第61話 初めてエルサと出会った森へ



「エルサちゃん、移動するからまた乗せてもらえるかしら?」

「ふゎ~だわ。……わかったのだわ」


 一度欠伸をして深く息を吸い込みながら返事をしたエルサが、俺の頭から離れ地面に着地。

 すぐに光を放って大きくなる。

 大きくなったエルサに三人で乗り、エルサが浮かび上がった。


「今度は何処を通って行くのだわ?」

「そうだな、次は街の北側から迂回して東側の、お前と初めて会った森に向かってくれ」

「わかったのだわー。あの森なのだわー」


 エルサが楽しそうな声を上げながら北へ向かって飛んだ。

 俺達三人はエルサが移動してる間、モフモフに全身を包まれて幸せな気分に浸りながらモフモフをモフモフしてた。

 途中、ソフィーさんが触ったところがエルサは妙にくすぐったかったらしく、蛇行運転のようにフラフラ揺れたりもしたけど、モフモフに体を沈ませてたから何とかなった。

 モニカさんは少しだけ顔色が悪そうだったけど。

 乗り物酔いかな?

 こんなフカフカでフワフワでモフモフに包まれてたらどんなに揺れようと乗り物酔いにならないと思うんだけどなぁ。

 最高の酔い止めだ! まあ、そんな評価でエルサは喜ばないだろうけどね。


「着いたのだわ!」


 俺がモフモフを堪能してた間に移動が終わったらしく、エルサは森の上空で静止、ゆっくりと降り始めた。


「ん? ここって」

「エルサちゃん、ここ森の中なんだけど?」

「森の端に降りて森に入ると思ったが……」


 エルサが降りたったのは、俺が初めてエルサを発見した広場だった。

 そこは相変わらず20メートル四方に開けた、と言うより木々が薙ぎ倒されてできた場所になってる。

 ヘルサルから森の端までにしては少しだけ時間がかかったと思ったら、森のほぼ真ん中まで来てるんだから当然か。

 実際ほとんどモフモフの事を考えてたから、時間感覚はおぼろげではあるけど。


「リクと初めて会った森と言えばここなのだわ」

「いや、確かに初めて会った森とは言ったけど……まさかこの広場に連れて来られるとは……」

「ここでリクさんとエルサちゃんが……」

「すごいな、木が根こそぎ薙ぎ倒されてるとは……確かにエルサのあの大きさならば納得出来るが」

「リクに助けられた場所なのだわー。ここでキューを初めて食べたのだわー」


 エルサの機嫌がすごく良い。

 俺と初めて会った時の事を思い出してなのか、キューを初めて食べた事を思い出してなのか、どちらにせよここはエルサにとって良い思い出の場所になってるようだね。

 最初は森の外から探査をしながら野盗の残党を探そうと考えてたけど、ここに来たのならここからでもいいか。

 少しヘルサル側の位置とは言え、探査は俺を中心に360度探す事が出来る。

 この広場からなら無駄な方角が無くて効率が良いかもしれない。

 そんな風に考えてると、エルサが体を小さくさせて俺の頭に再度ドッキング。

 俺のとこへ飛んで来る時も妙に機嫌が良かった。


「ここに来るとキューを思い出すのだわー。リク食べさせてなのだわー」

「……さっき食べたばかりだろうに。もうお腹空いたのか?」

「お腹はまだ減ってないのだわ。けどおやつとしてキューを食べるのだわ。キューは主食でおやつなのだわー」

「要はとにかくキューが食べたいって事か」

「キューが食べられればそれで良いのだわー」


 まったくこいつは……。

 鞄からエルサ用に持って来たキューを取り出し、エルサに渡そうとする。

 しかし頭にくっついてるエルサは受け取ろうとしない。


「おい、エルサ。早く受け取ってくれ、腕が疲れる」

「直接リクが食べさせるのだわー」


 何だって……。

 エルサは俺の手から食べたいと言ってるのか。

 仕方ない奴だ。

 俺もここに来て少し機嫌が良いのかもしれない。

 ここはこの世界に来て一番俺の人生に影響を与えた場所だし、今まで経験して来た中でも最上のモフモフと出会えた場所だからな。


「ほらエルサ、頭にくっついてたら食べさせられないだろ」

「あ、食べさせてあげるのね」

「エルサとリクは仲が良いな」


 頭にいるエルサを両手で捕まえて持ち上げ、俺が地面に座りその膝の上にエルサを降ろす。

 膝の上でおとなしく座ったエルサにキューを持って行き、口に近づけて食べさせてやる。


「モキュ……モキュ……やっぱりキューは最高なのだわー。幸せの味なのだわー」

「……いいなぁ」

「ははは」


 キューを堪能してるエルサを見てモニカさんが何事か呟いたけど、もしかしてモニカさんもキューが欲しかったのかな?

 ソフィーさんは朗らかに笑ってる。

 ……傍から見たら可愛がってるペットに餌を手ずからあげてる微笑ましい絵なのかもしれない。


「モキュ……モキュ……ゴクッ」

「よし、食べ終わったな」

「満足なのだわー」


 鼻歌でも歌いそうな程上機嫌なエルサは、俺の膝から飛び立ってまた頭へとドッキングした。


「そこ好きだな」

「ここは特等席なのだわー。癒される場所なのだわー」

「まあいいけどな」


 エルサが楽しいのならそれで良い。

 少しだけ頭と首のあたりへの負荷が気にならなくもないけど、重いって程じゃない。

 ただ、肩凝りにならないかは少しだけ気になるとこかもしれない。


「さてと、それじゃまずは俺が魔力探査で野盗達を探すよ」

「ゴブリンジェネラルを見つけた時の魔法ね。お願い、リクさん」

「ほぉ、こうやってゴブリンジェネラルは見つけられたのか。じっくり見させてもらおう」


 あんまりじっくり見るものでもないと思うけどね。

 魔力を広げて、魔物や人間に反応した場所を探すだけだから目に見える物じゃないし。


「……」


 これは……魔物だな。

 狼かな? そんな形をしてる。

 ……あとは、木と草と……いた!


「南西の方角に何人かが固まってる。人なのは間違いないから、多分野盗だと思う」

「この森は中の方まであまり人が入って来ないからな。そんなとこにいるのなら野盗に違いない」

「薪とかのために木を伐採するなら端の方でするはずよね」


 場所はこの広場から少しだけセンテの方に行った後、南に進んだ所だ。

 20人くらいの魔力が固まってるから、そこが野盗達のアジトかなんかなのだと思う。

 俺の魔力探査を頼りに、三人と頭のエルサで広場から出て森の中を進む。

 この中で一番森の中に慣れてるソフィーさんを先頭に、モニカさん、俺と続く。

 俺は方向を指示しつつ、魔法探査を掛けて周辺を警戒してる。

 途中で魔物が襲ってくるかもしれないからね。


「ソフィーさん、左斜め前、狼です」

「わかった。……ふっ!」


 多分身を隠しての奇襲だったんだろう、木々の間から狼が飛んでソフィーさんに襲い掛かった。

 俺の探査に引っかかってたから、場所は丸わかりだったけどね。


「フォレストウルフか……こいつはその名の通り森にいる魔物だな。しかし群れで行動するはずなんだが」

「ソフィーさん、まだいます。左斜め前方から右斜め前方まで、10体です」

「少し数が多いな。モニカ、大丈夫か?」

「はい」


 モニカさんが返事をすると同時、前方から一斉にフォレストウルフ達が飛び掛かって来る。


「リクはそのままでいい。私とモニカで十分だ」

「リクさんばかりに活躍させないわ」


 ソフィーさんとモニカさんはそれぞれ剣と槍を構え、フォレストウルフを迎え撃つ。

 まあ、俺が活躍したいとは言わないけど俺ばかりがってわけでもないと思うんだけどなぁ。

 土の調査はモニカさんが多少農業の事を知ってたから楽だったし、ダミソウの採取はソフィーさんが頑張って……頑張り過ぎだったねあれは。

 俺が考えてるうちにも戦闘は進んでた。



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