第96話 魔物達の夜襲



 ……遠くから鐘の鳴る音が聞こえる……。


「ん……?」

「……うるさいのだわ」

「……んー……どうしたのー?」


 俺とユノ、エルサが寝ている部屋の外から鐘の音が鳴り響いてる。

 いや、これは家の外だな。

 俺は目を開いて窓の外を見る。

 エルフは家を建築する技術は学んでも、ガラス等の事はまだなのか、窓は木の板を嵌めてあるだけだ。

 けど、風通しを良くするために、半分ほどその木の板を開けて寝ていたんだけど、そこから外が見える。

 まだ外は暗かった。

 多分……まだ日が昇る前なんだろう。

 その間も、響き続ける鐘の音に、エルサとユノが起き上がる。


「一体何なのだわ? うるさくて眠れないのだわ」

「何なのー?」

「この音はどうしたんだろうな……?」


 ずっと鳴り響いてる鐘の音、耳を澄ましてみると、その音に混じって人の声のようなものも聞こえて来た。


「……エルサ、ユノ、何か聞こえないか?」

「何なのだわ?」

「んー?」


 エルサもユノも俺が言うと外の音を聞こうとして耳を澄ました。

 遠くから叫び声のような……それと、誰かが叫ぶ声が近づいて来る……。


「わかったのだわ」

「エルサ、何があったんだ?」


 エルサは俺達より耳が良い。

 フィリーナやアルネの叫び声も俺達より先に気付いたくらいだ。

 俺がある程度声が聞こえるくらいなら、なんて言ってるかわかるんだろう。


「……魔物が襲って来てるらしいのだわ。多分、この鐘の音はそれを知らせるためなのだわ」

「魔物だって!?」

「魔物ー?」


 まだ夜も明けて無いこんな時間に魔物が来るなんて!

 まぁ、魔物には朝も夜も関係無いのかもしれないが……。

 皆が寝静まった時間に襲って来るなんて。


「緊急事態じゃないか! 急いで皆を起こさないと!」


 そう思って俺がベッドから起き上がり、壁に立てかけてあった剣を持って部屋を出ようとした時、外から扉を激しくノックされる。


「リクさん、魔物が来たらしいの!」

「リク、この鐘は魔物が襲って来た事を知らせる音よ! 早く起きて!」


 ノックと言うには控えめなそれは、ドアを外から激しく叩いてるようだった。

 ……この声は、モニカさんとフィリーナだな。

 フィリーナはこのエルフの集落に住んでるから、鐘の音が何を意味すしてるのかすぐにわかったようだ。


「起きてるよ! すぐに出るから他の皆を集めて!」

「わかったわ」

「早く来てね!」


 俺がドアの外に向かって叫ぶと、二人共了承して、他の部屋へ行ったようだ。

 アルネかソフィーさんを起こしに行ったのかもしれない。


「ユノ、エルサ、戦える準備をして急ごう!」

「まだ眠いのだわ。けど、仕方ないのだわ」

「わかったのー!」


 エルサは、眠そうな眼をしながら俺の頭にコネクト。

 ……いつもの場所だな、お前には戦闘の準備は必要なかったか……。

 ユノは俺の言葉にすぐ返事をして、置いてあった剣と盾を持った。

 マックスさんからもらった装備だ、しっかり使ってもらおう。


「出来たのー」

「よし、行くぞ」


 俺達は部屋を飛び出し、石の家の玄関まで走った。

 玄関では、アルネが細い剣を抜き身のまま手に持って待っていた。

 アルネは起きてたんだな、まぁフィリーナと同じくこの集落に住んでるんだから鐘の音が何を知らせてるのかわかるか。

 という事は、モニカさんとフィリーナはソフィーさんを起こしに行ったんだな。


「アルネ、魔物が来たんだろう!?」

「そうみたいだ。フィリーナはどうした?」

「他の人を集めてって言ったから、多分ソフィーさんを起こしに行ったんじゃないかな」

「そうか」


 アルネはそう答えたまま、玄関の外を睨む。

 魔物が集落に襲って来てるんだ、待つ時間も惜しいんだろう。

 焦る気持ちはわかるけど一人で向かうのは危険だ、ここは少しだけ我慢してもらおう。


「お待たせ!」

「準備出来てるわよ、いつでも出られるわ!」

「こんな時間に魔物とはな」

「皆揃ったな」

「では行くぞ!」


 モニカさんとフィリーナがソフィーさんの腕を掴んで駆け込んで来る。

 それを見たアルネは勢いよく玄関を開け、外に向かって駆けだした。

 俺達も遅れないように続かないと!


「リク様!」


 俺達が外に出ると、アルネが他のエルフと一緒に立っていた。


「リク様、魔物が集落の入り口より殺到しています。どうかご助力を!」

「リク、どうやらこいつは魔物の襲撃を知らせに来たようだ」


 入口からか……。


「魔物は集落に入り込んでいますか?」

「いえ、今はまだエヴァルトが指揮するエルフ達で食い止めています。ですが……数が多すぎて……」


 入口を突破されるのも時間の問題なのか……。


「わかりました。すぐに集落入り口に向かいます」

「お願いします!」


 そう言って、そのエルフは先に来た道を走って行った。


「戦えないエルフ達を避難させに行ったか」


 アルネが呟く。


「とりあえず、入り口に向かおう」

「ええ」

「わかった」

「わかったの」


 俺は皆に声を掛け、走って行こうとした時、フィリーナが声を上げた。


「リク、入り口まではここからだと遠いわ。間に合わないかもしれない!」


 フィリーナの言う通り、ここから入り口まで走って行っても結構な時間がかかる。

 集落の中は複雑な道で、まだ道順すら覚えていない。

 かと言って、ここでこのままどうするか考える時間も無い……。


「……どうする、フィリーナ」

「……エルサ様にお願いできないかしら? 飛んで行けば入り口まですぐでしょ?」

「そうだった。……エルサ、頼めるか?」

「リクの頼みなら仕方ないのだわ」


 そう言ってエルサは俺の頭から離れてすぐに大きくなる。

 石造りの家の前は少しだけ家と家に距離があって、ギリギリエルサが大きくなれる。

 ちょっと動こうとすると家に当たってしまいそうだが。


「頼むエルサ。皆、エルサに乗って!」

「わかったわ」

「わかった」

「ええ」

「助かる」

「エルサに乗るのー!」


 俺達は急いでエルサの背中に乗り、そのモフモフに包まれるが、今はモフモフを堪能してる暇は無い。

 エルサは俺達が乗った後すぐに真っ直ぐ浮き上がり、数メートルで上昇を辞めて入り口に向かって飛び始めた。

 ……エルサで飛んで障害物を無視できるなら……。


「フィリーナ、アルネ。魔物達が来る方向がわかるか?」

「……入り口に殺到という事は西からね」

「森から西の草原に出て、そこからこの集落目掛けて来ているんだろう。何故森から直接来ないかはわからないが……」

「そうか……だったら。エルサ、集落の西にある草原に行ってくれ」

「わかったのだわ」

「リク、入り口じゃないの?」

「何故そこに行くんだ?」

「入り口はエルフ達が食い止めてくれてるんだろ? だったら、俺達が行っても狭い入り口じゃ思うように戦えないかもしれない。だから、草原から魔物達の後ろを突くんだ」

「……成る程……」

「そうか……後ろを突けば魔物達の侵攻も遅くなる……考えたな、リク」

「単なる思い付きだけどな」


 俺達が話してる間に、モニカさんとソフィーさんは剣と槍を持ち、臨戦態勢を整えてる。

 寝ているところを起こされたばかりなのに、二人はいつでも戦える様子で心強い。

 ユノはエルサのモフモフに包まれてご満悦だ……気楽だなぁ。

 エルサは俺が言った通り、集落の入り口を越えて、魔物達が続々と詰め寄って来ている草原に向かった。

 空から見た集落入り口付近は、エヴァルトさんと思われるエルフを始め、数十人が固めており、魔法を使って寄って来る魔物達と魔法を使って戦っていた。

 魔力がいつまで続くかわからないから、早くしないと。

 草原までは、魔物達が密集した道のような物が出来ているのを空から確認できた。

 ヘルサルの街を襲って来たゴブリン達程じゃないけど、相当な数だ。

 多分、数百くらいはいるんじゃないかな?



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