第27話 ラブリーでふりふり
どのくらい寝てしまったのかわからない。噎せる感じがして目が覚めた。
鼻が詰まってて喉もなんか変だ。部屋の明かりもつけっぱだし、上着もなにもそのままで横になってしまってたから顔もなんかベタベタする。私の部屋にはテレビも置き時計もなくって時間がわかんないから、ポケットの中のスマホを取り出しながら布団の中に潜り込んだ。自分の吐く息で画面が曇ってる。指で拭いながら画面を確認すると、時刻よりも通知が先に目に入った。店長から着信があったのが二十時すぎ。それから二十三時頃にメッセージがひとつ届いていた。
『見たら返信してください。はな』
はなさんはメッセージの最後にいっつも自分の名前を書く。そういうところがおばあちゃんみたいでかわいいし、絶対やめてほしくないから指摘することもなかった。それどころか私も真似してるくらい好き。
『いま見ました。さっきはごめんなさい。環』
って送ったその直後、部屋のインターホンが鳴った。布団の中でビクッとした。だってほんとに同時だったからね。
泥みたいに壁を這いながら玄関までいってドアスコープの覗く。慌てて鍵を開けて、ドアノブを回した。足に力が入らなくってドアと一緒に外に飛び出しちゃった。
「ちょッ、環ちゃん、大丈夫!?」
女の人に抱かれてた。通算二回目だった。
「へへ。はなさん、おっぱいやっぱやわらけぇなぁ」
「ちょっと、環ちゃん、それ! ダウンだから! パタゴニア! 高かったんだからね! 鼻水がついちゃうでしょ!?」
「細かいこという女はモテないすよぉー」
「なにぃー!?」
頭を掴まれてぐわんぐわんされた。
お団子の髪も解けて、鼻水とよだれもまき散らしていた私にモテを語る資格なんて微塵もなかった。
それからヘッドロックみたいな体勢に移行されてベッドへ放り投げられたんだけど、もうちょい優しさみたいなのあってもいいのでは? 優しさ とは。もう一ミリも動けそうにない私は、股を全開で広げて大の字になってる。
はなさんは瀕死の大の字女なんてお構いなしに、ダウンジャケットを脱いでハンガーに掛けてからエアコンのスイッチを入れてくれた。ピッピッピッって音がしてる、いったい室温を何度にしたんだろう。ってかノースリーブのセーターとか、ほんとはなさんは大人オンナだなぁ。
「暑い? 寒い?」
「んえ? ……わ、わかんないです。はぁはぁってします」
おでこに手が当てられた。ひんやりしてしっとりした肌が吸い付くみたいで気持ちいい。
「熱あるわね。部屋着はどれ?」
「え、えーっと、お風呂場の脱衣所ですけど、下着とかも置いてあるんで――」
「とってくる」
「え、いや、大丈夫すよ、そんな、自分で」
行ってしまった。部屋着とか脱ぎ散らかしてなかったかな……ってか、どんな下着置いてあんだっけ。ぜんぜん思い出せないでいた。はなさんがニコニコした顔で戻ってくるまでは。
「なに笑ってるんですか」
「思ってたよりラブリーでふりふりだったから。ップフ」
重症患者の目の前でパンツ広げて喜んでるんだけど! どういうことなのこの人!
「ささ、今日はどんなお召し物なのかな」
そんなことをいいながら抱き起こされて、裏地がもこもこしたジャケット脱がされその下のセーターもお腹からまくり上げられて、ついにはその下のシャツのボタンに手がかけられた。ぼんやりとされるがままでいたけど、ここまま丸裸にされたらダイナマイトが見えちゃうよ。あ、いや、べつに見えちゃってもいいか……大丈夫だよね? 嘘つく必要もないし。あぁでも、うまく説明できる自信がない。呂律も回ってないし脳みそだって止まってる。
シャツのボタンを外されるといろいろはだけちゃって、ついにマイトガール環お披露目ってときになぜだか部屋の明かりが消された。はなさんは私の後ろにまわって背中を抱きしめるみたいにしてる。雑な感じシャツを脱がされて、下着のホックを探られた。真っ暗でよく見えないからか、ぎこちない手つきがもどかしくってくすぐったい。
「環ちゃんが帰ったあと、しばらくしてからモヒカン店長さんがお店に来てくれたんだよ」
「え、そうなんすか?」
「うん。環が迷惑かけたっぽいから今夜は俺が手伝うって」
「……ってぽいからって、察しよすぎじゃないですか」
「それだけいつも気にされてるってことね。ま、自分の店ではどうだか知らないけど、うちのバイトとしては無能でしかなかったわ」
はなさんが小さく笑った。ごめん、店長。私も笑っちゃった。
やっぱモヒカンアンテナの察知能力は侮れないな。お礼、ちゃんとしとかないと。
「上はつけないでおこっか」
上も下も脱がされて真っ裸だったけど、あっという間に部屋着を着せられて布団の中に押し込まれた。結局、胸元のダイナマイトは見てもらえなかったみたい。
あれ? 私、見てほしかったのかな。わかんないや。
部屋の明かりがつけられて、頬を撫でられる。それからおでこ同士をぐりぐりするみたいにされたんだけど、私はびっくりして目を瞑ってしまった。
「熱があるのはわかるんだけど、酷いのか微熱なのかよくわからないのよね」
体温計がどこかにあるかも、って返事しようとしたけど、ぼーっとしてダメだった。
「なんか冷やすものないかな。ちょっと探してくるね」
はなさんはいなくなったかと思うと、玄関で散らばっていた荷物の中からひんやりするシートを持ってきてくれて、雑な感じでおでこに貼ってくれた。位置がだいぶ下だった。ほんとこれ、視界めっちゃ狭いから。薬も一緒に買ったんだけど気づいてくれてるかな。呼び止めようとしても、はぁはぁって息だけが荒くてなって声にならない。
また部屋の明かりが消された。さっきからついたり消えたりで忙しないなぁもう。でもね、なんか人がいてくれるだけで嬉しいし心強いんだ。私はいったん全部を諦めてすこし眠ることにした。ちゃんとお礼をしなくちゃなのに。
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