天職を拒否して成り上ります! ~努力は神を裏切り自分を裏切りません~
渡琉兎
第1部:天職
第1章:旅立ち
第1話:天職決定
神に職業を決めてもらうことができる世界において、その決定は絶対である。
誰もが疑うことをせず、決められた職業を全うして生きていき、そして死んでいく。
時に苦労するようなこともあるだろう、自分が思ってもいなかった天職を授かることもあるだろう。
だが、それでも誰も疑うようなことはしなかった。
――それが神の選択だから。
※※※※
一二歳になると、誰もが天職を決める儀式を執り行う。
辺境にある小さな村──パペル村でも、この日は二人の少年少女が教会で儀式を行うことになっていた。
「早くしろよ、メリ!」
「ちょっと、置いていかないでよ、ジル!」
早く天職を知りたいと前を走る少年――ジルベルト・アッカートは、後ろからついてくる少女――メリル・ブライトに声を掛ける。
お互いに『ジル』と『メリ』で呼び合う幼馴染は教会に向かっていた。
自分たちの天職が何なのか、それが気になってしょうがないのだ。
この世界において、天職とは二種類ある。
一つは戦闘職と呼称され、魔獣討伐に特化した職業。
一つは生産職と呼称され、都市内での活動に特化した職業。
さらに職業には三級から一級と等級で分けられており、三級が最も多く下位の職業であり、一級が最も少なく上位の職業。
誰もが一級の職業になることを夢見ているが、それも天職として決まってしまえば三級であっても文句は言わない。
何故なら、三級が一級の職業を真似たとしても絶対にうまくはいかないからだ。
過去にあこがれを抱いて一級の真似事をした三級の戦闘職がいたのだが、その人は天職であれば楽に倒せたはずの魔獣に手も足も出ず殺されてしまったという話がある。
これは子供の頃に学校で聞かされる有名な話なのだが、そもそも天職を疑うことをしないのだから意味のない話だった。
ジルとメリは教会に到着すると、そこにはすでにお互いの両親が待っていた。
メリは姿勢を正したのだが、ジルはここでも早く天職を知りたいという気持ちが先走り、すぐに教会の中へ入ろうとしてしまう。
「ちょっとジル! ダメだよ!」
「えっ? あぁ、そうだったっけ」
ここからが儀式の始まりだった。
儀式を受ける人は、教会の外で神父に呼ばれるのを待つ。名前を呼ばれた者から中へと入り、一人ずつ天職を授かるのだ。
その時は家族でさえも中には入れない。儀式を受ける人と、神父のみで執り行われる。
ドキドキしながら待っていると、教会から神父が姿を現した。
最初に名前を呼ばれたのはメリだ。
ジルは、早く知りたい気持ちを押さえつけて、メリの背中を見送った。
しばらくして、メリは笑顔で教会から出てきた。
メリは天職のことを早く口にしたいのだろうが、これからジルが儀式を行うので今は黙っている。
「ジルベルト・アッカート」
「は、はい!」
ジルの名前が呼ばれ、早足で進んでいく。
教会に入ると祭壇の前まで神父の後ろをついて歩く。
鼓動が早くなり、自分の天職は一級なのか、それとも二級なのか、三級は嫌だなと思いながら、奥に飾られている神の像を見つめた。
「それでは、儀式を執り行います。ジルベルト・アッカートは今年一二の歳になります。それゆえ、彼に天職を授けていただきたく、よろしくお願いいたしまする」
神父が経を読み上げると、神の像が淡い金色の光を放ち始めた。
足元から光が立ち上ぼり、神の像全体を包み込む。
そして、金色の光は神の像から離れるとジルに降り注いだ。
不思議と、力が沸き上がるように感じたのだが、これが儀式を執り行う──天職を授かるということだった。
天職を授かるということは、その職業にあった能力が自然と高まることを意味している。
今まで戦闘とは無縁だった人であっても、天職が戦闘職の騎士なら剣術が自然と上手くなったり、鍛えれば他のことよりも早く上達したり。
儀式を執り行っている神父が天職なら神聖魔法を使えるようになったり、それに付随した知識を覚えやすくなったり。
とにかく、天職を授かれば皆がその職業を伸ばすために行動する。
誰も疑うことはしない。だからこそ天職を知るための儀式には、皆が期待を寄せるのである。
ジルを包み込んでいた金色の光が徐々に薄れていき、全ての光が消えた。
その様子を見て、神父がゆっくりと口を開く。
「ジルベルト・アッカート。あなたは天職を授かりました」
神父の次の言葉をジルは唾を飲み込み、視線を神父から逸らせることなく待っている。
「……あなたの天職は──三級の戦闘職、
その天職に──ジルは落胆の表情を浮かべてしまった。
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