第14話 武具店で装備を買う
「あの辺り一帯が工房街だ」
冒険者ギルドを出て約1時間歩いて辿り着いた。
ソフィーさんと話しながら歩いてたけど、やっぱ一人で街を歩くより誰かと一緒にいた方が楽しいね。
工房街はセンテの街の北側に集まっているらしい。
南側から中央付近は野菜を扱う問屋が多いと聞いた。
農地が南に多く、街に野菜が入って来る時も南からが多いために問屋がそこに集まったらしい。
北側は鉱山のある街が北にあり、そこから素材を仕入れる関係で北に工房が集まったとの事を道すがら聞いていた。
「この街は農業の街だからな、農地を耕したり開墾したりする農具を工房で作っている。とは言え、一部は武具を作る事に異様な執念を見せる工房もあってな、冒険者はもとより、街の兵士なんかもよく利用しているんだ」
「頑固な職人が多そうですね」
「頑固なのは確かに多いようだな。こっちだ、私がよく行く武具店がある」
ソフィーさんオススメのお店があるという方へ案内される。
少し工房街の外れに向かっている、やっぱ農具がメインの工房街だからちょっと離されてるのかな?
「この店だ」
「ここ、ですか」
辿り着いた店は、何も飾り気のない1軒の家。
入口の横に小さく看板が出ているが、これがなかったら店ではなくただの民家としか見えなかっただろう。
「ここの店主はさっき話していた頑固者の一人で、武具を作る事が生きがいらしい。武具を作る事に関してはこの工房街一なのだが、商売に関してはからっきしでな」
なるほど、売る事を考えるより作る事一辺倒だから、店構えとか考えないのか。
「いらっしゃいませ」
店の中に入ると、そこら中に剣や槍、鎧等が置かれているが、整理されているのか怪しいくらい乱雑に積まれている。
置かれている武具の隙間で通路が出来ていて、その奥から女性が出て来た。
「エリノア、武具を見せてくれ」
ソフィーさんが挨拶もそこそこに用件を伝えるが、俺はそれどころではなかった。
エリノアと呼ばれた女性のお尻のあたりに目が釘付けとなっている。
正確には、お尻に付いている尻尾に。
「ソフィーさん、今日は装備の買い替えですか?」
「いや、私ではなくこのリクがな、武具に興味があるみたいなので連れて来た」
「そうですか、えっと……」
「…………あ!すいません、リクと言います。……尻尾……じゃなかった、武具を見させてもらってもいいですか?」
「はい……あの……尻尾って今……」
しまった、尻尾が気になりすぎて他の事が飛んでいた。
「いえ、すみません。獣人の方を見る事が少ないのでつい……」
だって尻尾だよ?それも狐の……ふさふさした毛の尻尾!もう……もうね……モフモフしたいじゃん!
前の世界にいた頃は、外に出ている時に犬や猫を見かけたら時間を忘れてモフモフしていた事もよくあった。
こちらに来てモフモフが足りないのを何とか我慢していたけど、こんな所にモフモフがあったとは!
「……そうですか。私は狐型の獣人族でエリノアと申します。ここの店主の娘です」
手が無意識に尻尾へと延びようとするのを、なんとか抑えつつ、エリノアさんへ謝り、挨拶を交わす。
俺が三度の飯よりモフモフが好きな事は……さすがに隠しておきたい……何か恥ずかしいし……。
意志の力でモフモフへの欲求を抑えつつ、店内の武具を見せてもらう。
乱雑に置かれているが、これでも多少はエリノアさんが整理をしているらしく、一部は整理されて棚に置かれていたりもしていた。
エリノアさんの方を見てしまうと尻尾に意識が行ってしまうので、武具だけを見て気を逸らしつつソフィーさんに聞く。
「初心者にオススメの装備はどうですか?」
「そうだな、リクはまだ冒険者にもなっていない卵だし、実戦経験もないように見えるから初心者用で慣れるのがちょうどいいだろう。この中では……これだな」
「ナイフ……ですか?」
「まあまずは刃物に慣れるという意味合いもある。武器としては頼りないが、色々な用途に使えて便利だぞ。剣はその腰に付けている物があるしな」
「あ、いえ、これは借り物なので、俺のではないんです。だから剣も欲しいかなと」
「ふむ、そうだったか。それならあちらに剣が積まれているから、それを見て選ぶといいだろう」
ソフィーさんにあれこれ聞きつつ、武器を選んでいく。
途中エリノアさんが……
「ソフィーさんが全部案内して、私の役目が……」
と、呟いていたが、エリノアさんに案内してもらうと尻尾に気が向いて碌に装備品選びなんか出来なさそうだったから、聞かなかった事にしておいた。
「それじゃ、このショートソードとナイフ、あと、皮の鎧を下さい」
今すぐ戦いに行くというわけじゃないけど、せっかく色々教えてもらえたので、買う事にした。
ソフィーさんからアドバイスももらえるので、選ぶなら今だろう。
ショートソードは、マックスさんから借りた剣と同じくらいの大きさで、あまり重くないため持ち運びにも困らない。
ナイフはサバイバルナイフのようなもの。
サバイバルをするかはわからないが、応用が利いて、色々と役立ちそうだからと買った。
皮の鎧より、鉄でできた鎧の方が格好良くて好きなのだが、試着した時重くてあまり動けなかったため断念した。
ヘルサルに帰ったら、時間を見つけて体を鍛えよう、うん。
女性二人の前で鎧を着てフラフラおぼつかないってのはあまりにも格好悪かったから……。
「はい、えっと……全部で銀貨50枚になります」
ショートソードが銀貨30枚、ナイフと皮の鎧が銀貨10枚ね。
お金をエリノアさんに渡し、確認してもらう。
商品が売れたからか、尻尾をゆらゆらと揺らしているのが気になったが、なんとかそちらを見ないようにしてやり過ごす。
くっ!この店は誘惑が多い!
「ありがとうございました。またお越し下さい」
店を出る時に、エリノアさんが腰を90度曲げるくらい深くお辞儀をし、そのせいで尻尾が上向きに伸びて主張していたのを見て理性が危なかった。
「……はあ、なんとか乗り切った……疲れた……」
「ん?疲れるような事があったか?」
ソフィーさんの問いかける視線から目を逸らしつつ、なんとかごまかした。
モフモフ好きはバレないように!
「では、私はもう一度冒険者ギルドに顔を出してから、宿に戻る」
「ありがとうございました、態々案内してもらっただけでなく、アドバイスまで頂いて」
「なに、気にするな。リクには恩もあったし、これから冒険者になるかもしれないのなら、変な装備をされても危ないからな」
まあ、冒険者になると魔獣と戦う事もあるようだし、使えない武器を持っていても死ぬだけなのかもしれない。
「おかげで良い買い物が出来ました」
「それならよかった。では、私はこれで。またな」
「はい、ありがとうございました。それでは」
ソフィーさんと挨拶を交わし、別れる。
「今から宿に帰ったら、ちょうどいい時間か」
そういえばハンスさんの店を探すのを忘れてた……ま、あまたセンテに来た時に探してみよう。
日が傾き始め、お腹も空き始めている。
宿に着く頃にはお腹はペコペコになっていそうだなと思いながら、宿へと歩く。
宿に着いてからは、食堂で晩飯を食べ、今日こそは体を拭いて寝ようと思っていたのに、ベッドに少しだけ横になった途端に、睡魔に誘われそのまま意識を手放した。
そうして、熟睡しながら、久々に夢を見た。
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