第52話 ドラゴンを危惧する人達との会話



「んん! クラウス様、それはこの場で言わなくてもいいのでは」


 トニさんの咳払いで皆が動き出した。

 まあ皆苦笑いしてるけどね。


「……失礼しました。では騎士爵は辞退するという事でいいですかな?」

「……は、はい」


 気を取り直してクラウスさんが聞いて来るけど、今更真面目な顔されてもどう反応して良いのかわからないよ俺……。

 ちょっとソフィーさんとマリーさん、笑いをこらえ過ぎて顔が真っ赤になってるよ!

 マックスさんとモニカさんも、向かい合って座ってるから笑えないのはわかるけど頬がピクピクしてるから!

 引きつった顔で苦笑いしてる俺を見て皆笑いを堪えてる……。


「勲章の方はどういたしましょうか? 我々としましては、爵位を辞退されましたが勲章は受け取ってほしいと考えております。勲章は栄誉の証、受け取って損はないと思われます。爵位と違ってリク様の行動を妨げるものでは御座いませんから」

「んー、そうですね。爵位を辞退したのに勲章までも辞退となると国に対して悪印象になりそうですし……それは受け取っておきましょう」

「そうですな。国から栄誉を授けると言ってきているのに対し、全て辞退するというのはあまり良い印象では受け取られませんな」


 全部受け取っても面倒だし、受け取らなくても面倒……国に関わると面倒な事が多いね。

 これからも出来るだけ関わらないようにしたいところだ。


「それでは、勲章は受け取って頂けるとの事で王都の方には伝えておきます。授与に関しましては追ってご連絡致します」

「はい、お願いします」


 報奨金は受け取った。

 爵位は辞退したけど、勲章は受け取ることにした。

 クラウスさんの話はこれで終わりかな? と考えてたら、先程までよりも真剣な顔をして話し始めた。


「さて、三つ目の事なのですが……これは冒険者ギルドの副ギルドマスターも交えて話した方が良いかもしれませんな」

「ヤンさんもですか?」

「ええ。この街やこの国、もしかしたら人類そのものに関わって来るかもしれない大事な事なので」


 そんなに大事なの? 俺何かしたっけ?

 というか国すら飛び越えて人類とか話しが大きくなり過ぎじゃないかな……。

 クラウスさんは真剣というよりも深刻な顔になってるし。


「その話ですね。お互いの話しが終わって最後に切り出そうと考えていましたが……」

「我々の話しはこれが最後ですよ」

「そうですか。それならこれはまず私から切り出させて頂きましょう。冒険者ギルドからという方が良いでしょうからね」

「そうですな。ギルドの方が情報は持っているでしょうし、適任ですかな」


 何やらヤンさんとクラウスさんの間で話が進んでるけど、一体何の話しだろう?

 二人共深刻な様子なので、俺以外の皆もよほど大変な事なのだろうと真剣な顔になってるし、雰囲気も少し重くなった気がする。

 さっきまで笑いを堪えるのに必死だった人達が、今は真剣な顔でヤンさんとクラウスさんに注目してた。


「では……その……リクさん」

「はい」

「リクさんの頭に現在もくっついてる犬に見える方に関してですが……」

「ん? エルサですか?」

「私なのだわ?」


 エルサは一応知らない人達がいる時は犬のフリをするために、喋っても俺以外に聞こえないような小声で呟いてる。

 今までほとんど我関せずと俺の頭で寛いでたエルサが、自分の話題になったと分かって俺の頭の上で顔を持ち上げた。

 ……頭の上だから見えないけど、モフモフが動く感触と、頭頂部に乗せられてたエルサの顎が離れていく感じがしたからね。


「その……単刀直入に聞きます。その方は……ドラゴンなのですか?」

「……あー」


 そうか……一応この場でも隠してたけど、防衛戦の時大きくなってたからなぁ。

 普通の犬じゃない事は誰からしても当たり前の事だし、あれだけの大きさになれるのだから、ドラゴンって結論になってもおかしくない、よね多分。

 クラウスさんはまだわからないけど、ファンとか言ってるから一応は大丈夫だとして、ヤンさんは元々マックスさんと同じパーティの冒険者だったわけだし、今はギルドの副ギルドマスターをやってるくらいだから信用できると思う。

 この際だから教えておこうかな。


「……はい。エルサはドラゴンです。エルサ、皆に挨拶して」


 俺はエルサを頭から剥がしてテーブルに置いて挨拶するように言った。


「ドラゴンのエルサなのだわ。リクからもらった立派な名前なのだわ」

「……本当にドラゴンでしたか……しかし話しが出来るとは……」

「……」

「私は元々人間の言葉は喋れなかったのだわ。けどリクのおかげで話せるようになったのだわ」


 予想はしていても驚くものなんだろう、ヤンさんは驚いた顔のままエルサをまじまじと見ているし、クラウスさんとトニさんは言葉も無くただ驚いた表情のままエルサを見てた。


「……その、あなたは何故リクさんと一緒にいるのですか? ドラゴンは伝説やおとぎ話でしか登場せず、ここ数百年目撃情報も無いため存在自体が怪しまれているくらいなのですが」

「私がリクといるのは、リクと契約したからなのだわ。契約したドラゴンはその契約相手と離れるような事はしないのだわ」

「……契約……ですか?」

「そうなのだわ。ドラゴンは生涯で一人だけ契約する相手を本能で見極めて契約するのだわ」

「その生涯に一人の相手がリクさんだったと?」


 ヤンさんの質問に頷いて答えるエルサ。

 でもエルサお前、最初契約した時は瀕死で生存のためもあっただろうけど、一番はキューを食べるために契約したって言ってたような気がするんだけど。

 生涯に一人の契約相手をキューが食べられるからと決めて良かったのか……まあ、エルサ曰く俺が契約するべき相手だったって事だから、結果オーライなんだろう。


「契約というのはどういったものなのでしょうか?」

「契約は相手から魔力を貰って、ドラゴン本来の力を発揮するためのものなのだわ。ドラゴンは契約をしてないと力が制限されるのだわ。その制限を解除するために契約相手から魔力を貰うのだわ」

「……ドラゴンって、契約相手がいないと弱いんですか?」

「今の私は契約しているからよくわかるのだわ。契約してないドラゴンははっきり言って弱いのだわ。契約するまでは1カ月飛び続ければ力尽きるくらいだしなのだわ。この街の大きさなら、今は簡単に消滅させられるのだわ。けど契約前の私だと1日くらいかかるのだわ」

「こら、エルサ。この街を消滅させる事なんて考えちゃ駄目だぞ」

「……消滅なんてしないのだわ。この街にはリクがいるのだわ。キューもあるから消滅させたらいけないのだわ」

「「「「…………」」」」


 おや? 俺とエルサの会話に一同絶句してるけど……。

 まあ街をどうこうするなんて言ってるからしょうがない、のかな。

 皆が少しだけ沈黙した後、ヤンさんは遠くを一回見て持ち直したようにまた俺とエルサに顔を向けた。


「……リクさんと契約をしているという事ですが、リクさんと主従になったという解釈でよろしいですか?」

「主従とは違うのだわ。どちらか一方に命令を聞かせるものじゃないのだわ。あくまで対等の関係って言うのが正しいのだわ? えっと、人間の言葉で言うなら伴侶、相棒、パートナー、つれあい、仲間、親友とかそんな関係と思えばいいのだわ」

「伴侶!?」


 エルサの言葉に真っ先に反応したのはモニカさんだ。

 前にも聞いたけど、本当にその単語達でいいんだろうか? 俺は一応、一緒にいて協力する関係と考えてる。

 でもモニカさんは何故そこに引っかかったんだろう? 隣のテーブルでソフィーさんも声は上げなかったけど立ち上がりかけてるし……。


「えーと、主従ではありませんがリクさんと一緒にいる事が契約という考えでよろしいのですね?」

「そうなのだわ」

「では、リクさんに逆らったり、人間に敵対したりはしないのですか?」

「逆らうとかしないのだわ。人間はちょっかいを出して来たら考えるのだわ。キューさえあれば敵対とかどうでもいいのだわー」

「そうですか……」


 明らかにホッとした様子のヤンさん。

 クラウスさんも、トニさんまで安心した表情をしてる。

 他の面々は……まあ獅子亭にいる人達は日頃エルサと一緒に居て、エルサが変な事しないと分かってるから様子は変わらずだね。

 モニカさんだけはまだ、小さい声で「伴侶……」とか呟いてるけど、何か雰囲気的に立ち入らない方が良さそうだ。

 そんな皆の様子を見てたら、エルサがとんでもない事を言い出した。


「リクに助けてもらったうえに、契約もして、さらに私より強いとか逆らう気にもなれないのだわー」

「「「「「ドラゴンより強い!?」」」」」


 エルサの爆弾発言でその場にいる全員が一斉に声を上げた。

 えっと……え? 俺ってエルサより強かったの? ドラゴンより強いの?



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