第51話:夜の筋肉道場
しばし飛行していると、月夜に照らされた二つの人影が見えた。
一つはこの季節に似合わぬタンクトップに短パン、スキンヘッドという姿の大男だ。
全身が筋肉の塊でできたその体は格闘家のそれを
対峙しているもう一つの影は・・・少年だ。
トゲトゲと逆立った髪に、長袖のトレーナーを首に巻いてマントのようにし、半そでのシャツ、弛ゆるめのズボンを履いた見た目は、漫画に出てくる少年主人公といった出で立ちだ。
「フハハハハハ!少年よー!そこまでかー!?」
大男が攻撃を仕掛ける。少年はギリギリのところで連撃を回避しているが動きにキレがない。回避不可能になったのか大ぶりの一撃を食らいこちらに吹き飛ばされる。
俺はその少年をしっかりと受け止める。
「く、くそっ・・・全然勝てる気がしねぇ・・・」
すっかり戦意を喪失した少年が戦闘態勢を解除してうなだれている。
俺はとりあえず少年に疑問を投げかける。
「一体何をしてるんだ?助けが必要なら手を貸すが」
「いや、いいんだ。あの肉ダルマと対決してただけだから。おっちゃーん!今日もオレの負けだー!」
「少年よー!諦めが早くはないかー!?まあーいい!いつでも相手になってやるからー!またかかってくるがよーい!」
大男が威勢よく返事をしている。
どうやら敵対関係というわけではなく、彼らもまた魔法の修業をしていたということだろうか。
「にーちゃんたちも魔法使い?魔法使いって結構いっぱいいるんだね!」
嬉々とした表情で話しかけてくる。
「まぁ、そうらしいな。とりあえず事件性が無いのなら退散するとするか」
そういって帰ろうとすると大男が俺たちに大声で話しかけてくる。
「おい!そこの二人ぃー!お前たちも魔法使いなんだろー!?この俺とー!サシで勝負をー!しないかー!?」
どうやらあの大男は戦闘狂といった感じのようだ。
俺たちを見るや否ややる気満々といった様子で仁王立ちしている。
「やたら暑苦しい奴だなぁ・・・陸、どうすっか?」
「折角ですのでこの申し出、御受けしたいと思うのですが如何でしょう?」
そう話す陸の目は、まるで獲物を狙う野獣のような眼光であの大男を見据えている。
ここは陸のやる気を尊重して、あの大男と戦わせてみるのもいいかもしれない。
「んー、お前がそう言うなら俺は構わねぇよ」
俺が提案を承諾すると、陸はコクリと頷き、大男の前へと近寄っていった。
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