第97話 大きくなったエルサの咆哮



「着いたのだわ」

「よし、魔物達から少し離れた所に降りてくれ」

「わかったのだわ」


 俺達は魔物達の最後尾から少しだけ離れた場所に降りる。

 エルサから降りた後、俺は小さくなろうとするエルサを止めた。


「エルサ、すまないが小さくなるのは待ってくれ」

「どうするのだわ?」

「ヘルサルの街で皆を避難させる時にやったあれ、もう一度頼めないか?」

「吠えるのだわ? 簡単なのだわ」


 ヘルサルの街で、俺が一人で残った時、エルサは後ろで大きくなり街の皆に向かって吠えた。

 ドラゴンの咆哮はすさまじく、地面が揺れてるようにも感じる程だった。

 今はあの時程大きく無いけど、多少なりとも魔物達を怯えさせる事が出来るかもしれない。


「エルサが吠えたら、魔物達に突撃だ。俺も多少は魔法を使っていくからな」

「リクさん、私達には当てないでよ?」

「リクの魔法に当たったら魔物だけじゃなく私も危ないな」

「リクの魔法……実験は駄目なの!」

「当てないように気を付けるよ。そんなに規模の大きい魔法は使わないから。それとユノ、これは実験じゃないからな」


 今回は俺達が向かう方向にエルフの集落がある。

 規模はヘルサルのゴブリン達より少ないが、あの時のような魔法を使ったら集落まで巻き込んでしまう。

 それに、近くにいる皆も同じだ。

 適度に狭い範囲で魔法を使うよう気を付けよう。


「それじゃ、行くのだわ」

「エルサ、吠えた後は俺達と一緒に突撃だぞ。ドラゴンの強さを見せてくれ」

「……仕方ないのだわ。面倒だけどリクに言われたらやるしかないのだわ」


 俺の指示にエルサは従ってくれるようだ。

 そして、エルサが大きい姿のまま魔物達の方に一歩近づき、全力で吠えた


「GURUAAAAAAAA!!!」


 言葉ですらないそれは、後ろにいる俺達の耳を突き破ろうとするくらいの衝撃となって響いた。


「よし、行くぞ!」

「「「「おう!」」」」

「行くのー」


 耳がキンキン鳴っているけど、それに構ってる暇は無い。

 俺は皆に聞こえるように大声張り上げ、魔物達へと剣を振り上げて突っ込んで行った。

 後ろからモニカさん、ソフィーさん、ユノ、フィリーナ、アルネも続く。

 その後はヘルサルの街で戦った時と似たような状況だった。

 エルサの咆哮で、魔物達は怯えた様子を見せていて、突撃して来た俺達にやすやすと切られて行く。

 俺は剣で切り裂き、モニカさんは槍で突き、ソフィーさんは剣とスピードで敵を翻弄し、ユノは盾で他の皆に向かった魔物達の攻撃を防ぎながら、目に見えない速さで剣を振る。

 フィリーナとアルネは俺達よりも少し後方で、魔法を使って援護してくれてる。

 見えない風を操って、他の誰かに近付く魔物を切り裂いたり、地面に生えてる草を伸ばして足を絡め取ったりしている。


「フリージング!」


 俺は魔法でオーガの足を凍らせながら、動きの止まったところに剣を横に振って真っ二つに切る。


「うじゃうじゃいて気持ち悪いのだわー」


 少し離れた場所からエルサの暢気な声が聞こえたので、そちらをチラリと見てみると、エルサが足で魔物数匹を纏めて蹴飛ばしたり、口から火を出して燃やしたりしていた。

 口から火を出すとか初めて見たぞ……あれがエルサの使うドラゴンの魔法なんだろう……きっと。

 エルサが魔物達の群れを大部分担当してくれてるおかげで、俺達は結構楽が出来てる。

 本当なら、俺達に向かって殺到してるはずの魔物が、一人当たり多くても2、3匹しか来ない。

 それでも、オーガやオークがまとめて来た時は、俺以外の皆は苦しそうだったけど、誰かが助けに入って何とかなっていた。

 他にも、エヴァルトさんが言っていた犬っぽい見た目で二足歩行のコボルトや、狼そのままのウルフなんてのがいたけど、それらは動きが多少素早いだけで簡単に対処出来ている。

 オーガやオークは武器を持ってるし、力もあるからな……それに少しくらいの傷を負わせても平気で襲って来る。


「フリージング……フリージング」

 

 俺はひたすら氷の魔法で魔物達の足を止めながら戦う。

 足を止めさえすれば、俺にも他の皆の所にも行けないからね。

 それに、動けないから離れて魔法を撃っているフィりーナ達には良い的のようだ。


「フリージング……フリージング……フリーズランス」


 ぼそっと一つだけ氷を槍にして撃ってみた。

 氷の槍は何体かの魔物を貫いて、近くにいたフィリーネさんの横の地面に刺さった。


「ちょっとリク! 危ないわよ!」

「ゴメンナサイ……」


 まさか貫通していくとは思わなかった……。

 ぶっつけで適当に考えた魔法を使うもんじゃないな……。

 でも、この魔法は使える。

 俺は目の前にいる魔物を切り倒しつつ、体の向きを変えた。

 集落の方向を向いて、さっきより少しだけ魔力を多めに込めて……。


「フリーズランス」


 俺の手から放たれた魔法は、一直線に集落に向かう魔物達を貫きながら進む。

 ……良かった……さすがにかなりの距離が離れてるし、間に魔物が密集してるから、集落に届く事は無かったよ。


「やっぱりリクが魔法の実験をしてるの!」


 オーガが棍棒で殴りつけて来るのを、盾であっさり横に流しながら剣で切るユノに目ざとく見られてしまった。


「いやいやユノ、これは実験じゃないんだよ」

「リクが魔力を込め過ぎると危ないの、気を付けるの」


 ユノに注意されてしまった……。

 まぁ、味方に当たらなければいいよね。


「アンタたち、良くそんな話をしながら戦えるわね……」


 後ろからフィリーナの呆れた声が聞こえて来たけど、今は無視しておこう。

 それからも、俺は魔法で魔物を凍らせたり、貫いたりしながらその数を確実に減らして行った。

 ある程度戦ったところで、魔物による勢いが衰えて来るのがわかる。

 魔物を切り伏せながら周りを見ると、草原から随分と進んで来たようだ。

 集落との距離が半分以下になってる。

 魔物達は俺と集落を守るエルフ達に挟まれて、どちらに襲い掛かれば良いのか迷っているようだ。

 今がチャンスかな。


「エルサ、魔物達の群れに出来るだけ大きな火を吐いてくれ。逃げられないように俺が足止めするから……集落まで届かないようにな」

「わかったのだわ。でも、火を吐いてるとか言わないで欲しいのだわ。汚い物みたいで嫌なのだわ」

「意外とデリケートだな……。わかったよ」


 俺はエルサに指示を出して、足の止まってる魔物達に魔法を放つ準備を始める。

 エルサが近づいたら逃げ出すか俺達かエルフのどちらかに襲い掛かるかもしれないからね、今のうちに足を固めよう。


「リクさん、集落を巻き込んじゃ駄目よ」

「リク、近くに私達がいる事を忘れるなよ」

「リクは何をするの?」

「何が起きるんだ?」

「手加減するの!」


 フィリーナとアルネは俺が何をするのかわからず、首を傾げながら見ているけど、モニカさんとソフィーさんは巻き込まないよう注意して来る。

 ……俺、そんなに味方を巻き込むような事してないよな……まぁ、たまに威力が高すぎてとかやっちゃってた気もするけど……。

 とにかく、エルサに集落まで届かせないように言ったんだ、俺も気を付けないとな。

 さっきまでより多めに魔力を練って、少しだけ周囲に漏れた魔力が青色に輝く。


「魔力がこんなにはっきり見えるなんて……エルフでも魔力が見える事は多くないわよ」

「はっきりと見えているな……どれだけの魔力があればこうなるのか想像も出来ん」


 フィリーナとアルネが驚いてる声が聞こえて来るけど、今は魔法に集中。

 失敗して集落まで巻き込んだら皆から怒られそうだしね。



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