第106話 初めて見る魔物



「さて、それじゃあまずは凍らせますか」

「頼む」

「よろしくね」


 俺は頭の上でまだ寝ているエルサがずり落ちないか確認した後、魔法のイメージを始める。

 いつも使ってる凍らせる魔法に、多めに魔力を込めて、それをさらに練る。


「……しかし、ここまではっきり魔力が見えるのは他では見た事ないな……青色……氷だからか」

「私もよ。人間でもたまにうっすらと魔力が見えるような人もいるけど、ここまではっきり見える人は他にいないんじゃないかしら」

「エルフでもここまではいないな。人間より魔力量が多いから、多少は見えやすいが……ほとんどが透明で色なんて付いていない」


 エルフでもそうなのか……魔力量が多いと言ってもどれだけ人間と差があるのかはわからない。

 けど、それでも色が付くような事が無いのかぁ……機会があったら魔力を練るって事を教えてみようかな?

 知ってるかもしれないし、魔力を練るにはやっぱり大量の魔力が必要だからエルフに出来るかはわからないけどね。


「んじゃ、そろそろ行くよ」

「わかった」

「ええ」


 俺が魔法で魔物達を凍らせたら、突撃して魔物達を蹴散らすつもりなのだろう、アルネとモニカさんは臨戦態勢に入った。

 アルネは細身の剣を持ってるけど、それは向こうから近付いて来た時の自衛用で、戦うのは魔法でだ。

 モニカさんの方はいつものように槍を構えている。

 二人共準備は良いみたいだ、魔法を使ったら俺も突撃だ。


「……フリージング!」


 ガラスにひびが入るような澄んだ音が森の中に響き渡り、数秒後、魔物達が足元から凍り始める。

 やっぱり範囲を限定するのは難しかった……周りの木も下半分くらいが凍ってる……こっちは放っておいても解けるかな、多分……。


「カッター!」


 アルネの声と共に、発動する風の魔法。

 空気が揺らぎが高速で移動し、腰まで凍ったコボルトの胴体が切断される。

 ウッドイーターの時もそうだったけど、そこらの剣より切れ味が良さそうだ。


「はぁっ!」


 アルネの魔法が発動すると同時に俺の横から飛び出したモニカさんが、槍を払ってオークの首を切る。

 膝まで凍っていたオークは何も出来ずに首を飛ばされた。

 おっと、俺も遅れちゃいけないな。

 モニカさんに続いて俺も剣を抜きながら魔物達に肉薄。


「ふっ」


 呼気と共に剣を振ると、オーガとその後ろにいたウルフが半分になる。

 そのまま、俺とモニカさんは足や腰、胸部分まで凍って身動きが出来ない魔物達を切り倒して行く。

 アルネは後ろから風の魔法で援護だ。

 俺達が近づいた事で、反撃しようとする魔物達だけど足が凍っていて動けないため、ほとんどがその場でもがくだけだ。

 稀に俺の魔法から逃れる事が出来たオーガやオークが俺達に近付いて来て得物を振り上げるが、その度に援護してくれるアルネの魔法で腕を切り飛ばされていた。

 ほとんどが凍ってるし、たまに動いててもアルネの魔法があるから、防御を考えずにひたすら切るだけって楽でいいなぁ。

 作業感があるけどね。


「リクさん、変な魔物がいるわ! 気を付けて!」


 魔物を遠慮なく切っていると、俺から少し離れた所で槍を振っていたモニカさんから叫び声が上がった。

 どうしたのかと、目の前のオーガを切り倒しつつそちらを見ると、モニカさんの前に見た事の無い魔物がいた。


「ゴーストか!?」


 ゴーストって言うのか……見た目は白い煙のような塊で、一部に空洞になっておくが黒い所がある。

 もしかして、あれが目と口何だろうか……。

 ゴーストはモニカさんの前以外にも、複数いるのがわかった。

 白い煙の体と思われる部分は不定形で、人間の形をしてるようなのもいれば、丸いだけのもいる。


「ゴーストは魔法を使うぞ! それと、剣や槍では倒せない! カッター!」


 地球で言う、幽霊みたいなものなのかな……物理攻撃が効かないってやつ。

 モニカさんの前にいるゴーストは、アルネが俺達に忠告をしつつ、魔法で倒してくれた。

 アルネの魔法に切り裂かれ、空気中に霧散して消えた。

 魔法には弱いのかな、今のを見ると。


「モニカさん、下がって。ゴーストは俺とアルネが相手をするから」

「わかったわ!」


 モニカさんはまだ十分に魔法が使えない、しかも戦闘中に槍を振りながら魔法を使うのはもっと不慣れだろう。

 俺とアルネがゴーストに集中して、モニカさんには他の凍ってる魔物達を相手にしてもらおう。


「kisiiii!」


 耳障りな声のような音と共に、ゴーストが数体こちらを向いた。

 空洞になってる部分が赤く光ってる……魔法か!

 光ってる空洞部分から、2、3センチくらいの火の球を出して俺に向かって撃ち出して来た。


「っ!」


 横に飛んで避けた俺は、後ろから何かが溶ける音がして振り向いた。

 ゴースト達が放った火の球がそれぞれ俺が凍らせてしまった木に当たって、表面の氷を少しだけ溶かした音だったようだ。

 威力は小さいから、一つや二つ当たっても火傷くらいだろうけど、集中して当たったら危険だ。

 それに。


「火事になったらどうするんだ!」


 わざわざ森の木に燃え移ったりしないよう、火の魔法を避けて氷を使ってるってのに、ゴーストは全くそれを気にする様子は無い。

 俺は叫びと一緒に、今朝思い付きで試したフリーズランス……氷を槍のようにして撃ち出す魔法をそれぞれのゴーストに向かって放った。

 ゴースト達は、自由に動けるみたいだけど動きは遅い。

 俺の魔法は避けられること無く、全てのゴーストを貫いた。

 あ、ゴーストの後ろにいたサマナースケルトンが2体程巻き添えで貫かれた。

 一石二鳥、かな。


「……ゴーストを一瞬で全て倒す複数の魔法同時発動とはな……リクに任せてれば全て楽に進むなぁ」

「これで槍が効かない相手はいなくなったわ。ありがとう、リクさん」

「まだまだ魔物達はいるから油断しちゃだめだ」


 アルネがやれやれといった雰囲気を出してるけど、俺、魔法の複数発動なんてやってないんだけどね。

 氷の槍を複数撃ち出す魔法のイメージで、それぞれ別方向に向かって撃ち出すようにしただけだ。

 結果、魔法は一回しか発動していない。

 アルネの魔法の知識ではもしかしたら複数の魔法を使わないと出来ない事なのかもしれない。

 ……俺はイメージで全部やれちゃうからなぁ……今更ながらに、これって反則みたいなものなのかもしれないなぁ……。

 俺はモニカさんに油断しないよう言いつつ、それからも剣を振るって切り倒し、魔法の氷で貫くという作業を繰り返した。


「これで……最後!」


 魔物達に突撃してしばらく、ようやく最後の1体を切り倒す。

 最後はサマナースケルトンだったけど、足を凍らせたままこちらに左手を向けて魔力を集中してた。

 悪あがきとばかりに別の魔物を召喚しようとしたんだろう。

 でも、それを待つ義理も何もない。

 俺は左手を差し向けたままのサマナースケルトンの頭蓋骨を剣で切り、骨がバラバラになって地面に散らばった。

 ……最後まで持ってる杖を使わなかったな……何で持ってるんだろう……ファッション?


「お疲れ様、リクさん」

「お疲れ、モニカさん、アルネ」

「お疲れさん」


 俺達はサマナースケルトンの前に集まって互いに労い合う。

 ほとんどが俺の魔法で身動きが取れなくなっていたと言っても、動ける魔物はいるにはいたし、中には腕だけで獲物を振り回して来るのもいた。

 動きが単調だから、俺もモニカさんも軽々避けて攻撃してたけど、数も相俟って時間も掛かって少し疲れた。


「魔物の死骸は焼き払うとするか……埋めるにしても数が多いからな」

「そうだな」



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