第12話 センテの街観光中
「ん……」
ゆっくりと目が覚める。
見慣れない天井だ……。
ここはどこだ?
……ああ、そうか、センテの宿か。
少し寝惚けている頭を振りつつ、上半身を起こす。
朝は弱くはないので、起きるのは辛くない。
けど寝惚けてここがどこかわからなくなるのは少し珍しいな、それだけ熟睡したって事か。
昨日は馬車で初めての移動だし、何だかんだ問屋でも緊張したからそれだけ疲れてたって事かな。
「んー」
立ち上がって伸びをして、眠っていた体を起こしつつ、部屋の外へと出る。
昨日は体を拭かずに寝たから、ちょっと気持ち悪い感じ……お湯を貰って来よう。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます。おかげさまでしっかり寝ましたよ」
階段を降りたとこで、宿の入り口を掃除していたおばちゃんと挨拶を交わす。
「お湯、貰えますか?」
「はいはい、ちょっと待ってね、今桶に入れて持ってくるから」
お湯を貰って部屋へ帰り顔を洗い、布を濡らして体を拭く。
風呂に入れないのは辛いが、体を拭くだけでも随分とスッキリした。
「さて、朝飯、朝飯、と」
身支度を整え、まずは朝食をと隣の食堂へ。
昨晩もそうだったが、宿に泊まる人以外も利用しているのか、それなりに埋まっている席の中から空いてる場所を見つけて座り、注文をする。
「はいよ、お待ちどうさん。野菜のスープと焼き立てのパンだ」
朝だからか、スープは昨日のよりもあっさりした味付けで、それにパンを浸して食べるとおいしかった。
食事後一旦部屋へと帰り、鞄を肩に掛けながら考える。
「さて、これからは……」
センテの街での用は仕入れに関する事だけだったから、昨日だけで済ませてしまった。
すぐにヘルサルへ帰ってもいいけど、せっかくだから観光でもしてみようかな。
「マックスさんも色々見て来いと言っていたしな。それに宿代も2日分払ってるから、ここで帰ったらもったいない」
そう決めて、宿を出る。
まずはと、昨日ホルザラの店に行く途中で見かけた露店が出ていた広場へと向かう。
「まだ朝なのに結構人がいるな」
野菜を扱っているからか、露店を広げる人、露店で買い物をする人等、それなりに混雑し始めていた。
「どうだいそこの兄ちゃん、うちで今朝採れた野菜だよ!」
広場を見回していたら、近くで露店を開いていたおっちゃんに声をかけられた。
「どういう野菜ですか?」
「うちのはキューって野菜だ。齧った時の食感が気持ち良いぞ」
おっちゃんの前に積まれた野菜は、細長い棒状で緑色、小さいイボが付いている。
これって、キュウリ……だよな?
こっちの世界にもあったのか……でもよく考えたら獅子亭やここの食堂で食べた野菜も味付けの違いはあっても、元の世界と似たような野菜の味だった。
あんまり食材に何が使われてるか考えず、ただ食べてただけだからなあ。
食が大きく変わらないのは良い事なのかもしれない。
衣食住は基本で、食いしん坊ではないはずだが、食に不満がないのはこれから生活していく中で良い事だと思う。
こっちに来てすぐ獅子亭にお世話になったおかげも大きい。
マックスさんの料理はおいしいからね。
「へー、おいしそうですね、おいくらですか?」
「1本銅貨1枚だ。実際おいしいぞ?うちで丹精込めて作ったキューだからな。」
「じゃあ、5本下さい」
「毎度あり!」
おっちゃんにお金を渡し、キューを受け取る。
キュウリは好きだったからな、こっちにもあって嬉しい。
あ、でもこっちにマヨネーズとか味噌とかってあるんだろうか……
まあ今は観光でもしながらそのまま齧るのも悪くない。
丸齧りとかよくやってたしね、マヨネーズや味噌を付けてたけど。
おっちゃんにこの街の事を軽く質問しつつ、キューのお礼を言ってその場を離れる。
なんでも、作物は朝収穫する事が多いため、日の出と共に急いで収穫し、街に近い農家はここへ持って来てその日の新鮮なうちに売るんだそうだ。
農家に関してはあまり詳しくはないが、元の世界で何となく聞いていた事とあまり変わりはなさそうだ。
農家の朝は早いんだねやっぱ。
その後、広場の露店を見て回り、どんな野菜があるかを確認して回った。
片手にキューを持ち、ポリポリと齧りながら。
このキュウリ美味いな……元の世界でもこんなに美味しかった記憶はないけど……これは新鮮だからか、それともこれを作った人や土地が良いのか……
広場を見て回って確認した野菜。
・キュー=キュウリ
・ニンジ=人参
・キャベ=キャベツ
・レタス=レタス
・じゃがいも=じゃがいも
・ダイコン=ダイコン
等々、その他にも見た事のある野菜があったり、見た事のない物もあったりだった。
さすがに大きな物は持ち歩けないから買えないが、持ち歩ける程度の野菜をいくつか買ってみた。
「あ」
買ってから気付いた、これ……調理しなかったら生でそのまま食べるのか?せめてサラダにでもしたいけど……ヘルサルに帰るまで腐ったりしないかなあ?
後先を考えず買った結果、キューのように丸かじりでもおいしい野菜以外を持て余す事になったけど、まあ何とかなるよね、うん。
気付いたら日は高く、お昼時になっていたので、露店をしている人にオススメの食べ物屋を教えてもらい、そこでお昼を食べる。
宿の食堂でもそうだったけど、やっぱり野菜をつかった料理だった。
ヘルシーな健康生活でも目指してみるか?とか考えたけど、ヘルサルに帰ったら獅子亭の特製肉中心になるのは決まっているので、考えるだけにしておく。
「さて、これからどうするかな……」
今日一日観光するとはいえ、知らない街に一人。
うろうろして迷子になるのも嫌だし、でも街を見て回りたいという気もある。
「そうだ、冒険者ギルドに行って話を聞いてみるか」
冒険者ギルドはこの街特有というわけじゃないだろうけど、そこに行くまでの街並みを見るのもいいし、単純に冒険者というものへの興味もあった。
一旦広場に戻り、適当に露店を開いているおっちゃんに売ってる物を少しだけ買いつつ、冒険者ギルドの場所を聞き出す。
広場は街の中心に近い場所にあるが、冒険者ギルドは街の東側にあるらしい。
この街に入って来た時に通った西門とは逆側のようだ。
「へー、こんな建物もあるんだ」
異世界といえば、イメージは中世ヨーロッパ。
俺の知ってるイメージそのままの建物や、たまに一風変わった建物等があったりするのを見るのも楽しく、足取り軽く一路冒険者ギルドへ。
建物はやっぱり木造か石造り。
レンガ造りの物もあったけど、結構な大きさだったから、金持ちでも住んでるのかな?さすがに日本形式の家屋等はなかったな、まあ当然か。
えーと、こっちへ行って、あそこを曲がって……と。
「……ここかあ」
辿り着いた冒険者ギルド。
周辺の建物よりも一回り大きい石造りで、奥の方に小学校のグラウンド程の大きさの平屋が繋がっている。
建物正面にはデカデカと冒険者ギルドセンテ支部と書かれた看板が掲げられている。
「結構大きいもんだなあ」
俺がこの世界に来て見た、一軒の建物としては一番大きかった。
「ヘルサルの街のはどうなんだろう?やっぱこれくらい大きいのかな?」
帰ったら暇を見て一度見に行くだけでも行って見ようかなと考えつつ、建物に真ん中にある入り口の扉を開け、中へと入って行った。
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