第109話 騒がしい夜の開幕



 俺達がこれからどうするかと話し合っている間に、ユノとエルサは夕食を食べた後満腹になって眠気が来たのか、椅子に座ったまま寝てるユノに抱かれてエルサも寝てる。

 まぁ、こちらは魔物達が襲ってきたら返り討ちにすればいいとしか考えて無い組だから、寝ててくれて良いんだけどね。


「リクさんはどう思う?」

「どうするんだリク」

「リクがいれば魔物達を一斉に討伐するのも楽だろう」

「意見を聞かせて、リク」


 モニカさんを始め、皆から視線を向けられて意見を求められた。

 今まで、話しには加わらず状況を整理してたんだけどな。

 

「えーと、とりあえず確実なのは、減ったように見えない魔物の数でも、確実に洞窟方面に押し込められている、と」

「そうね」

「でも、魔物達はまだ洞窟付近だけじゃなくて、複数で森に散らばっているから、以前程の数では無くとも、また集落を襲われる可能性はある」

「そうだな」


 状況を確認しながら考える。

 さすがにいつまでもこの集落にいられるわけじゃない。

 大分滞在してるから、マックスさんやマリーさん、ルディさんやカテリーネさん達が心配してるかもしれない。

 王都に行く準備もしなきゃいけないしね。

 だからと言って、焦って行動してもいい結果にならないかもしれない。

 ここで俺は最近試していた探査の魔法の事について相談してみる事にした。

  

「……最近……ここ数日なんだけど、探査の魔法を色々試しててさ」

「探査の魔法を? 一体何をしていたの?」


 森に入る前から、森を出るまでずっと探査の魔法を発動し続けていた。

 魔力が大量にあるから出来る事だというのは当然だけど、イメージを保ったまま行動というのがいかに大変かを実感出来た。

 まぁ、試したいのはそんな事じゃないんだけどね。


「探査の魔法が一体どれだけの範囲を探れるかを試してたんだ」

「あれ以上広がるの? 今まででも十分な広さなのに……」


 俺の魔法に興味があるのか、フィリーナが身を乗り出して聞いて来る。

 確かに今までの範囲でも十分だった。

 だけど、森全てを把握する事は出来なかったんだ。

 大体……半分くらいかな……だから集落からは洞窟程距離が離れてしまうと何もわからなかった。


「色々イメージを試してさ、多分今なら広場から洞窟までの距離を探れると思う」

「そんな距離まで……」


 フィリーナを始め、皆探査の範囲に驚いているようだ。

 俺はこの探査の魔法イメージを色々試して範囲を広げられないか考えた。

 結局、一番やりやすくて範囲が広がったのは最初にイメージした魔力を水として、波紋が広がるというイメージだ。

 そのイメージをしっかり固める事で、範囲を広げる事が出来た。


「それで明日、洞窟までの魔物達を調べてみようと思うんだ。一斉討伐をするかしないかはそれから決めるという事で良いと思う」

「そうか……リクの探査ならかなり詳細な情報が得られるな」

「それなら、魔物達がどう動こうとしてるのかもわかりそうね」

「そうね。どうするかはそれからでも遅くないわね」

「リクの魔法頼みというのがいつもになってしまっているが、頼りになるからな」


 皆は俺の意見に納得してくれたようだ。

 明日は広場で探査魔法で魔物達の詳細を調べよう。

 話が纏まり、全ては明日の俺が使う探査から得られる情報次第となって、ユノとエルサを起こしてその場は解散となった。

 いつものように風呂あがりの女性陣にドライヤーもどきの魔法を使って髪を乾かした後、俺はエルサと一緒に風呂に入ってエルサのモフモフを手入れして、ユノと俺でエルサを挟んで寝た。

 エルサのモフモフを撫でながら寝ると気持ち良く寝られるんだよね。

 ユノもそうなのか、寝ながらもエルサの毛を撫でていた。


――――――――――――――――――――


 翌朝……とも言えないまだ寝始めてすぐくらいの頃、以前にも一度聞いた鐘の音が集落に響き渡った。

 その音で起こされた俺とユノ、エルサはまた前のようにフィリーナとモニカさんに呼びかけられた後、石の家の玄関前に集まった。

 まだ眠そうなソフィーさんはモニカさんに引きずられて、アルネは俺達より早く準備を済ませ、皆いつでも戦闘出来る構えだ。

 ……ソフィーさんだけ、ちょっと不安だけど……。


「また魔物の襲撃か……数は減らしたはずなんだがな……」

「もしかすると、魔物達が自分たちがやられる前にって事かもしれないわね」

「何にしても、前と同じように討伐するだけだわ」

「……リク、以前のように……エルサに乗って……後ろを突くか?」


 アルネは眉間に皺を寄せ、フィリーナとモニカさんは気軽に、ソフィーさんだけは眠そうに問いかけて来る。


「ひとまず外に出よう。まずは状況を把握しないと」

「そうね」


 魔物達の侵攻経路はウッドイーターを残す事で限定したから今回も西の入り口からだとは思うけど、一応確かめておかないといけない。

 エルサに乗って空から確かめるのも手だけど、それをするにもまずは外に出ないとエルサが大きくなれないからね。

 俺達が外に出ると、以前と同じように集落のエルフが俺達の所へ走り込んできた。

 良いタイミングだね。


「リク様、皆さん。また魔物の襲撃です! ……ですが」

「ん? どうしたの、何かあったの?」


 走り込んできたエルフが魔物の襲撃を伝えた後に言い淀んだ。

 それに気付いたフィリーナがそのエルフに近付き問いただす。


「今回の魔物達が今までの魔物達と違うんだ」

「今までと違う……? オーガやオークじゃないの?」

「あれを見てくれ」


 そのエルフはフィリーナの疑問に、集落入り口の方を指さす事で応えた。

 俺達が指を指された場所、集落の入り口を見ると、その方向……さすがに家があるのでその場所が見えるわけじゃないけど、入り口がある場所の上空が赤く光るのが見えた。


「あれは……火? まさか!?」

「ええ、ゴーストが大量に集まっている。一応、柵に掛けてある氷の魔法のおかげで、集落内まで火は付いていないが……このままだと……」

「わかった、すぐに向かうよ!」

「お願いします」


 俺がエルフにそう伝えると、まだ他に伝達する場所があるのか、来た道とは別の道を走って行った。

 ゴーストか……火の魔法を使うから危険なのは把握してたけど、まさか数を減らしてもまだ大量に攻めて来るなんて……。


「リク、これは以前のように後ろからとはいかないわね」

「そうだな。入り口付近はエルフ達が集まってるだろうし……」


 エルフ達がいるからエルサで飛んで行っても降りる場所があるかどうかわからない。


「フィリーナ、アルネ、案内してくれ。走って行こう。エルサだと降りられる場所があるかわからない」

「そうね」

「わかった」


 俺はアルネとフィリーナに声を掛けて走り出す。

 二人は俺達の先頭を走ってもらい、複雑な道の案内。

 モニカさんは眠そうなソフィーさんの手を持って後ろを走って追いかけて来る。

 ユノは俺の隣で一緒に走ってるが、こういう時しっかり起きれるユノは偉いな。

 エルサなんて、俺の頭にくっ付いてまた寝なおしてるからな……。

 今回は走って駆けつけるため、以前より時間がかかるけど、それでも早く辿り着いてエルフや集落に出る被害が少なるように願いながら走った。

 ぜも、全力では走れないのはもどかしい……全力だとフィリーナやアルネを置いて行く事になるからね。

 そうしたらまだ道を覚えていない俺は確実に道に迷ってしまうからね……。



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