第25話 マリーさんの魔法講座



「はい、皆さんお茶が入りましたよー」

「おお」

「これがないとねえ」

「リクさんのお茶だー」

「お茶なのだわ?」


 魔法講義を開始する前にティーブレイク。

 俺が淹れるお茶が欲しいと獅子亭の皆さんが仰ったので、厨房に行って淹れて来た。

 俺のお茶を入れる技術とか大したもんじゃないんだけどなあ。

 喜ばれてるようだからいいか。

 エルサだけはお茶を初めて見たのか、クンクンと鼻先で匂いを嗅いでいる。


「あーやっぱこのお茶だけは勝てねえな」

「落ち着くわねえ」

「リクさんの淹れるお茶はやっぱりおいしいわ」

「ははは、それくらいでしたらいくらでも淹れますよ」

「ん……ちょっと熱いけど、おいしいのだわ」

「エルサ、熱い時は少し冷ましてから飲むと良いよ」

「わかったのだわ」


 エルサにも気に入ってもらえて何より。

 さて、一息入れた後はマリーさんの魔法講座だ。


「ではマリーさん、お願いします」


 俺がお願いすると、先生の気分なのか一旦「んんっ」と喉を整えてから話し出す。


「まず魔法を使うには魔力が必要。これはリクにもわかるわね?」

「はい」

「魔力というのは、生き物の体に必ずある物で、目には見えないけど生きるための要素の一つと言われているわ」

「必ず魔力があるって事は、誰でも魔法が使えるんですか?」


 それなら契約が無くても俺でも使えたって事だ。

 俺の魔力はかなりの量があるとはエルサ談。


「いいえ、誰でも使えるわけじゃないの。魔法を使うためには自分の魔力だけじゃなく、自然の魔力も使わないといけない。魔法というのは、自然の魔力を集めてそれを自分の魔力で包み込んで発現する事象に変換する事で発動するの。それで、まずこの自然の魔力というのは生き物以外に漂っている何にも属さない魔力。その自然の魔力を集めることが出来るかどうかで魔法が使えるかどうかが決まるの」


 つまり自分の魔力だけじゃなく、空気中に漂ってる魔力を集める能力があるかどうか、か。


「魔法が使える人は誰でもこの空気中の魔力を集める事が出来るわ。それを体内にある魔力で包むんだけど、自然の魔力は無限にあると言われている。けれど、生き物が持ってる魔力は有限。つまり魔法使いとしての能力の差はこの体内の魔力量で決まるの」

「体内の魔力量……」

「自然の魔力を体内の魔力で包むときにどれだけの量で包めるか。また、それを何回できるかが魔力量で決まって来るわ。包む量が多ければ効果の高い魔法に、また何回も出来るかどうかは使用回数に関わって来る。包む量を調節して、小さい効果で何回も使うのか、大きい効果で1回だけ使うかは使う人次第ね」


 回数を取るか威力をとるか。

 その時の状況で対応するわけか。

 元々の魔力量が多ければそれなりの威力を複数回使えるし、少なければ微妙な威力を1回しか使えない。


「魔法の種類は色々あって、水を出すだけの物だったり、火を使って爆発させたりと様々な物があるわ。魔法は魔法屋に行けば売ってるわ」

「魔法屋!?」


 そんなものあるの?何か昔やったゲームみたいだ。


「魔法屋で売ってる呪文書を買って、その呪文書に書いてある呪文を読めば魔法を習得できるの。呪文書は1人につき1個で、1回覚えるとその呪文書は消えてなくなるわ。だから魔法を覚えるためには自分で買って、自分で読まないといけないの。この呪文書を読んだ時に魔法の初回発動が行われて、それ以降は呪文を読んだりせず、魔法名を言うだけで発動出来るわ」

「魔法屋の魔法は高くてなあ、だから戦わない人達でも買えるのは裕福な層だけだが……買ったとしても生活に役立つ魔法ばかりだ。小さな火を付けたり、カップ一杯の水を出したりとかな」

「そうね、魔法屋で戦いに役立つ魔法を買うのは冒険者や兵士何かが多いわね。それで、その呪文の種類によっても魔法の効果の大きさが変わってくるの。火をつけるだけの魔法なら、どれだけ魔力を使っても大きい火にはならないわ。せいぜい薪に火が付くのが早くなるだけね」


 魔法の効果は種類によって違う、魔力を込めれば効果が上がるが種類で上限みたいなものがあると考えればいいのかな?


「とりあえず簡単に説明したけど、魔法はこんなものね」

「勉強になりました。ありがとうございます。マリーさん」

「これくらいは構わないわ。今度魔法屋に行ってどんな魔法があるか見てみるといいわ。そこで本当に魔法が使えるかの検査もしてくれるから」

「わかりました。魔法屋で検査し……」

「リクは魔法が使えるのだわ」


 エルサに遮られた……。

 そういえば契約した時にも言ってたし、魔法に慣れろって言ってるから、俺が魔法を使えるかどうかエルサにはわかるのかな?


「魔法屋に行く必要もないのだわ。リクは人間の魔法とは別の魔法が使えるのだわ」

「別の魔法?」

「契約した時に言ってたドラゴンの魔法ってやつか?」

「そうなのだわ。人間の使う魔法よりもドラゴンが使う魔法の方が便利なのだわ」


 自信満々にドヤァな感じで言ってるけど、モニカさんに頭を撫でられながらだとかわいいだけだぞ?


「ドラゴンの魔法……もうリクの存在自体が伝説ね」

「おとぎ話じゃ今の人間の魔法とは比べ物にならないほど強力らしいからな。だがリク、魔力枯渇には気を付けろよ」

「魔力枯渇ですか?」

「あー、言い忘れてたわ。魔力が生き物が生きるために必要な物の一つだって言ったわね。使った魔力は体の中で作られるから、休んでいれば元に戻るけど、全ての魔力を使い果たして魔力枯渇になってしまうと、魔力が回復することは無いの」

「魔力が回復しないって……魔法が使えなくなるんですか?いや、魔力が生きるために必要って事は……」

「ええ、すぐにではないけれど、徐々に弱って死んでしまうの」

「怖いですね」

「そうね。だから魔法使いでも一般の人でもよっぽどの事が無い限り魔力を残すように魔法を使うわ。まあ、魔力枯渇になる前に気絶するから、普通はならないと思うわ」

「1回の魔法で魔力枯渇を起こすくらいの魔力を込めなければ大丈夫だ」

「わかりました。気を付けます」


 魔力枯渇か、怖いな。

 俺は魔力量が多いらしいけど、調子に乗って魔法を使って枯渇しないように気を付けよう。


「魔法の練習をしたいんですけど、良い場所とかありますか?」

「そうだな、聞く限り普通の魔法じゃなさそうだからなあ。普通は魔法屋に発動場があって、そこで試しに発動してみたりするんだが、ドラゴンがいる事を広めるわけにはいかんしな」

「そうねえ、だったら街の北に出た先にある場所はどうかしら?あそこなら人も来ないし。明日行ってみましょう」


 なんでも、街の北は荒野になっていて、今は手つかずになっているそうだ。

 人もおらず、たまに低級の魔物がうろついてるだけらしい。


「一応魔物もいない事はないから、俺らも様子見に行くか」

「そうね、ドラゴンの魔法ってのも見てみたいわ。もし魔物がいて邪魔するようなら私達で追い払えるし」

「リクさんの魔法、私も見に行くわ」


 場所が決まったのはいいんだけど、皆来る事になっている。

 店はいいのかな?


「今日も休んだのに、明日も店を休むんですか?」

「まあ、ちょっと痛いが……たまには良いだろ。いつも忙しい店で休みも今まで碌に取ってなかったからな」

「リクがいない間久々に3人だったから大忙しだったものね」


 ちょっとした遊び気分になってる……。

 まあ、いいか。

 店主のマックスさんが良いと言ってるんだ、問題ないだろう……多分。


「それじゃ、明日はよろしくお願いします」

「楽しみにしてるぞ!」

「どんな魔法なのかしら」

「エルサちゃんも一緒に見ようねー」

「リクが見世物になってるのだわ」


こうして、明日は魔法に慣れるための練習をする事になった。



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