第170話 戦いの終わり



「一直線……風は色々と飛んでしまうからやめよう……熱が良いかな……」


 橋の幅を見て、範囲をイメージ。

 そこからはみ出さないように気を付けながら……町の方まで伸びるように……先の方は少しだけ幅を狭くしよう……人に被害が出たら大変だしね。

 一直線……一直線……そうだな……剣で突くイメージだ……熱の剣を作り出してそれで魔物達を突き刺すイメージ……。

 俺のイメージが固まり始めると、体から魔力が外にあふれ出すのが見える。

 今回は、熱を使うから火の魔法と同じく赤色だ。

 後ろの方では、盾を構えた向こうでざわついてる兵士達の声が聞こえる。


「……ふっ! イメージは固まったね……よし、行くか」


 俺が何かを使用としてるのがわかるのか、魔物達が慌てて俺に殺到するけど、もう遅い。

 突出したオーガ1体を右手に持った剣で斬り裂きながら、左手を魔物達に向けてかざし、魔法を発動させる。


「ヒ―トソード!」


 イメージは熱の剣。

 左手から数センチ離れた場所が光り出し、そこから橋の横幅ギリギリまで広がった熱の剣が町に向かって伸びて行く。

 魔物達は、それに触れた瞬間に熱で燃やされ、溶かされ、悲鳴を上げる間もなく剣に飲まれて行った。


「……」


 しばらく俺は左手をかざして剣を突き出す格好のまま、魔法が魔物達を飲み込んでいく様を見届ける。

 後ろにいる兵士達の様子はわからないけど、無軌道に伸ばさないよう気を付けたから大丈夫なはずだ……。

 ヘルサルの時を思い出すくらい、熱風が吹き荒れてる気がするけど……。


「……もう大丈夫かな……?」


 1分くらいそのまま熱の剣を突き出した後、魔法を霧散させる。

 白熱した剣が消えると、今まで密集していた魔物達は全て姿を消していた。

 ……あ、向こうの方に残ってる魔物が数匹いるな……。

 小さいコボルトやゴブリンのように見えるから、ぎりぎりで範囲から逃れてたんだろう。

 その魔物も、俺の魔法が消えた後に数人に囲まれて倒されていたけどね。


「ふぅ……終わったよ。これで魔物は全部いなくなったと思う」


 後ろに向いて、ソフィーさん達や兵士達に声をかける。


「……あれ?」


 けど、何も反応が無い……どうしたんだろう?


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」

「うわ!」


 何か問題があったのかと首を傾げた俺に、盾の向こうから大歓声が上がる。

 耳が痛い程響くその叫びは町の方にも届き、やがて町からも大歓声が上がった。


「間近でこんな魔法を見るのは初めてだけど……凄いわね……」

「こんな事が人間一人に出来るとは……目の前で起こった事でも信じられんな……」

「私は何度か見ているから、もう呆れるしかないがな」

「あんな魔法の使い方は普通考えないの」


 歓声を上げ続ける兵士達の間から、フィリーナさん達が俺に歩み寄りながら呆気に取られたような物言い。

 ソフィーさんとユノは呆れ顔だが……。


「リク様! 聞きしに勝る活躍……見事でございました!」

「ハーロルトさん。皆が協力してくれたおかげですよ」


 フィリーナさん達に続いて、ハーロルトさんも来たようだ。

 俺の活躍を称えるような言い方だけど、ハーロルトさんを始め、皆の協力があったおかげで出来た事だと思う。

 それが無かったら、皆を巻き込まないようにさっきのような魔法は使えなかっただろうね。

 その場合、ちまちまと魔物を倒すしか出来なかったとおもう。


「リクさん! いつものようにすごい魔法で解決したようね。やっぱりすごいわ」

「モニカさん。まぁ、皆のおかげだよ。それはともかく、怪我の方は大丈夫?」

「かすり傷のようなものよ。ちゃんと処置したから、直に治ると思うわ。跡も残らないわよ」


 後の始末をハーロルトさん達に任せて、俺やソフィーさん達は城の中に戻って来た。

 入ってすぐ、モニカさんに迎えられて怪我の具合を聞く。

 どうやら、大きな怪我じゃなかったようで一安心だ。

 女性だから、跡が残るような怪我はあまりして欲しくないしね。

 平気そうな顔のモニカさんだけど、処置する前は槍が鈍ってたりして痛みはあったんだ、怪我が原因でさらに大きな怪我を……なんて事も無く終わって良かったと思う。


「りっくん! 無事だったのね!」

「リク様、ご無事な様子何よりでございます。陛下と城を救って頂いた事、なんとお礼を申せば良いのか……」

「姉さん……こんなとこにいて良いの? それとヒルダさん、姉さんを救えたのはともかく……城を魔物の襲撃から守れたのは、皆の協力があってこそです。かしこまらなくても良いんですよ」

「相変わらず、リクは自分の手柄に無頓着だな」

「そうね……そこが良いところでもあるんだけど……」

「まぁ、欲のある人間じゃなくて良かったと思うところかもな」

「リクが欲にまみれてたら、今頃この国はリクに支配されてるでしょうね」


 城内での部屋に戻ると、そこには姉さんとヒルダさんが俺を待っていてくれた。

 ヒルダさんはここで待っているように言ったから良いんだけど、姉さんはこんなとこにいて良いんだろうか……女王様なのに。

 俺の後ろで、何か話してる皆の声はスルーする事にした。


「城内の指示は済ませておいたわ。後は各自で何とかするわよ。……意外と、女王のする事なんて大したことないのよ?」

「陛下……その言い方はどうかと……」

「仕事が少なくても、姉さんがいる事で安心する人とかいるんじゃない?」

「貴族の相手は疲れるのよ。りっくん相手の時みたいにリラックスして話せないしね」


 姉さんはちゃんと仕事をしているようだけど、肩肘張って話す事になる貴族の相手は疲れるようだ。

 まぁ、気持ちはわかるというか……それが嫌で爵位を辞退した部分もあるからな……。

 姉さんは昔からあまり変わってないようだけど、それで女王様というのをこなしてるのは素直に凄いと思う。

 ……昔から要領は良かったからね。


「それにしても、ワイバーンに続き……城を襲撃して来た魔物までも……りっくんはほんとに強くなったのねぇ」

「まぁ、ね。ほとんどエルサのおかげな部分もあるけど……」


 姉さんにそう返しながら、ベッドでぐっすりと眠ってるエルサの方へ視線を向ける。

 空を飛んでワイバーンと戦ったり、魔法を使ったりとしてくれたから結構疲れたんだろう。

 部屋の中で俺や姉さんが普通に話してても、エルサが起きる気配は全くない。


「ドラゴンとの契約というやつね。……まぁ、それだけじゃないみたいだけど」

「ユノ曰く、元々大量に魔力を持ってたみたいだからね……」


 姉さんと話しながら、ソファーに座って一息吐く。

 被害が無いわけじゃないけど、無事に魔物や賊から王都を守れた事の安堵と共に疲れが出てきたようで、体が少し重い。

 結構強い魔法を使ったからね……疲れるのも仕方ないのかもしれない。


「……どうぞ」

「ありがとうございます、ヒルダさん」

「あら、ヒルダ……りっくんのポイント稼ぎ?」

「……そんなんじゃありませんから。疲れている英雄を労うのは、お世話係として当然の事です」


 座って息を吐く俺に、ヒルダさんが暖かいお茶を淹れてくれた。

 それを見て姉さんがニヤニヤと変な勘繰りをしているが、ヒルダさんは澄ました顔で否定する。

 そう言えば……姉さんってこういう話が大好きだったな……相変わらずだ。



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