第120話 集落へ来た意外な訪問者
「若い世代が増えて来て、自分たちの立場が危ういと考えたんだろう。だから長老達はリクを抱え込もうとしたんだと思うわ」
「この集落を助け、ドラゴンの契約者であるリクを味方に付ければ自分達の発言力が増すと考えたんだろうな」
「……そんな事のためにリクさんを……」
「自分達の利益しか考えて無いんだな、エルフの長老達は……。フィリーナやアルネ、エヴァルトみたいなエルフばかりだと安心していたが……」
多分、俺をここに留まらせようと考えたのはフィリーナ達の言う通りだと思う。
けど、俺は人間だし、同じ人間であるモニカさんやソフィーさんをないがしろにする長老達の誘いに乗る事は無いね。
ソフィーさんの言うように、フィリーナやアルネは出会った時から人間に対して忌避感は無かった。
この集落に来てからも、エヴァルトさんを始めであったエルフ達は皆俺達を歓迎してくれた。
俺が契約者というのもあるかもしれないけど、モニカさんやソフィーさん、ユノにも普通に接していたからね。
今日まで10日以上、そんなエルフ達に囲まれてたから、集落に来る前フィリーナが言っていた長老達が人間を嫌ってるなんて忘れてた。
嫌な思いはしたけど、俺の近くにはフィリーナやアルネ、エヴァルトさん達がいるんだ、あれだけでエルフが嫌な種族とは思う事は無いだろう。
……人間の中にも嫌な人間がいるしね、それと同じ事だと思う。
「……いい加減、お腹が減ったのだわ」
「……お腹空いたの」
空気を読んでか、今まで黙って俺達の話を聞いていたエルサとユノがお腹が減ったと言い出した。
広場で時間が取られたから、夕食を食べる時間も結構過ぎてしまった。
「ごめんなさい、エルサ様、ユノちゃん。今用意するわね」
「私も手伝うわ」
フィリーナがエルサ達に謝り、そのまま台所に移動する。
それにモニカさんもついて行き、夕食の準備が始まったようだ。
……俺も何か手伝いたいけど、美味しい料理のために自重した。
二人に任せてた方が美味しい物が出来るからね、いつか俺も料理を覚えないとなぁ。
お腹が空いたとうるさいエルサにおやつとしてキューをあげつつ、料理が出来るのを待つ。
途中、集落の若いエルフ数人が食材と作った料理を持って来てくれたおかげで、待つ時間が短縮された。
どうやら、広場での事を聞いて俺達に感謝を伝えたかったらしい。
……俺は誘いを断っただけで感謝されるような事はしてないんだけどなぁ……。
それだけ、長老達が若いエルフ達に嫌われてるのかもしれない。
この集落、政権というか、上の立場に立つ人達が変わるのも近いかもしれないね……。
遅い夕食を食べながらも、会話はやっぱりさっきの広場で会った長老たちの事。
モニカさんとソフィーさんは人間を見下してた事を憤る事もあった。
フィリーナとアルネはモニカさん達に謝りつつも、長老達があっさり俺に断られた事をいつまでも笑っていた。
ユノは何も気にしてない様子……そもそもユノは人間扱いで良いのだろうか……まぁ、見た目は人間の女の子なんだけど。
エルサは長老達なんてどうでも良いとばかりに夕食を食べてた、まぁドラゴンで暢気だからそんな小さい事は気にしないのかもしれないな。
「さて、色々あったけど、明日からも魔物討伐だ。さっさと寝よう」
「エルサはもう寝てるの」
寝る準備も済ませ、部屋に戻ってエルサをドライヤーで乾かした後、ベッドに入る。
いつものようにドライヤー中に寝たエルサを挟みながらユノと一緒に就寝した。
―――――――――――――――――――
翌日からは、また魔物の残党討伐だ。
朝食を食べた後、石の家を出て広場まで行く。
途中、昨日の長老との一件を見ていた、もしくは聞いたエルフ達から朗らかに挨拶をされたのには驚いた。
元々歓迎はされてたけど、昨日の一件からさらに若いエルフ達から信頼を得られたようだ。
……ほんとに嫌われてるんだなぁ、長老達……。
「リクさん、良い所に!」
「エヴァルトさん?」
広場に入った時、集落入り口の方から走って来たエヴァルトさんに声を掛けられる。
今日は何かあっただろうか?
「リクさんに客が来てます。人間ですが……どうします?」
「人間のお客さんですか……? こんな所に来る知り合いはいないと思うんですけど……?」
「リクの事を聞いて長老達のように取り込もうとしてる人かもしれないわね……追い返す?」
エヴァルトさんが俺に声を掛けた用件は、俺を訪ねて来た人がいたからみたいだ。
俺はここまで来るような知り合いに心当たりはなかったけど、フィリーナの言うような人ではないと思う。
この集落は人里から離れた場所にあるから、俺の事が伝わるにしてももっと時間がかかるんじゃないかな。
俺がここに来てから、集落のエルフが人間の街や村に向けて行ったという事も聞いてないしね。
「んー、一応会ってみよう。フィリーナの言うような人間だったらその時は追い返せばいいからね」
「わかったわ」
「それじゃあリクさん、ついて来てくれ」
エヴァルトさんに先導され、俺達は訪ねて来た人に会うため移動する。
集落入り口で待ってるのかと思ったら、広場と入り口の中間くらいの場所に案内された。
どうやらエヴァルトさんが入り口で待たすのが失礼だと考えてここに案内したようだね。
そこは小さな小屋だったけど、中には果物やお茶が用意してあり、十分な広さのテーブルお椅子も数があった。
誰かが集落を訪ねて来た時に対応するための場所なのかもしれない。
「リクさん!」
俺がその小屋に入ると同時、中で待っていた人から名前を呼ばれた。
名前を呼んだ人を見て俺は驚いた、確かに知ってる人だったというのもあるけど、この人がここまで来るとは考えて無かったからね。
「ヤンさん! どうしたんですか、ヘルサルの街で何かあったんですか?」
「ヘルサルの街はリクさんのおかげで平和そのものです。今回の事はマックスさんから聞きました。ヘルサルの街と、冒険者組合を代表して来たんですよ」
小屋の中で待っていたのは、冒険者組合ヘルサル支部の副ギルドマスターであるヤンさんだった。
その他にも、俺達と同じ冒険者が4人、鎧を着込んで兵士と思われる格好をしてるのが5人、ヤンさんも含めて10人だ。
冒険者の方は、ヘルサルの街で見た覚えがある。
防衛戦の準備の時に何回か話したはずだ……名前は忘れたけど……。
……総勢10人と俺達がこの小屋に入ると、ちょっと狭いかな……。
小屋の中が狭いので、冒険者の中から一人、兵士さんの中から一人とヤンさんに残ってもらい、他の人達はアルネに椅子とテーブルを持って来てもらって外で休憩してもらう。
中には俺とモニカさん、フィリーナとエヴァルトさん、ヤンさん達3人が残った。
ユノとソフィーさんは外で待ってる人達と一緒だ。
エルサは相変わらず俺の頭にくっ付いてるけどね。
「それでヤンさん、どうしたんですか? 副ギルドマスターがここまで来るなんて」
「マックスさんから事情を聞きましてね。エルフの集落が危険との事、さすがに我ら冒険者組合も見過ごす事は出来ません。リクさんが先に出発した事で集落が守られるのは確実だとは考えられますが、全てをお任せするわけにもいかないでしょう」
そんなもんなのかな?
この国にとってもこの集落は重要らしいから、そうなのかもしれない。
確か、魔法の価格が高騰したりと国だけでなく冒険者にも影響が出るってマックスさんも言ってたっけ。
でも、俺がこの集落に来た時のエヴァルトさんもそうだったけど、ヤンさんも俺がいるだけで集落が無事だと確信してたみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます