第107話 ゴーストの使う火の魔法を警戒



 俺とアルネで手分けをして、そこらに転がってる魔物達の死骸を魔法で焼いて行く。

 このままにしてたら腐って色々と問題が起きるからね。

 幸い、俺が使った氷の魔法で周囲の木は下半分が凍ってたから、燃え移る心配はほとんど無い。

 一応威力が強すぎないように注意して魔法を使ったけど。

 モニカさんは、ウッドイーターに引き抜かれた跡がある、えぐれた地面をさらに掘って、そこにサマナースケルトンの骨や、焼いた後の魔物達から出た骨を埋める作業をしていた。


「ふぁー、終わったのだわ? それじゃあそろそろ帰るのだわー。お腹が空いたのだわー」


 戦闘中すらも構わず寝ていたエルサが起きて、お腹が空いたと言い始める。


「まったく、お前は暢気だな」

「まぁ、エルサちゃんが戦わないといけない事態になったらそれこそ危険な時よ」

「そうだな。ドラゴンが出ないといけないような事は起きて欲しくないからな。エルサ様は寝てもらっていた方が良いだろう」


 エルサが暴れるような事態とか、この森が全て魔物で埋め尽くされるような状況になってるんじゃないかな?

 確かに、エルサにはこのまま寝ていてもらった方がいいな。

 大きくなって暴れたら森の木だって無事じゃ済まないだろうしね。


「そんな事より、お腹が空いたのだわ。早くキューを食べさせるのだわー」

「はいはい。それじゃ、集落に帰るか」

「ええ」

「ああ」


 キューを出せと騒ぎ出したエルサを宥めつつ、俺達は魔物達の処理を終えて集落へ向かった。

 そう言えば、別行動にしてたソフィーさんやフィリーナ、ユノは大丈夫だろうか?

 あっちは俺の探査で調べた限り魔物の数は少ないはずだ。

 もしかしたら、俺達より早くサマナースケルトンを倒して、今頃集落に帰ってるかもね。


「それにしても、ゴーストまでいるとはな……今まで確認はされてなかったんだが……」


 アルネが眉間に皺を寄せながら呟いた。

 確かに今朝の魔物達の襲撃でもゴーストなんていなかった。

 初めて見る魔物だったから最初は少し戸惑ったけど、強い魔物でも無かったし魔法で楽に倒せた。

 あれくらいなら問題にはならないと思う。


「ゴーストは魔法を使うからな、しかもこちらからの剣や槍が効かない」

「そうね。私はまだ槍くらいしか戦闘で使えないから、厄介な相手だわ」

「そんなに厄介なのか? 俺の魔法で簡単に倒せたけど」


 氷の槍を使ったらすぐ倒せた。

 しかも、貫いた後別の魔物も巻き込んで一石二鳥だったしね。


「リクの魔法はな……一度に複数を倒すなんて普通出来ないぞ」

「リクさんの魔法や強さを基準で考えると色々危険ね」


 そうなのかな……。

 まぁ、俺は複数の氷の槍を作ってそれぞれゴーストに撃ち出したからね。

 俺以外でそんな事を魔法でしてる人を見た事無いから、本来出来ない事なのかもしれない。

 そんなに多くの魔法を見て来たわけじゃないけども。


「ゴーストはな、先程も撃って来たが火の魔法が得意なんだ。しかも、数が集まると一斉に撃って来る」

「リクさんに撃ってたのを見たけど、一つ一つはそんなに強い威力では無かったわね」

「確かに、一発くらいなら火傷を負うくらいだと思ったね」


 全部一度に当たったらそれなりに危険だろうけど、一発くらいならちょっと火傷を負うくらいだと思う。

 戦闘中に火傷を負うだけでも、その後の戦いが辛くなるだろうけどね。


「確かに一発程度なら問題も無いんだがな。数が揃うとな……ここは森の中だ、しかも集落の建物はほぼ木で造られてる」

「あ……そうか……直接は低い威力でも、木に燃え移ったら……」

「成る程……森や集落が火事になったら被害が大きくなる、か」


 俺が魔法を使う時、気を付けていた事でもある。

 氷の魔法とかなら良いかもしれないけど、火の魔法で効果を大きくし過ぎたら木に燃え移って大変な事になるだろうから。


「少し程度なら消火は出来るだろうが、魔物達と戦ってる時に火事が発生するとまともに戦えないだろう」

「そうね……消火に人が取られたらそれだけで戦力が下がるし、放っておけばどんどん火が広がって行く……」

「そうだ」


 モニカさんの言葉に頷くアルネ。

 アルネの言う通り、魔物達と戦ってる時に火事が起きると厄介だね……。


「まぁしかし、今回それなりの数のゴーストを倒せたしな。それにサマナースケルトンも数を減らす事が出来た。放っておけばまた増えるだろうが、しばらくは安心だ」

「今回ゴーストがいて逆に良かったって事かな」

「そうね。……私はゴーストを相手に出来なかったけど、サマナースケルトンが少なくなったのなら魔物達が増える速度も遅くなったはずだしね」


 俺達はそんな話をしながら、集落へと帰路を急いだ。

 帰ったら、エヴァルトさんにゴーストの事を報告しないとな。

 数が減ったと言っても、まだいるかもしれない。

 襲って来た時、対策を考えておかないともしもの事があるかもしれないからな。

 少しだけ早めに歩いて、集落へと到着する。

 エルサがキューを要求するのがうるさかったせいもあって、歩く速度を早くしたおかげで、完全に暗くなる頃には帰り着けた。

 今回は集落の西側入り口からではなく、森から集落に入って広場に出た。

 途中通りがかる時に見たツリーハウスは、木の幹が太く中は快適な生活空間がありそうだったなぁ。

 家が一本の木で出来ているってのも、結構憧れるよね。

 広場に着いた後は、その場にいるエルフ達と挨拶を交わしつつ、アルネの案内で石造りの家へと帰った。

 まだあの複雑な道は覚えきれていない。

 ……この集落にいる間に覚える事が出来るんだろうか……自信はないな……。


「あぁ、リク。おかえり」

「おかえりリク」

「おかえりなの」

「ただいま。そっちの方が先に帰ってたんだね」


 石の家に入ると、中ではフィリーナやソフィーさん、ユノがエヴァルトさんと一緒に待っていた。

 皆、怪我も無いようで安心した。

 まぁユノがいればそうそう危ない事は無いだろうけどね。

 皆に挨拶をしつつ、エヴァルトさんに森での事を報告。

 フィリーナ達の方は一足先に帰った事もあって、先に報告を済ませてたようだ。


「そうですか……フィリーナ達からも聞きましたが、そんな理由で魔物達が西から襲って来たんですね……」

「はい。ウッドイーターを避けるためなのは間違いないと思います。オーガやオーク達と一緒にいるウッドイーターはいませんでしたし、俺達が見たのはオーガがウッドイーターを棍棒で殴りつけて反撃されるところでした」

「成る程……ウッドイーターは近づいたらオーガよりもよっぽど怖い魔物ですからな。魔物達の数を減らさないためにも、ウッドイーターを避けて西に移動したのでしょうな」


 魔物達が西から来る事の原因がわかった。

 これで西側に戦力を置いておけば、防衛も少しは楽になるだろう。

 まったく警戒しなくても良いというわけではないけど、森側と一緒に常に警戒しているよりはマシなはずだ。


「しかし……ゴーストですか……厄介な魔物ですね」


 アルネと同じように眉間に皺を寄せ、悩むように言う。

 やっぱり、森の木や集落が燃える事を懸念してるんだろうね。


「一応、今回見かけたゴーストは全て倒しておきましたから、数は減ってると思います」

「……何体くらいいたのですか?」

「えっと……」

「30体くらいだな」


 俺が数を数えて無くて言い淀んでいると、フォローするようにアルネが答えてくれた。

 アルネ……あの状況で数えてたのか……?


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