第110話 エルフの集落防衛戦
「エヴァルトさん!」
「おお、リクさん!」
「エヴァルト、状況は?」
俺達が入り口に駆けつけた時、エルフ達が集落の外に向かって一斉に風の魔法を放つ瞬間だった。
風が吹き荒れ、魔物達の先頭にいたオーガやオーク達が拭き飛んで行くのが見える。
魔法を放った集団の後ろで指揮をしていたエヴァルトさんに声を掛ける。
アルネも状況はどうなってるのかを聞いている。
「対策を打っておいたおかげで、まだ集落に大きな被害は無い。まぁ、付近の家が幾つか燃えちまったが水を大量に用意しておいたおかげですぐに消火出来た。エルフ達の方も、軽い火傷を負ったくらいだ」
「そうか……オーガやオーク達は?」
「まだ魔法で押し止めて侵入はさせて無い。だが……このままゴースト達からの火の魔法が続けばまずいだろうな……この辺りの家は襲撃を予想して皆避難しているが、奥の家まで燃えると被害が大きくなるかもしれん」
アルネとエヴァルトさんが離してるのを聞きながら、状況を確認する。
集落を囲んでるはずの柵はここから見える範囲ではほぼ燃えていて見る影もない。
家の方は、焦げた後がいくつか見られるけど消火が早かったのかそれ以上燃えてはいない。
でもこれ以上火の魔法が撃たれたらエヴァルトさんの言う通りまずいかもしれない。
今はすぐに消火されて何とかなっているけど、繰り返し火の手が上がれば魔物を押し止めてるエルフ達が手薄になるだろうから、その隙にオーガ達が押し寄せて対処しきれなくなるのも時間の問題かもしれないからね。
「加勢するぞ」
「頼む」
「俺も行きます」
「リクさんがいるなら心強い! ありがとうございます」
「今はお礼を言ってる場合じゃないわ。エヴァルト、どう動けばいい?」
防衛にあたってるエルフ達を指揮しているのはエヴァルトさんだ、途中から来た俺達よりも状況を把握してるだろう。
どう動くか指示を求めたフィリーナの言う通り、ここはエヴァルトさんに聞いた方が良いだろうね。
がむしゃらに魔物達に突っ込んで、後ろから放たれるエルフ達の魔法に巻き込まれたちゃいけないから。
「そうだな……リクさん達はエルフ達の前に。アルネとフィリーナは魔法で援護だ、皆に混じってくれ。それと、俺からも伝えるが、アルネ達からもリクさん達に魔法を当てないよう気を付けるように言ってくれ!」
「わかった」
「わかったわ」
エヴァルトさんの言葉で皆動き出す。
……指揮を任せたのは良いけど、魔法を受けないような動きを指示するんじゃなくて、当てないようにみんなに伝える方にしたんだね……。
まぁ、そっちの方が手っ取り早いのかもしれないけど。
俺は剣を抜きながらエヴァルトさんの指示通り、モニカさん、ソフィーさん、ユノを連れてエルフ達の集団より少し前へ。
魔法攻撃の合間を縫って突撃して来たオーガを出会いがしらに切り伏せる。
「ゴーストは俺が相手をするから、皆はオーガやオークをエルフ達に近付けないように戦ってくれ」
「わかったわ」
「うむ」
「皆を守るのー」
皆の返事を聞いてる間も無く、切り伏せたオーガの後ろからゴーストが魔法を撃って来た。
単体なら何てこと無いな。
「フリーズランス」
氷の槍でゴーストの撃って来た火の魔法を消火しながら突き進み、ゴーストを貫いてさらに後ろの魔物達を数匹巻き込む。
ゴーストならこれで良さそうだな。
幸い、今回は俺達の前に味方がいない。
氷の槍を突き抜けさせても被害が出る事は無いからね。
「リクさん!」
少し離れた場所でオークの槍を振り払って自分の槍を突き刺しながらモニカさんが叫んで俺を呼ぶ。
どうしたのかと見てみると、モニカさんは集落の外を槍から片手を話して示していた。
そちらを見ると、複数……20以上はいると思われるゴーストの集団が集まり、魔法を放つ直前だった。
「エヴァルトさん、火の魔法が来ます! 防御を!」
俺の声が聞こえたかわからないけど、エルフ達の集団には確実に聞こえるように叫んだ。
何人かが気付けば不意打ちで撃たれるよりマシだろう。
俺の声が響くと同時、ゴースト達が火の球を発射する。
その火の球は、誰かを狙ってるわけじゃなく無差別に撃たれたようで、あちこちに飛んで行く。
これじゃ全部を氷で叩き落す事も出来ない。
なるべく被害を減らそうと、氷の槍を撃つには撃ったけどやはり槍だと数個の火を消すくらいしかできない。
もう少し、広い範囲……盾のように広い範囲でカバー出来る氷の魔法を考えておけば良かった。
フリージングの方は、地面を伝って足元を凍らせる魔法イメージだから、空中を飛んで来る火の魔法には使えないしな……。
「大丈夫ですか!?」
なおも襲って来るオークを切り伏せながら、後ろにいるエルフ達に声を掛ける。
火の魔法はあちこちに当たり、いくつかの家が燃え始めるのが見えた。
「こっちは何とか大丈夫よ! 今の魔法で怪我をしたエルフはいないわ! ただ、家が燃え始めたから数人消火作業にあたらせるわ。そっちは何とか持たせて!」
「わかった!」
後ろのエルフ達の中から、フィリーナの声が聞こえて来た。
何人かが家の消火に行くようだ、多分消火が完了するまで後ろから魔法で魔物達を押し止める援護は減るんだろう。
だったら、ここは俺達が頑張るしかないね。
「フリーズランス……フリージング!」
氷の槍でソフィーさんに近付こうとしていたゴーストを貫きながら集落の外、俺の前方に凍らせる魔法を放つ。
最前線の魔物達が広範囲で足元を凍らされ、後ろの魔物達がつっかえてる状態になった。
これは結構使えるな……でも問題はゴーストだけど……。
「ゴーストは?」
俺は足を止め、足が凍って二の足を踏んだようになってるコボルトを2体一緒に切りながら辺りを見渡す。
ゴーストは魔物達の後ろから、空に浮かんで頭を追い越すようにしながら大量に前に出て来た。
よし、残りのゴーストがどれだけいるかわからないけど、これを全部倒せば少しは魔法攻撃も緩むだろう。
「フリーズランス!」
少しだけ多めに魔力を込めつつ、乱雑に氷の槍を放つ。
俺の魔法が発動し、ゴーストに撃ち出される寸前、前に出て来る時点で既に準備を終えていたのか、ゴースト達が一斉に火の球を目の前に出す。
「しまった! モニカさん、ソフィーさん、ユノ、火の球が来る!」
皆に声を掛けながら俺は氷の槍をゴーストに向かって撃ち出す。
いくつかの槍は火の球を消しながら、ゴーストを貫いたけど、8割以上の火の球が撃たれるのを防げなかった。
「これくらいなら!」
「避けるだけならなんとかな」
「大丈夫なのー」
モニカさんはステップを踏むように飛来する火の球を避け、ソフィーさんは飛び跳ねて避けてる。
ユノに至っては、いくつか避けながらも盾で火の球を叩き落したりもしてる。
……熱くないのかなユノ……。
皆の様子を見ながらも、片手間に足が凍って動けないオーガを切りながら、他の場所の様子を窺う。
さっきと同じようにゴーストの火の球は無差別に集落へ向かって撃たれた。
最初に火の魔法を撃ったゴーストも合流しての攻撃だから、結構な数だったはずだ。
氷の槍で減らしたとっても、被害は確実に出るはずだ。
「フリーズランス……フリーズランス」
飛来する火の球めがけて、氷の槍を撃ち続ける。
少しでも集落に当たる数を減らさないと!
目の前で動けなくてもがいてるウルフを片手間に斬りつけながらも魔法を放つ。
でもやっぱり氷の槍だと効率が悪い。
もっと広範囲をとも思うけど、今はそれを考えてる暇も実践する余裕も無い。
無い物ねだりをしても仕方ないから今は、出来るだけの事をするしかない。
火の球は放物線を描くように飛来して、速度は速くないから、燃えそうな家に当たる前に出来るだけ撃ち落とす!
「フリーズランス……フリーズランス……」
「くっ……オーガ達が……」
火の球を避けていたソフィーさんから声が上がる。
そちらを見てみると、足元を凍らされて動けなくなっている魔物達を押し除けてオーガやオークが前に出てこようとしていた。
後ろのエルフ達は放たれた火の球の対処で押し寄せる魔物達に対処は出来ないだろう。
ここは俺達が何とかするしかない。
ここで引いたら集落になだれ込まれるからな。
尚も氷の槍で火の球を消しながら、押し寄せようとする魔物達を剣を振って切り続ける。
「きゃあ!」
その時、後ろのエルフ達がいるところで女性の悲鳴が上がった。
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