弟にしては……似て無いような……?」
「別の世界……おとぎ話で異なる世界というのがあるかも、という話はあるけど……本当に存在してるのかしら?」
「さぁな。リクと陛下が実際別の世界から来たと言われても、長命なエルフですらわからない事だ」
姉さんが言った別の世界という言葉に、ハーロルトさんとヒルダさんは冗談を言われたと考えてるようだ。
確かに、いきなり異世界から来たと言われてたらこういう反応が正しいんだろうと思う。
獅子亭の皆が簡単に信じてくれたのは、特別な事だったんだなぁ……と実感した。
俺から以前に話を聞いていたモニカさんとソフィーさんは、姉さんも……という事には懐疑的な反応ではあるけど、俺の事情を知ってる分、冗談とは思わなかったようだ。
アルネとフィリーナは、異世界という事を聞いた事はあるみたいだね……おとぎ話とか言ってるから、本当にあるとは考えて無かったんだろうけど。
「本当なんだ。俺と姉さん……女王様はこことは違う世界で、姉弟として一緒に育ったんだ」
「リク様まで……」
「冗談……何ですよね?」
「いえ、本当よ」
ハーロルトさんとヒルダさんは、俺が言ってもすぐには信じられないようだ。
それからしばらく、あらかじめ決めていた姉さんと俺の事情を皆に説明する。
異世界から来た事、姉さんは俺やユノとは違って一度死んでこの世界に生まれ変わった事、皆にはユノが俺の妹という事にしてあるから、ユノは姉さんの妹でもあるという事にする。
俺、姉さん、ユノの三人が異世界からこの世界に来た……けど何故そうなったかの原因はわからない。
姉さんはこの世界で改めて生まれてるから、俺とは本当の血のつながりは無いけど、以前の記憶があるから俺の事はちゃんと弟として考えている、という事を丁寧に説明していった。
「陛下が……この世界とは違う人間……」
「厳密にはこの世界の人間という事で良いのよ。ちゃんとここで生まれ育ったんだからね。前国王……お父様にはしっかり育ててもらったわ」
「幼少期……少々取り乱した時期がありましたが……あれはもしかして」
「ヒルダの考えてる頃に、以前の記憶を思い出したの。ここで生まれた記憶もあるのに、別の世界で生活してた記憶もあるなんて……普通じゃいられないわよ」
ハーロルトさんとヒルダさんに、丁寧に説明してもらって何とか納得してもらった。
「成る程ね、だから陛下と親しそうに話せるのね。理由がわかってすっきりしたわ……陛下の弟……ちょっと気後れが……」
「私とモニカはリクやユノが、異世界とやらから来た事は知ってたからな。十分納得のいく話だ」
「どうりで、リクやユノの常識が少しズレてるように感じたのね」
「こことは違う世界だからな。常識が違っても仕方あるまい」
「まぁ、この世界に来て初めて戦ったりとかしたからね……色々と覚えるのに苦労は……あまりしてないな、そういえば」
モニカさんは、俺と姉さんが親しく話す理由に納得して頷いている……最後の呟きはよく聞こえなかったけど。
他の三人も、俺がこの世界の人間じゃない事をすんなり信じてくれた……ソフィーさんは以前に話した事だけど、アルネとフィリーナは……俺ってそんなにズレた行動してる?
この世界に来てすぐは途方に暮れかけた事もあったけど、モニカさんやマックスさん、マリーさん達にお世話になって色々教えてもらった。
おかげで今ではこんなにこの世界に馴染んでる……馴染んでるよね?
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