第122話 魔物残党討伐戦



 魔物を探査の魔法で捜索、発見した場所に向かって討伐。

 ここ数日繰り返してた事だから、皆慣れてるのか淡々とした作業だ……ヤンさんを除いて。


「初めて見ましたが……探査の魔法……便利な魔法ですね」

「そうですよね、これがあるおかげで魔物達の居場所がわかりますからね。それに数や種類もわかりますから対処も簡単なんです……正直、リクさんといると楽を覚えてしまいそうです」

「ははは、安全な魔物討伐というのは普通では考えられませんからね。ですがマックスさんとしてはモニカさんが安全なのは嬉しい事でしょう」

「父さんはそうなんでしょうけど……これじゃあ私がちゃんとした冒険者として成長出来てるのか不安です……」

「大丈夫ですよ、森の中に入ってから皆さんの動きを見させてもらいましたが、周辺警戒を怠らなかったり、森の歩き方等……しっかりと成長していますよ」


 ヤンさんは俺の探査の魔法を感心しながら頷いている、確かにこの魔法は便利だ。

 視界が遮られている森の中でも、どこに魔物がいるかわかるから探す手間が省ける。

 それにモニカさんの言ってるように種類や数もわかるから、魔物達の所に行く前にどう対処するかも決められるからね。

 ただ、俺が見た事や探査した事の無い魔物はわからない時があるのが欠点かな。

 形はわかるから、何となくどんな魔物かわかるけどどの種類か特定出来なければ対処を考えるのは難しい。

 まぁ、数や場所がわかるだけでも便利なのはかわらないんだけど。

 モニカさんはヤンさんと話しながら歩いて、時折アドバイスのようなものを受けてる。

 俺もそうだが、冒険者になってから時間が経っていないので、ベテランのヤンさんに色々教えてもらう機会は貴重だね。


「フィリーナさん、でしたか。さすがはエルフですね。森歩きに慣れているように見えます」

「森はエルフにとって庭のようなものですから。集落に住むエルフならこの森を案内する事は簡単だと思いますよ」


 ヤンさんは、森の中でも外と変わらないくらい気軽に歩いてるフィリーナさんを見て感心してる様子だ。

 半分森の中に入ってる集落の中で育って、日常で森の中に入るのなら確かにフィリーナの言う通り庭のような感じなのかもしれない。


「ヤンさん、そろそろです」

「わかりました。今回はオーガでしたか?」

「はい。オーガ5体と、オークが2体……ウルフも2匹くらいうろついてますね」

「そうですか。リクさんのおかげで集落の方は平和な様子でしたが、オーガが5体もとなると、本当に魔物が溢れていたんだと実感しますね」


 俺が探査の魔法で調べた魔物の情報をヤンさんに伝える。

 ヤンさんはそれを受けて、冒険者試験の時と同じようにガントレットを装着、もちろん今回はよく切れそうな刃が付いていて実戦に使えるようになってる。

 装着しながら、オーガ5体がいる事に感心してる様子だけど、そういえばオーガってそうそう群れていたりしない魔物だったんだっけ。

 2~3体いるだけでC~Dランクの冒険者パーティで対処する案件になるって聞いた覚えがある。

 今回は5体いるうえにオークやウルフもいるから、本来ならそれだけで討伐依頼が出るだろうね。


「それじゃあ一番手は私が行きますね。久しぶりに全力で行きましょう」

「わかりました。私達はヤンさんに続いて突撃します」

「副ギルドマスターの動き、しっかり勉強させて頂きます」


 ヤンさんがガントレットの装着具合を確かめるように両手を打ち合わせながら、声を掛ける。

 それに対しモニカさんとソフィーさんはいつもの槍と剣を構え、いつでも魔物達に迎えるようにする。


「ユノは今回俺と一緒に留守番だな」

「わかったの」

「私達はもしもの時に備えて、魔法で援護出来るようにしておくわ」

「皆慣れてるだろうから大丈夫だろうが、念のためな」


 剣を抜いて一緒に行こうとしたユノに声を掛けて止める。

 今回はヤンさんに任せるのと、戦闘を見て参考にしたい。

 それに、狭い森の中で今いる場所から見える魔物達も木々の間に点在するから、人数が多くなるとヤンさん達が動きにくくなりそうだしね。

 フィリーナとアルネは何かあった時のために後方から魔法で援護だ。

 本当にもしもの事があようなら俺が魔法で凍らせるけど、皆ならそんな事にはならないと思う。

 ヤンさん以外、ここ数日で皆コンビネーションを取るのに慣れて来てるからね。


「それでは……行きます!」


 ヤンさんは気迫の籠った声と共に前方に向かって飛ぶ。

 木々の隙間を縫っているとは思えない速度で、前方に移動し一番近いオーガに肉薄する。

 オーガはヤンさんに向かって棍棒を持った腕を持ち上げるけど遅い。

 いきなりヤンさんが目の前に出て来たように見えたんだろう、反応の遅れたオーガに構う事無くヤンさんは両手のガントレットを突き出した。

 オーガの心臓を、左手のガントレットから突き出ている刃で突き刺し、それでもまだすぐには動きを止めていないオーガに、留めとばかりに右手のガントレットをオーガの左側の首に突き刺した。

 二箇所を貫かれたオーガは振り上げていた腕を力なく降ろし、力尽きる。


「行きます、はっ!」

「ふっ!」


 俺達に気付いた他の魔物達が動きだすよりも早く、モニカさんとソフィーさんがヤンさんの後ろから前に飛び出す。

 ヤンさんが相手にしたオーガの後ろにいたウルフをモニカさんの槍で一突き、息絶えたウルフを槍を払って横のオークに投げつける。

 ウルフをぶつけられてよろめいたオークは、目にもとまらぬ速度で肉薄したソフィーさんに反応する事も出来ず、心臓を剣で貫かれ、さらにソフィーさんは剣を引き抜いて首を横一線、斬り飛ばす。


「隙を突いた良い攻撃です!」


 モニカさんとソフィーさんの動きを褒めつつ、ヤンさんは突き刺したオーガから離れ、ソフィーさんが切り飛ばしたオークの頭を右手のガントレットで殴りつける。

 オークの頭は木の間をすり抜けて、少し離れた場所にいるオーガの顔に直撃。

 飛び道具になったオークの頭を振り払いつつ、オーガは怒りの形相でヤンさんに向かって行く。


「隙だらけですよ……と」


 怒りによって直線的に突っ込んでくるだけだったオーガの力任せに振り下ろす棍棒を右に体をずらすだけで避け、棍棒を地面に打ち付けて上体を屈ませてるオーガの背中を左手のガントレットで一突き。

 崩れ落ちるオーガに対し、さらに右ガントレットを首の部分に突き刺す。

 完全に止めを刺されたオーガはそのまま地面に倒れ伏し、ヤンさんはガントレットを引き抜いた勢いで右手を横に一閃。

 右側から飛び掛かって来たウルフに拳部分を打ち付ける。


「はっ!」


 ヤンさんの拳に弾き飛ばされた中型犬サイズのウルフを後ろから駆けつけたソフィーさんが剣で胴体を真っ二つに斬る。

 その間に、最初のオーガから左奥にいたオーガの棍棒をモニカさんは槍で受け流す。

 棍棒を流されたオーガはたたらを踏むが、さすがの巨体……足を踏ん張ってモニカさんに向けて棍棒を下から叩きつけようとしている。

 その動きに驚きもせず、冷静に体をずらして避けたモニカさんが、横からオーガの腹に槍を一突き。

 槍が深く突き刺さったオーガは、血を流し痛みに悶えながらも棍棒をモニカさんに叩きつけるべく振り下ろす。

 槍を突き刺したままのモニカさんが避けるには槍を離して逃げるしかないと思った瞬間、不可視の刃がオーガの腕を斬り落とした。


「オーガは見た目通り生命力が強いからね、確実に急所を狙った方がいいわよ!」

「助かったわ、フィリーナ!」


 不可視の刃、風の魔法を放ったフィリーナさんはモニカさんにアドバイスを交えつつ声を掛ける。

 モニカさんはそれに返しながら、腹に突き刺さった槍を引き抜いて再度突きを放つ。

 腕を斬り落とされたオーガは何が起こったのかわからないまま、モニカさんの槍が心臓と思われる位置に突き刺さり息絶える。

 地面に倒れ込むオーガから槍を引き抜いて、モニカさんは一息。

 その間に、残りのオーク1体とオーガ2体をヤンさんとソフィーさんが連携して倒していた。

 アルネも魔法でしっかり援護したみたいだね、フィリーナと同じ不可視の刃でオークやオーガの腕や足を切り落としてるのが見えた。



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