第158話 人質救出に向かうリク



「城の兵士達を集めて、城門へ向かって下さい。魔物討伐と、住民の安全が優先です」

「わかりました……ですが、謁見の間にいる陛下は……」

「そちらは俺が行きます。……モニカさん達もハーロルトさんと一緒に行ってくれるかな?」

「……リクさんがそう言うなら従うけど……一人で良いの?」

「そうだぞ。向こうは複数の人間だ。人質もいるのだから、一人では……」

「大丈夫。俺にはエルサもいるから。……念のため、ユノも連れて行こう」

「私も行くの! 皆助けるの!」


 ハーロルトさんに指示を出し、モニカさん達にも魔物がいる方へ向かってもらうように言う。

 さすがに俺一人で行く事に異を唱えるソフィーさんだが、エルサとユノがいれば多少の事はなんとかなるだろうから。

 ユノも、声を上げてやる気だしね。


「……わかったわ。私達は魔物達へ向かうわね……まったく王都に来てまで魔物退治なんて」

「文句を言うなフィリーナ。集落を救ってくれたリクの頼みだからな」

「仕方ないわね。母さんに特訓してもらった成果を、ここで存分に発揮するわ」

「新しい装備も買ったしな」

「ありがとうございます、皆さん」

「ヒルダさんはここに残って下さい」

「……私は足手まといでしょうからね……わかりました」


 兵士達へ指示を出すために、先に部屋を出たハーロルトさんを見送りながら、残った皆と話す。

 意気込む皆を頼もしく思いながら、ヒルダさんに残るように言う。

 戦えないだろうヒルダさんが、何かに狙われると危ないからね。

 

「全部終わったら、美味しいお茶を頼みます」

「……はい」


 俺達を、深々とお辞儀をして見送るヒルダさんにそう言って、部屋を出る。

 城門方面へ行く皆と、一度顔を見合わせて頷き合い、俺達は別れた。


「リク、今日は冷静なのだわ」

「エルサがさっき、声をかけてくれたおかげだよ。ありがとう」

「そ、そうなのだわ?」

「エルサお手柄なの。リクが暴走したら大変だったの」


 俺がお礼を言うと、照れたような声を出すエルサ。

 ユノも一緒にエルサを褒めてるけど、大変とはどういう事だろう……。

 いや、今まで魔力が溢れ出してた事を考えると、言われても仕方ないか。

 もし、我を忘れて大規模な魔法を使ったりしたら、城ごとすべてなくなるとかもありえるしな。

 姉さんが関わる事だから、無いとは言えないのがちょっと悔しい。


「皆、城門に向かってるな」


 謁見の間へと向かう途中、すれ違う兵士達が城門に向かってるのを確認する。

 ハーロルトさんがちゃんと指示を出してくれたようだ。


「リク様!」


 兵士達を見送っていると、一人の兵士さんが俺に近付いて声を掛けて来た。


「これを。緊急時なので、帯剣許可が出されました。ハーロルト様の指示です」

「ありがとうございます」


 兵士さんから、入城の時に預けていた剣を受け取り、腰に下げる。

 ユノの剣や盾もある。

 非常時だから、城内でも剣を携帯出来るようにハーロルトさんが指示を出してくれたようだ。

 情報部隊の伝達は早いね。

 きっとモニカさん達の方にも、武器を持って行ってくれてるだろう。

 兵士さんに礼を言って、謁見の間へと急ぐ。


「姉さんをどう助けるか……」


 謁見の間に、他の貴族達と一緒に捕らわれてるとの事だが、姉さんが人質に取られると手が出せない。

 真正面から入っても、盾にされる可能性が高いな……。


「とは言え、ひとまず謁見の間へと行かないとな」


 考えて足を止めるよりも、謁見の間へ急いだ方が良いだろう。

 俺は、姉さんを助ける方法を考えながら、謁見の間へ。


「リク様、こちらです」


 謁見の間に到着した時、入り口の扉を複数の兵士が取り囲んでいた。

 その中から一人の兵士さんが俺に声を掛けて来る。


「状況はどうなっていますか?」

「相変わらず、謁見の間に立てこもっています。陛下を始め、複数の貴族達が捕らわれているため迂闊に手を出せません……」

「そうですか……」


 やっぱり正面から突入するのは難しいな。

 貴族達を盾に取られたら、手が出せないだろうし……。

 どうするか。


「リク、私に任せるの」

「何か考えがあるのか、ユノ?」


 俺が中にいる人達をどう助けようか考えていたら、ユノに声を掛けられた。


「私が正面から入るの。リクは別の入り口から入って」

「別の入り口……。そんなのがあるんですか?」

「確かにあります。そちらは別の兵士が見張っていますが……そちらには賊の見張りも……」


 謁見の間には、正面の入り口の他に別の入り口もあるみたいだね。


「私が囮になるの。その間に、リクが中に入って皆を助ければ良いの」

「けど、大丈夫なのか?」

「大丈夫なの。そこらの人間に私は負けないの」


 ユノの強さは、マックスさんを軽くあしらう程だ。

 エルフの集落でウッドイーターを簡単に倒してたのもあって、信頼出来る。

 けど、囮なんて危ない事をユノ一人に任せて良いのだろうか……。


「皆を守るために盾があるの!」

「本当に任せて大丈夫なのか?」

「大丈夫なの! 私を信じて任せて!」


 力強く頷くユノを見て、この場を任せる事にした。


「すみません。誰か俺を、別の入り口の方に案内してくれませんか?」

「わかりました。おい!」

「はっ!」


 兵士さんにお願いして、謁見の間にあるという別の入り口に案内してもらう。

 ユノに任せた事は心配だが、きっと上手くやってくれると信じてる。


「こちらになります。あの向こうに、見張りの兵士がいるので迂闊に手が出せません」

「成る程。ありがとうございます」


 別の入り口は、謁見の間をぐるりと迂回した場所、謁見の間の後ろ側だった。

 人が一人通れる扉が、カーテンの裏に隠されてたようだ。

 来る途中に聞いた話だと、姉さんが謁見の間に入るための場所で、玉座のある上段に繋がっていて、何かあった時の退路でもあるとの事だ。

 まぁ、今回は塞がれて逃げ場が無くなったみたいだけどな。

 城の構造を知ってる奴が相手だから、対策をされていたんだろう。


「1、2、3……5人か」


 こちら側の兵士達と、カーテンの前に陣取って睨み合うようにしているのが5人。

 全員ごつい全身鎧を身に着けていて、見た目的には強そうだ。

 恐らくあれが向こう側の見張りだろう。

 何か動きがあると誰か一人が中に報せる役割も持っているのかもしれない。


「さて、ユノは上手くやってくれるかな……?」


 見張りと睨み合ってる兵士達の後ろに隠れて、様子を窺う事数分。

 カーテンの後ろから、1人出て来て何事かを見張りの5人に耳打ちする。

 少し焦った様子を見せた5人だったが、出て来た1人が落ち着かせて3人を残して中に入っていった。


「正面から突入した馬鹿がいるようだが、俺達には人質がいる! 下手に手を出せばわかってるんだろうな!」

「くっ」

「卑怯な」


 残った3人のうち1人が、俺達に向かって威嚇するように声を張り上げた。

 多分、ユノが囮で正面から入ったんだろう。

 ……しかし、予想はしていたけど、本当に人質に取るとはね……やっぱり許せない。


「すみません、少しの間だけ息を止めていてくれますか?」

「リク様? ……しかし……」

「お願いします。すぐにあの見張りを眠らせますから」

「……わかりました。おい」

「何だ? ……わかった」


 近くにいた兵士さんに小さな声で息を止めるように言い、それを他の兵士達に伝達してもらう。

 全員息を止めてるかわからないが、何人かが無事ならそれで良い。

 俺は、以前使った魔法を思い出しつつ魔力を練る。



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