第171話 戦闘後の来訪者
「皆様もお疲れでしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうなの!」
「頂こう」
「はぁ、やっと一息吐けるのね」
「ヒルダ……私のは?」
「おかしな事を言う陛下にはありません」
「ごめんヒルダ。謝るから私にもお茶を頂戴ー」
「はぁ……わかりました」
他の皆にもヒルダさんがお茶を用意してくれて、一息吐く。
のんびりした空気の中お茶を飲む皆は、ようやく大きな事が終わった安心感でいっぱいなようだ。
まぁ、姉さんが捕らえられる事から始まって、魔物の襲撃だ……緊張と戦闘の連続でようやく休まった、というところなんだろう。
「姉さん、ヒルダさんには普通に話すんだね?」
「ヒルダは特別よ。昔から一緒だったからね」
「小さいころから、陛下には親しくさせてもらっております」
ヒルダさんと姉さんは、見る限り同年代に見える。
多分、この城で二人は友人として過ごして来たんだろう。
この世界でも、ちゃんと親しい人が出来たようで安心だ……と思うのは、保護者目線過ぎるかもしれないけどね。
昔は俺が、保護される側だったけどなぁ……これが成長か。
「ん?」
「誰かしら?」
「ハーロルトさんが報告にでも来たかな?」
的外れな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します。ご歓談中申し訳ございません……陛下と面会を求める方が来ておりまして……」
「面会? このタイミングで……? 一体誰?」
「それが……」
「……なんだと!? そうか、わかった。すぐに行くと伝えろ」
「はっ!」
部屋に入って来たのは、ハーロルトさんではなく別の兵士さん。
装飾のある鎧を着てたから、それなりの役職に付いてるんだろうと思う。
その兵士さんは、姉さんに近付いて何事かを耳打ちする。
兵士さんから伝えられた内容に驚いた姉さんは、俺に接してる時とは違う、女王様モードで答えて兵士さんを下がらせた。
「姉さん、どうしたの? 誰かが来たみたいだけど……」
「……タイミングが良すぎるわ……これは何かあると見て良いでしょうね。……ヒルダ、ハーロルトをここに。りっくん、ちょっと出て来るわね」
「畏まりました」
「それは良いけど、何かあったの?」
「面倒な客が来ただけよ。すぐに追い返……いえ、そうね……りっくん達にも見せた方が良いわね」
「……どういう事?」
俺ん質問には答えず、姉さんは何かを考えている様子だ。
面倒な客と言っていたけど、一体誰が来たんだろうか?
「陛下、お呼びでしょうか」
「ハーロルト、至急バルテルの周囲を調べろ。本人は死んでいるが、周囲を調べる事でわかる事があるはずだ」
「はっ!」
「それと……帝国から使者が来ているようだ……タイミングがおかしいと思わないか?」
「帝国からですと!? それは……」
ヒルダさんがハーロルトさんを呼んで来てくれて、姉さんと話しているのは良いんだけど……こんな話を俺達の前でしていいのだろうか?
まぁ、姉さんからの信頼なのかもしれない。
「今回の件、色々とおかしい事が多過ぎる。バルテルが反旗を翻す事だけでなく、見計らったかのように魔物の襲撃……しかも、魔物は城下町には目もくれず、この王城を目指していたと聞く……」
「さらに、事が終わった後に帝国の使者……ですか。確かにおかしいことだらけですね。わかりました、情報部隊総出で調査を行います」
「頼む」
「バルテルの凶行を察知出来なかった我らの汚名、必ずやそそいで見せます!」
「期待している」
姉さんと話し終えたハーロルトさんは、決意を滲ませて部屋を出て行った。
情報部隊長という役職でありながら、バルテルが姉さんを捕らえるのを阻止できず、計画も調べられなかった事を気にしているんだろう。
確かに、情報を取り扱ってる部隊がありながら、まんまと姉さんを人質に取られたんだから、口さがない人達から何かを言われてしまうものなのかもしれない。
「さて、りっくん達は私に付いて来て」
「それは良いけど……そろそろ事情を話してくれても良いんじゃない? それにどこに行くの?」
「行先は謁見の間よ。りっくんは私を助ける時に入って来たでしょ? あそこからね。事情を説明してる時間が無いわ……後で全部説明するから、今はこれから起こる事だけをよく見ていて欲しいの」
「……わかった」
姉さんを助ける時に入ったという事は、謁見の間の裏だろう。
あそこから俺達を連れて、姉さんの所に来たという使者との話を俺達に見せるんだろうと思う。
使者の人を待たせてるんだから、時間がないのはわかるけど……少しでも事情を説明して欲しいな……まぁ、今までの会話で何となくわかる事はあるんだけど……。
「私達も、良いのですか?」
「ええ、貴女達はりっくんの仲間で、信用しても良さそうだから。でも、静かにしていて頂戴ね」
「もちろんです!」
モニカさんが、姉さんに付いて行く事を聞いている。
姉さんは俺と一緒にいると言うだけで、モニカさん達を信用したようだけど、それで良いのだろうか?
まぁ、モニカさん達が信用できる人達だというのは、俺が保証するけどね。
「それじゃあ、行くわよ。そんなに時間はかからないと思うから、ヒルダは美味しいお茶でも淹れて待っていて」
「畏まりました」
「ユノとエルサの事、お願いします」
「はい。行ってらっしゃいませ」
深々と礼をするヒルダさんに見送られ、俺達は部屋を出て謁見の間の裏側へ。
今回ユノとエルサはお留守番だ。
エルサは起きなかったからだけど、ユノの方も大分疲れてるようだったからね。
魔物達が密集する中で、剣を振り回して戦ってたから仕方ないと思う。
「本当に謁見の間の裏なのね」
「我々がここから入る事になるとはな……」
「そうだな、本来は王族か……それに連なる人物しか通る事が許されないはずだ」
「緊張するけど……前には出なくていいのだから、多少は気楽ね」
フィリーナを始め、姉さんに連れられて来た皆は謁見の間の裏通路に入るのに緊張している様子だね。
……アルネが言うように、本来王族かそれの関係者しか通れない道が本当なら、姉さんを助ける時普通に通ったんだけど……良いのかな……。
まぁ、女王様である姉さんを救うためだし、何か言われたら緊急事態という事で許してもらおう。
今回は姉さんが先導して連れて来たから、特に文句は言われないだろうしね。
「さて、りっくん。ここからはしばらく静かにしていて頂戴ね。私が謁見の間に出るから、りっくん達は見えないように隠れて話を聞いていて欲しいの」
「……何のためにそうするのかはわからないけど、わかったよ」
「陛下の命ならば」
「陛下に言われたら、断るなんて出来ませんね」
「エルフである我らも、陛下に従います」
「リクには親しそうに話すのね……畏まりました、陛下」
姉さんの言葉に、それぞれが返事をして頷いて俺達は謁見の間へと裏から入る。
俺が姉さんを助ける時、様子を見ていた入り口の影……玉座の裏当たりで声を潜めて待機。
姉さんはそのまま謁見の間に入って行き、玉座に座った。
側近のような人に何か話すと、兵士が扉を開け数人が謁見の間に入って来た。
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